婚約破棄された悪役令嬢、元婚約者様への復讐を。

桃瀬ももな

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「……ふふ、ふふふ。あはははは! 見てちょうだい、アリス! この羊皮紙の束を! これこそが王国の鉄鉱山の採掘権、そして十か所の関税自主権よ!」

オークションの翌朝。
私はミス・クリスタルの執務室で、カイル殿下から毟り取ったばかりの契約書をデスクに広げ、狂喜乱舞していました。

「ボス、顔。顔が完全に悪の女幹部になってますわよ。あと、その羊皮紙を抱きしめて頬ずりするのは、衛生的にも令嬢の尊厳的にもどうなんですの……」

アリスが呆れたように、淹れたてのコーヒーを差し出してきました。

「何を言っているの。これはただの紙じゃないわ。アルマ王国の『未来そのもの』よ。カイル殿下は、あの曇りガラス一枚のために、国民の血税の源泉を私に差し出したの。……なんて効率的なの! 一歩も動かずに一国を経済植民地にするなんて!」

「……まあ、あの王子様、昨夜は宿屋の廊下で『未来が映らない!』って鏡を叩きながら号泣してましたからね。聖女メル様はメル様で、『この剣、光が消えたんですけど!?』って騒いでましたし」

「当然よ。あの塗料、六時間で発光が止まる仕様だもの。……さて、アリス。次のフェーズに移行するわ。これらの権利を、今度は小分けにして市場に再投資するの。利回りは最低でも……」

私が計算機を叩き始めようとしたその時、ノックもなしに扉が開きました。
朝の陽光を背負って現れたのは、黄金色の瞳を輝かせたジェイド公爵です。

「おはよう、私の愛すべき死神。……昨夜の君の活躍、ノートン中の商人が震え上がっていたよ。『アルマ王国の息の根を止めた仮面の魔女』としてね」

「ジェイド様。不法侵入は一回につき金貨十枚の罰金よ。……それで、何の用かしら? 勝利の美酒でも飲みに来たの?」

「いや。君に一つ、極めて論理的で利潤の大きい提案を持ってきたんだ。……ダイヤ、私と結婚しないか?」

私は計算機を叩く指を一瞬だけ止め、無表情(仮面ですが)のまま彼を見つめました。

「却下。結婚という行為に伴うコストと、それによって得られるリターンが釣り合っていないわ。家事、育児、親族付き合い……それらに割く時間を、新しい商売の開発に充てたほうが、期待値は三倍以上高いもの」

「ははは! 求婚を秒速で期待値計算されるとは! だが、私の話には続きがある。私と結婚すれば、ノートン公爵家の全資産……およそ金貨数千万枚規模の流動資産と、国内の全物流網の半分が、君の『運営資金』になる」

私は、椅子の背もたれから身を乗り出しました。

「数千万枚……? 流動資産で、それだけあるの?」

「ああ。さらに、私が隠し持っている未開発の魔石鉱山の所有権も、すべて共同名義にしてもいい。君がやりたい『経済の破壊と再生』に、無限の資本を提供しよう」

「……ジェイド様。あなたは、私に愛を求めているのではないの?」

「愛? そんな実体のない、揮発性の高い感情なんていらないよ。私は、君という『究極の経営資源』を独占したいだけだ。君が冷徹に金を稼ぎ、無能を蹂躙し、私の財産を膨らませていく……。その姿を一番近くで特等席として見ていたい。……これこそが、私にとっての『純愛』だよ」

私は、計算機をデスクに置きました。
これまでの人生で、これほどまでに胸を打つプロポーズがあったでしょうか。
「好きだ」「守りたい」なんていう不確かな言葉よりも、数千万枚の金貨と物流網の提示。
これこそが、私の魂が求めていた愛の形です。

「……ジェイド様。効率を考えれば、あなたの提案は『悪くない』どころか、『最高』の投資案件だわ。……いいでしょう。ビジネスパートナーとしての結婚、前向きに検討させていただきます」

「ふふ、即答だね。……嬉しいよ。君に私の資産を好き勝手に食い荒らされるのを、今から楽しみにしている」

ジェイド様は、私の手を取り、今度は非常に丁寧に指先にキスをしました。
アリスが後ろで「……もういいですわ、この人たち。勝手にやってください……」と天を仰いでいます。

「ところでダイヤ。君に一つプレゼントだ。……例の王子と聖女だが、ついに宿代が払えなくなって、ここの店の前で座り込んでいるよ。……どうする? つまみ出すかい?」

「あら、そんな非効率な真似。……せっかくの『集客材料』だわ。アリス、看板を出してちょうだい。――『伝説の聖剣を買い取ったおバカな王子様、展示中』。見学料は銀貨一枚よ」

「ボス! それ、外交問題どころか人道問題になりますわよ!」

「いいのよ。彼らはもう、自分たちのプライドを売るしか価値が残っていないのだから。……さあ、商売の時間よ!」

私は仮面を直し、窓の外を見下ろしました。
そこには、ボロボロになった聖剣(鉄屑)を抱えて呆然としているカイル様の姿が見えました。

愛よりも金、金があれば世界は回る。
そして、その金を無限に供給してくれる「変態」を手に入れた今、私の快進撃は誰にも止められないのです。
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