婚約破棄された悪役令嬢、元婚約者様への復讐を。

桃瀬ももな

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「……皆様、見てください! こちらが噂の『婚約破棄で国を傾かせた王子』、そして『自称・聖女の看板娘』でございますわ! 銀貨一枚で、彼らの隣で記念写真(似顔絵師による手書き)が撮れますわよ!」

アリスの威勢の良い声が、バザールの中心地に響き渡ります。
店の前では、首から『私は無能です』という看板を下げたカイル殿下と、『あざといだけが取り柄です』という看板を下げたメル様が、屈辱に顔を歪ませて立っていました。

「……ダイヤ、もうやめてくれ。通行人の子供にまで『おバカ王子だー!』と石を投げられるのは、もう耐えられない……っ」

「あら殿下。耐えられないのは、あなたの無能さのせいで税金が跳ね上がった王国の民草の方ですわ。……はい、メルさん。もっと愛想よく笑って。笑顔が消えると、夕食のスープから具が消えますわよ?」

「ううっ……。私、聖女なのに……。こんな、道端の石っころみたいな扱いをされるなんてぇ……っ!」

私が二人に容赦ない指導を行っていた、その時です。
大通りの向こうから、地響きのような馬蹄の音が聞こえてきました。

「どけ! 王族の行列である! 道をあけよ!」

白銀の鎧を纏った騎士団に守られ、豪華絢爛な馬車が店の前に急停車しました。
中から現れたのは、顔を真っ赤に染め、怒髪天を突く勢いの男――アルマ王国の国王、カイル殿下の父君でした。

「……カイル! 貴様、一体全体、何という無様な真似をしているのだ!」

「ち、父上……! 助けてください! この女……ダイヤが、私をこんな目に!」

カイル殿下は国王の足元に縋り付きましたが、国王はそれを力一杯蹴り飛ばしました。
そして、鋭い視線を私へと向けます。

「ダイヤ・フォス・アルマ! 我が国の公爵令嬢でありながら、王族をこれほどまでに辱めるとは、反逆罪に値するぞ! 今すぐ息子を解放し、奪った権利をすべて返却しろ!」

私は優雅に扇子を広げ、仮面の奥から国王を冷たく見つめました。

「お久しぶりですわね、国王陛下。……まず、一点だけ訂正を。私は既に『アルマ』の姓を捨てております。……それから陛下。ここはノートン商業国の領土内。あなたの『王命』は、ここではただの独り言に過ぎませんわ」

「貴様……! 恩知らずな女め! 我が国がこれまで貴様を育ててやった恩を忘れたか!」

「恩? ……ふふ。私が十年間にわたり、無能な王子の代わりに処理した公務の時給換算額、そして私個人の私財から補填した国庫の不足分。……これらを差し引くと、恩があるのは陛下、あなたの方ではありませんかしら?」

私は手際よく、懐から一通の「請求書」を取り出し、国王の鼻先に突きつけました。

「さらに、陛下。今ここに馬車を停めた場所は、私の商会の私有地です。……不法侵入および、営業妨害。加えて、その騒がしい騎士団の駐輪……いえ、駐馬料金。しめて金貨十枚、今すぐお支払いいただけますかしら?」

「金貨十枚だと!? 馬を停めただけでか!」

「ノートンでは時間が金なのです。……ああ、お支払いが厳しいようでしたら、陛下もそこの王子の隣で、もう一枚看板を持っていただきます? 『子育てに失敗した親です』というタイトルで」

「き、貴様ぁぁぁ!!」

国王が腰の剣に手をかけた瞬間、私の隣に静かに影が落ちました。
いつの間に現れたのか、ジェイド様が国王の手首を、まるでおもちゃを扱うような軽やかさで掴んだのです。

「……おっと。私の婚約者に手を出すのは、このノートン商業国への宣戦布告と受け取っていいのかな、国王陛下?」

ジェイド様の黄金色の瞳が、獲物を狙う猛禽類のように鋭く光りました。
その圧倒的な魔力と威圧感に、アルマ王国の騎士たちが一歩後退りします。

「ジェ、ジェイド公爵……! なぜ貴様のような男が、こんな女を庇う!」

「庇う? 違うな。私は彼女の『才能』という最高級の宝石を、横からかっ攫われないように見張っているだけだよ。……陛下、あなたの息子が売った鉄鉱山の採掘権、既にノートン公爵家の名義に書き換えを完了している。……文句があるなら、国際裁判所で争おうか? 我が国の弁護士団は、あなたの国の国家予算の数倍の費用で雇われているけれど」

「ぐっ……。くそっ……!!」

国王は顔を屈辱に歪ませ、震える手で懐から金貨の袋を取り出しました。
そしてそれを、地面に叩きつけるようにして放り投げました。

「……これでいいんだろう! 金は払った! カイル、メル! 今すぐ馬車に乗れ! こんな呪われた店に一秒も居たくないわ!」

「……あ、陛下。お帰りの際は、そちらの『おバカ王子セット』のレンタル料、清算をお忘れなく。……アリス、金額を提示して」

「はいボス! 看板使用料、衣装クリーニング代、そして精神的苦痛への慰謝料を合わせて、追加で金貨五十枚になります!」

国王は言葉を失い、喉を鳴らしながら、最後の一枚まで金貨を差し出しました。
そして、ボロ雑巾のようになったカイル殿下とメル様を馬車に放り込み、逃げるように走り去っていきました。

「……ふふ、あはははは! 見てちょうだい、ジェイド様! あの一国の主が、逃げ出す時の情けない顔! 最高のリターン(収益)だわ!」

私は仮面を外し、秋の空のように澄み切った笑顔で笑い声を上げました。

「ダイヤ。君は本当に、人の心を折るのが上手だね。……さあ、臨時収入も入ったことだし、今夜は二人で『今後の王国買収計画』について、ゆっくり語り合おうじゃないか」

「ええ、もちろん。……愛なんていう不確かなものより、確実な『債権』の方が、ずっと素敵な夜の会話になりますものね」

私は国王が落としていった金貨を一つ、指先で弾きました。
王国の滅亡は、もうすぐそこまで迫っています。
そしてそれは、私にとって「新しいビジネス」の始まりに過ぎないのです。
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