婚約破棄された悪役令嬢、元婚約者様への復讐を。

桃瀬ももな

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「皆様、お待たせいたしました。今宵、この特別なオークションで皆様が手にするのは、単なる品物ではございません。それは……『運命』そのものですわ」

会場の照明が落ち、一点のスポットライトがステージ中央の私を照らし出します。
狐の仮面越しに見える観客たちの目は、欲望と期待でギラギラと輝いていました。

特に最前列、特別席にふんぞり返っているカイル殿下と、その腕に抱きついているメルさんの顔は、絶好の「カモ」のそれです。

「……さて、最初にご紹介いたしますのは、こちらの至宝ですわ」

私が合図を送ると、アリスが仰々しく黒い布を取り払いました。
銀の盆の上に鎮座しているのは、昨日私が川原で拾い、魔石の粉末を混ぜたロウで磨き上げた、握り拳ほどの大きさの「ただの石」です。

「これは……かつて失われた古代王国の聖女が、平和を祈って流した涙が結晶化したと言い伝えられる『祈りの聖石』。この石には、真の聖女にしか感知できない、極めて高純度の魔力が宿っておりますの」

「まぁ……! カイル様、見てください! あの石、私に向かって『迎えに来て』って語りかけていますわ!」

メル様が身を乗り出して叫びました。
彼女の「聖女の直感(という名の虚栄心)」が、見事に私の仕掛けた安っぽい演出に反応してくれたようです。

「ふむ……。確かに、あの神秘的な輝き。我が国の聖女であるメルにふさわしい品のようだな」

「左様でございますか。……ですが殿下、この石は大変希少なもの。既に多くの有力者から問い合わせが来ておりますのよ? 愛する方の願いを叶えるためなら、相応の覚悟が必要かもしれませんわね」

私は仮面の奥で、冷徹に微笑みました。
「希少」という言葉は、カイル殿下のようなプライドの高い男性にとって、最強の挑発剤です。

「ははは! 覚悟だと? この私を誰だと思っている。……よし、開始価格はいくらだ!」

「金貨百枚から、とさせていただきますわ」

会場から「おおっ」というどよめきが上がりました。
ただの石ころに金貨百枚。
王国の一般的な騎士の年収に匹敵する額です。

「百五十枚だ!」

すかさず、後方の席に座っていたジェイド様が声を上げました。
もちろん、価格を吊り上げるためのサクラ……いえ、市場を活性化させるための協力です。

「なっ……! 二百枚だ! この私より先に声を出すとは無礼な!」

「二百五十枚」

ジェイド様が余裕の笑みでさらに上乗せします。
カイル殿下の顔が赤くなり、額に青筋が浮かび始めました。

「カイル様ぁ、あの石がないと私、聖女としての力が弱まっちゃうかもしれません……っ。……ううっ、ひっく」

「メル! 泣かないでくれ! ……ええい、金貨五百枚だ! これで文句なかろう!」

カイル殿下が立ち上がり、拳を机に叩きつけました。
会場全体が静まり返ります。
ただの石ころ一つに金貨五百枚。……勝負あり、ですわね。

「金貨五百枚……。他にいらっしゃいませんか? ……おめでとうございます、カイル殿下。この『祈りの聖石』は、あなたの深い愛と共に、メル様のものとなりましたわ」

私は優雅に一礼し、心の中でガッツポーズを決めました。
原価ゼロの石ころが、王国の国庫を支えるべき金貨五百枚に化けた瞬間です。

「やりましたわ、カイル様! やっぱりカイル様は世界一の騎士様ですわね!」

「ふん、当然だ。この程度の出費、王家の財力からすれば端金に過ぎん」

カイル殿下は得意げに鼻を鳴らしていますが、その手元の帳簿を私が管理していたなら、今の出費だけで「来期の道路補修予算」が消滅したことを指摘してあげるところです。

「(……まあ、もう私の知ったことではありませんけれど)」

私はステージの袖に下がり、アリスと視線を合わせました。
アリスは指で「最高!」とサインを送ってきます。

「……ミス・クリスタル、実に見事な手際だったよ。あんな石ころに五百枚も払わせるとは、君は本当に『経済の死神』だね」

影から現れたジェイド様が、私の耳元で楽しげに囁きました。

「死神だなんて人聞きの悪い。私はただ、彼らの『欲しい』という気持ちに、正直な価格をつけただけですわ。……ジェイド様、次は例の『聖剣(笑)』の番です。さらに派手に演出してちょうだい」

「心得ているよ。……さあ、王子の財布が空になるまで、この『お祭り』を楽しもうじゃないか」

私は再びステージへと歩み出しました。
カイル殿下。あなたがかつて私に「お前の代わりなどいくらでもいる」と言い放ったその言葉。
今夜、その代償がどれほど高くつくか、骨の髄まで教えて差し上げますわ。

「……皆様。次にご紹介するのは、このオークションの目玉。建国時代の失われた伝説……『聖剣アロンダイトの残片』ですわ」

私は次の「ゴミ」……いえ、「至宝」を指し示しました。
復讐という名のビジネスは、まだ始まったばかりなのです。
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