婚約破棄された悪役令嬢、元婚約者様への復讐を。

桃瀬ももな

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「……さて、皆様。今宵の真打ち、真の伝説をその目に焼き付けてください」

私が指をパチンと鳴らすと、会場のすべての魔石灯が消えました。
静寂と暗闇が支配する空間に、突如として青白い光が浮かび上がります。

それは、水晶のケースに納められた、折れた剣の残骸。
昨日、私が安物の塗料と魔石の粉末で丹念に加工した、あの「漬物石の重し」だった鉄屑です。

「これこそが、建国神話に語り継がれ、三百年前に消失したとされる伝説の聖剣『アロンダイト』の欠片ですわ。この青い輝きは、選ばれた者にしか見えない『救国の光』……」

「お、おい見ろメル! 光っているぞ! 私にははっきりと見える!」

カイル殿下が椅子から身を乗り出しました。
実際には塗料のせいで誰にでも見えるのですが、私の「選ばれた者にしか」という言葉が、彼の安い自尊心をこれ以上ないほどに刺激したようです。

「まぁ……なんて神々しいのかしら。カイル様、あれこそ今のアルマ王国に足りない『権威』ですわ! あれがあれば、平民たちも黙り込みますわよ!」

メルさんの目が、金貨の形になって輝いています。
彼女は「聖女」としての箔をつけるために、形のある証拠を喉から手が出るほど欲しがっているのです。

「こちらの聖剣、本来ならば国宝として博物館に納められるべき品ですが、今回は特別に出品されました。……開始価格は、金貨一千枚から」

会場が一気にざわつきました。
一千枚。それは王国の小規模な街の一年分の税収にも匹敵する巨額です。

「……一千二百枚だ」

暗闇の中から、鈴を転がすような、けれど氷のように冷徹な声が響きました。
ジェイド様です。
彼は優雅に足を組み、退屈そうに指先を弄びながら、さらに価格を釣り上げます。

「なっ、また貴様か、ジェイド公爵! ……一千五百枚だ!」

「二千枚。……伝説の剣にしては、少々安すぎるのではないかな? 隣国の王子殿下」

ジェイド様の挑発的な言葉に、カイル殿下の顔が真っ赤に茹で上がりました。
彼はもう、これが本物の剣かどうかなど考えていません。
目の前の「商売敵」に勝つこと、そして隣で期待の眼差しを向けてくるメルさんに格好をつけること。
彼の脳内はその二点だけで埋め尽くされているはずです。

「二千五百枚……! いや、三千枚だ! 文句あるか!」

カイル殿下の叫び声が会場に木霊しました。
三千枚。……私の心臓が、歓喜のあまり一瞬、商売人としてのリズムを刻みました。
原価はほぼゼロ、作業時間も数時間の「ゴミ」が、王国の国家予算を揺るがす額に化けたのです。

「……三千枚。他にいらっしゃいませんか?」

私はわざと、ジェイド様の方を不安そうに見つめる演技をしました。
「もっと出せ」という無言の合図です。

「……三千五百枚」

「四千枚だぁぁぁ! これ以上は一歩も引かんぞ!」

カイル殿下はもはや半狂乱です。
隣のメルさんも「すごいですわカイル様! 歴史を買い取ったんですわ!」と拍手喝采しています。

「……四千枚。四千枚で、カイル殿下の落札ですわ」

私は重々しくハンマーを叩きました。
その瞬間、私の頭の中では「道路修復予算」「孤児院への助成金」「騎士団の装備更新費用」が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる音が聞こえました。
すべて、このおバカな王子の見栄のために消費されたのです。

「やった……やったぞメル! これで私は、伝説の聖剣を手に入れた王として、歴史に名を刻むのだ!」

「ええ、素敵ですわカイル様! ……あ、ミス・クリスタル、お支払いは後でいいわよね?」

メル様が、甘えるような声で私に問いかけてきました。
私は仮面の奥で、冷酷なサメのような笑みを浮かべました。

「もちろんですわ。ただし、我が商会は『即日決済』が基本。……今夜中に、お持ちいただいた全額をこの口座へ振り込んでいただきます。もし遅れるようであれば、公爵様を通じて外交問題として処理させていただきますが、よろしいですね?」

「外交……? あ、ああ、わかっている。金ならあるのだ、金なら……!」

カイル殿下は、震える手で懐の財布を握りしめました。
そこにあるのは、彼がこの国から融資を引き出すために持ってきた、最後の「頼みの綱」だったはずです。

「(……さあ、これで王国の国庫は完全に底を突いたわ。カイル殿下、あなたが今抱えているその『光る鉄屑』が、明日のパンも、兵士の給料も、何一つ生み出さないことに気づくのはいつかしら?)」

私はステージを降り、影で待機していたジェイド様とすれ違いました。
彼は私の腰を軽く抱き寄せ、誰にも聞こえない低い声で囁きました。

「実に見事だ、ダイヤ。君は一晩で、一つの国をペン一本動かさずに滅ぼしたね」

「滅ぼしたのは私ではありませんわ。彼らの『無知』と『虚栄』です。私はただ、それを適切な価格で買い取ってあげただけですの」

私は仮面を直し、出口へと向かいました。
背後では、偽物の剣を掲げて勝ち誇る王子と、それに群がる貴族たちの狂騒が続いています。

「アリス、次の準備を。……次は『未来を映す鏡(ただの曇りガラス)』を、あの聖女様に売りつけるわよ」

「ボス、もう勘弁してあげてください……。私、笑いすぎて腹筋が千切れそうですわ!」

アリスの笑い声と共に、私たちは夜の喧騒へと消えていきました。
悪役令嬢としての復讐は、まだ半分も終わっていません。
本当の地獄は、彼らが「無一文」になった瞬間に始まるのですから。
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