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粉砕された「聖女の台座」から火花が散り、会場内は騒然とした空気に包まれました。
リリィが膝をつき、絶望に顔を歪める中、審判席から身を乗り出したのはジュリアン王子でした。
「ナタリー……! 君という女は、どこまで僕を、そしてこの国を混乱させれば気が済むんだ!」
ジュリアンは震える指でナタリーを指差しました。
しかし、その表情には怒りだけでなく、隠しきれない焦燥と、ある種の執着が混じり合っています。
「混乱? 失礼な。私はただ、不適切な会計処理を正し、物理的な真実を提示しただけですわ。殿下、そのフリルだらけの正装も、そろそろ重荷なのではありませんか?」
「黙れ! いいか、よく聞くんだ、ナタリー。僕は……僕は、君を許すことに決めた!」
ジュリアンは突然、朗々とした声で宣言しました。
その場にいた全員が、耳を疑うような言葉に静まり返ります。
「……はい? 今、何と仰いました?」
「聞こえなかったのかい? 僕は、君のこれまでの不敬も、魔女の疑いも、すべて水に流そうと言っているんだ。やはり僕には、君のような……強靭で、事務処理能力に長けた女性が必要だと気づいたのさ!」
ジュリアンは審判席を駆け下り、ナタリーの前で片膝をつきました。
劇のヒーローを気取ったポーズですが、その足腰は頼りなく、小刻みに震えています。
「さあ、ナタリー。僕の元へ戻ってきなさい。君を再び僕の婚約者……いや、特別に正妃として迎えてあげてもいい。リリィとのことは、そう、ひと時の迷いだったんだ! 君という『安定した資産』こそが、僕の真実の愛だったんだよ!」
会場からは、あまりの図々しさに失笑が漏れました。
ナタリーは、自身の耳に届いた言葉を一つずつ反芻し、それから深いため息をつきました。
「殿下。まずはその、プルプルと震えている大腿四頭筋(だいたいしとうきん)を鍛え直してから、プロポーズをやり直していただけます?」
「な、なんだと……!?」
「いいですか。私がいた頃の王宮の予算、そしてあなたの贅沢三昧。それらを支えていたのは、私の情熱ではなく、単なる『計算』です。今の私に、その計算機を叩くメリットがどこにありますの?」
ナタリーは一歩、ジュリアンに詰め寄りました。
彼女から放たれる威圧感に、ジュリアンは後ずさり、尻餅をつきました。
「君、君は僕のことが好きだったはずだろう!? 僕の美しい横顔を見て、いつも溜息をついていたじゃないか!」
「それは『この顔の骨格のバランスを維持するために、どれほどのカルシウムが必要かしら』と呆れていただけですわ。……殿下、これだけはハッキリと申し上げます」
ナタリーは冷徹な眼差しで、這いつくばる王子を見下ろしました。
「私はね、一度ゴミ箱に捨てたものを拾う趣味はございませんの。不衛生ですもの」
「ゴ、ゴミ箱だと……!? この僕を捕まえて、なんて不敬な……!」
「不敬も何も、捨てたのはあなたの方でしょう? それを今さら、金欠になったから戻ってこいだなんて。……そんなみっともないことを仰る暇があるなら、まずはその『もやし』のような腕で、山積みの書類を自力で処理なさることね」
ナタリーが背を向けようとしたその時、背後で重厚な足音が響きました。
ルードヴィヒが、獲物を狙う獣のような鋭い視線でジュリアンを射抜きながら、ナタリーの肩に手を置きました。
「……殿下。俺の妻に、これ以上不愉快な言葉を投げかけるなら、俺の『筋肉』が黙ってはいない。……この要塞のような大聖堂を、俺の手だけで更地にする必要があるか?」
「ひ、ひぃぃっ……! べ、ベルンハルト辺境伯! これは王家の問題だぞ!」
「いいや、これは俺の家庭の問題だ。ナタリーをゴミ箱に捨てた不法投棄者は、速やかに退場してもらおう」
ルードヴィヒが低く唸ると、ジュリアンは情けない悲鳴を上げて、側近たちの影に隠れました。
民衆からは「そうだ!」「辺境伯様、かっこいい!」という歓声が沸き起こり、完全に会場の支持はナタリーたちへと移りました。
「……行きましょう、旦那様。ここにいても、筋肉の劣化を招くだけですわ」
「ああ、そうだな。……ナタリー、今の『ゴミ箱』の話、最高に面白かったぞ」
「あら、本心ですわよ? ……さて、アン。帰る準備を。……あ、でもその前に、リリィ様のあの魔道具、後学のために没収してちょうだい。中身の魔石、高く売れそうですもの」
「承知いたしました。……本当に、お嬢様は最後まで現金でいらっしゃいますわね」
ナタリーは、ジュリアンの絶叫を背に受け流しながら、堂々とホールを歩き出しました。
王都の最高権力者を一蹴した彼女の背中は、どの聖女よりも、そしてどの王妃よりも、力強く、美しく輝いていました。
