婚約破棄された悪役令嬢、元婚約者様への復讐を。

桃瀬ももな

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「……素晴らしい。この人口密度、この熱気。まさに『金貨の川』が街中を流れているようだわ」

ノートン商業国の建国記念大バザール当日。
私はVIPエリアのテラスから、眼下に広がる喧騒を見下ろしていました。

仮面を被り、真紅のドレスを纏った私の姿は、今やこの街の「名物」の一つです。
通り過ぎる商人たちが、畏怖と期待の混じった視線をこちらへ向けてきます。

「ボス、報告ですわ! 例の『アルマ王国のポンコツ一行』、たった今、東門から入国しました! 公爵家の用意した豪華な馬車を見て、王子が『さすが私を歓迎する準備ができているな』って鼻の穴を膨らませてましたよ」

アリスがポップコーンを片手に、愉快そうに報告してくれました。
彼女も最近、すっかり私の「効率的な毒舌」に染まってしまったようです。

「そう。歓迎されているのではなく、単に『支払い能力のある獲物』として丁重に誘導されているだけだというのに。……アリス、彼らの動向を詳しく教えてちょうだい」

「はい! 聖女メル様は、宝石店のショーウィンドウに張り付いて『これ、聖女の私にぴったりだわぁ』って連呼しています。王子はその後ろで、引きつった笑顔で財布を握りしめてますね」

「ふふ、いい滑り出しね。……さあ、私も『ミス・クリスタル』として、彼らをお迎えする準備を整えなくては」

私はテラスを後にし、バザールのメイン会場へと向かいました。
会場は、ジェイド様が私の要望通りに「金持ちが正常な判断を失うほど豪華」に改装してくれました。

金の装飾、甘ったるい香料の匂い、そして絶え間なく流れる軽快な音楽。
これらはすべて、客の脳を適度に麻痺させ、消費欲を煽るための演出です。

「おや、主役の登場だね。……ミス・クリスタル、今日の君は一段と『冷酷な宝石』のように美しい」

会場の入り口で、ジェイド様が私を待ち構えていました。
彼は私の手を取ると、周囲の貴族たちに見せつけるように、恭しくエスコートのポーズを取ります。

「ジェイド様。演出過剰ですわよ。私の価値は、あなたのエスコートがなくても金貨数万枚分はあると自負していますけれど」

「ははは! 相変わらず厳しいね。……ほら、向こうから『歩く赤字垂れ流し機』がやってきたよ」

ジェイド様が視線で示した先。
人混みをかき分けるようにして、豪華な……けれどどこか時代遅れな礼装を着たカイル様と、あざといフリルだらけのドレスを着たメル様が現れました。

「……ここがノートンのバザールか。ふん、品がないな。金、金、金と、商業国というのはこれだから困る」

カイル様は、周囲の活気に圧倒されながらも、必死に「王族のプライド」を保とうと虚勢を張っています。
その隣では、メル様が落ち着きなく周囲を見渡していました。

「カイル様ぁ、あっちにすっごく高い魔石があるみたいですよ! 聖女の直感が『あれを買いなさい』って言ってるんですわ!」

「わ、わかった、メル。だがまずは公爵への挨拶が先だ。……お、あそこにいるのがジェイド・ノートン公爵か」

カイル様が私たちの方へ歩み寄ってきます。
私の姿が目に入った瞬間、彼は一瞬だけ足を止め、不可解そうに眉を寄せました。

「……公爵、そちらの仮面の女性は?」

「ああ、ご紹介しましょう。我が国の経済を支える新星、ミス・クリスタルです。今回のオークションのすべてを彼女に一任しています」

「ミス……クリスタル……?」

カイル様は、私の正体に気づく様子もありません。
それもそのはず。彼の中の「ダイヤ」は、いつも控えめに彼の後ろに控え、地味な事務仕事に追われていた影のような女だったのですから。

「……初めまして、カイル殿下。アルマ王国の噂はかねがね。特に、その『寛大すぎる財政支出』については、商人の間でも有名ですわ」

私は仮面の奥で、極上の皮肉を込めて微笑みました。
カイル様は、それが称賛だと勘違いしたのか、得意げに胸を張ります。

「ふん、王族たるもの、富を循環させるのが務めだからな。ミス・クリスタル、今日のオークションには期待しているぞ。この聖女メルにふさわしい至宝があるのだろうな?」

「ええ、もちろんですわ。殿下のような『真の価値がわかる方』にしか手に入れられない、伝説の品々をご用意しております」

「そうか! それは楽しみだ。メル、聞いたか? 私たちが来るのを、この国も心待ちにしていたのだ」

「まぁ! カイル様、素敵! さすが私の騎士様だわぁ!」

二人の浮かれた会話を聞きながら、私は隣に立つジェイド様と視線を合わせました。
ジェイド様の瞳には、「早くこいつらから金を毟り取ってくれ」という期待が溢れています。

「(カイル殿下。あなたが今、私のことを『ただの商人の女』だと思って見下しているその瞬間が、一番高くつく授業料になるのですよ)」

私は優雅に一礼し、彼らを会場の奥……「最もお金を使いやすい特別席」へと案内しました。

「さあ、ショーの始まりですわ。アリス、例の『聖剣(笑)』と『エリクサー(果汁)』、最高のタイミングで出す準備をしてちょうだい」

「了解です、ボス! 今日はお財布の葬式会場になりそうですわね!」

活気あふれるバザールの喧騒の中で、私は静かに獲物を追い詰める猟師の心境でした。
愛などという不確かなものではなく、数字という名の刃で、彼らの傲慢を切り刻んであげるのです。
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