リリィが膝をつき、絶望に顔を歪める中、審判席から身を乗り出したのはジュリアン王子でした。
「ナタリー……! 君という女は、どこまで僕を、そしてこの国を混乱させれば気が済むんだ!」
ジュリアンは震える指でナタリーを指差しました。
しかし、その表情には怒りだけでなく、隠しきれない焦燥と、ある種の執着が混じり合っています。
「混乱? 失礼な。私はただ、不適切な会計処理を正し、物理的な真実を提示しただけですわ。殿下、そのフリルだらけの正装も、そろそろ重荷なのではありませんか?」
「黙れ! いいか、よく聞くんだ、ナタリー。僕は……僕は、君を許すことに決めた!」
ジュリアンは突然、朗々とした声で宣言しました。
その場にいた全員が、耳を疑うような言葉に静まり返ります。
「……はい? 今、何と仰いました?」
「聞こえなかったのかい? 僕は、君のこれまでの不敬も、魔女の疑いも、すべて水に流そうと言っているんだ。やはり僕には、君のような……強靭で、事務処理能力に長けた女性が必要だと気づいたのさ!」
ジュリアンは審判席を駆け下り、ナタリーの前で片膝をつきました。
劇のヒーローを気取ったポーズですが、その足腰は頼りなく、小刻みに震えています。
「さあ、ナタリー。僕の元へ戻ってきなさい。君を再び僕の婚約者……いや、特別に正妃として迎えてあげてもいい。リリィとのことは、そう、ひと時の迷いだったんだ! 君という『安定した資産』こそが、僕の真実の愛だったんだよ!」
会場からは、あまりの図々しさに失笑が漏れました。
ナタリーは、自身の耳に届いた言葉を一つずつ反芻し、それから深いため息をつきました。
「殿下。まずはその、プルプルと震えている大腿四頭筋(だいたいしとうきん)を鍛え直してから、プロポーズをやり直していただけます?」
「な、なんだと……!?」
「いいですか。私がいた頃の王宮の予算、そしてあなたの贅沢三昧。それらを支えていたのは、私の情熱ではなく、単なる『計算』です。今の私に、その計算機を叩くメリットがどこにありますの?」
ナタリーは一歩、ジュリアンに詰め寄りました。
彼女から放たれる威圧感に、ジュリアンは後ずさり、尻餅をつきました。
「君、君は僕のことが好きだったはずだろう!? 僕の美しい横顔を見て、いつも溜息をついていたじゃないか!」
「それは『この顔の骨格のバランスを維持するために、どれほどのカルシウムが必要かしら』と呆れていただけですわ。……殿下、これだけはハッキリと申し上げます」
ナタリーは冷徹な眼差しで、這いつくばる王子を見下ろしました。
「私はね、一度ゴミ箱に捨てたものを拾う趣味はございませんの。不衛生ですもの」
「ゴ、ゴミ箱だと……!? この僕を捕まえて、なんて不敬な……!」
「不敬も何も、捨てたのはあなたの方でしょう? それを今さら、金欠になったから戻ってこいだなんて。……そんなみっともないことを仰る暇があるなら、まずはその『もやし』のような腕で、山積みの書類を自力で処理なさることね」
ナタリーが背を向けようとしたその時、背後で重厚な足音が響きました。
ルードヴィヒが、獲物を狙う獣のような鋭い視線でジュリアンを射抜きながら、ナタリーの肩に手を置きました。
「……殿下。俺の妻に、これ以上不愉快な言葉を投げかけるなら、俺の『筋肉』が黙ってはいない。……この要塞のような大聖堂を、俺の手だけで更地にする必要があるか?」
「ひ、ひぃぃっ……! べ、ベルンハルト辺境伯! これは王家の問題だぞ!」
「いいや、これは俺の家庭の問題だ。ナタリーをゴミ箱に捨てた不法投棄者は、速やかに退場してもらおう」
ルードヴィヒが低く唸ると、ジュリアンは情けない悲鳴を上げて、側近たちの影に隠れました。
民衆からは「そうだ!」「辺境伯様、かっこいい!」という歓声が沸き起こり、完全に会場の支持はナタリーたちへと移りました。
「……行きましょう、旦那様。ここにいても、筋肉の劣化を招くだけですわ」
「ああ、そうだな。……ナタリー、今の『ゴミ箱』の話、最高に面白かったぞ」
「あら、本心ですわよ? ……さて、アン。帰る準備を。……あ、でもその前に、リリィ様のあの魔道具、後学のために没収してちょうだい。中身の魔石、高く売れそうですもの」
「承知いたしました。……本当に、お嬢様は最後まで現金でいらっしゃいますわね」
ナタリーは、ジュリアンの絶叫を背に受け流しながら、堂々とホールを歩き出しました。
王都の最高権力者を一蹴した彼女の背中は、どの聖女よりも、そしてどの王妃よりも、力強く、美しく輝いていました。
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