婚約破棄された悪役令嬢、元婚約者様への復讐を。

桃瀬ももな

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「……ちょっと! 離しなさいな! 私は聖女よ! この私が歩くだけで、ノートンの汚れた空気も浄化されるはずですわ!」

店の入り口で、金切り声を上げているのは、もはや「ボロ布の塊」にしか見えないメルさんでした。
カイル殿下が絶望のあまり噴水の前で固まっている隙に、彼女は最後の大博打……いえ、最後の大嘘を吐きに私の元へやってきたようです。

私は優雅に、ジェイド様が剥いてくれた「一房で金貨三枚」する高級ブドウを口に運びました。

「アリス、その騒がしい『異物』を中に入れなさい。……どうせ追い出しても、入り口で念仏でも唱えられて営業妨害されるのがオチですもの。中に入れて、徹底的に『検品』してあげるわ」

「了解ですわ、ボス! ……さあ、偽物聖女様、どうぞこちらへ。あ、床を汚さないように、その靴は脱いでビニール袋を履いてくださいね」

メルさんは屈辱に顔を真っ赤にしながら、ドタドタと執務室へ入ってきました。
彼女の身体に巻き付いたカビ臭い布からは、歩くたびに微かな埃が舞っています。

「……ダイヤ様! いえ、ミス・クリスタルだなんておこがましいわ! 正体を知って驚きましたわよ! あなた、聖女の私をあんな目に遭わせて、神罰が下ると思わないんですの!?」

「神罰? ……ふふ。神様がもし実在するなら、こんなに効率の悪い詐欺師を野放しにしていること自体、職務怠慢だわ。……それで、メルさん。わざわざ私の貴重な『一分につき金貨五枚』の時間を奪いに来た理由は?」

メルさんは、不敵な笑みを浮かべ、懐から小さな瓶を取り出しました。
中には、キラキラと光る桃色の液体が入っています。

「……これは、私の聖女としての魔力を極限まで濃縮した『奇跡の香水』ですわ。これを一振りすれば、どんな冷徹な男も私の虜になり、どんな不景気も一瞬で解決する……。……これを、あなたの商会で独占販売させてあげてもよろしくてよ?」

「……アリス、試薬を持ってきて」

私は、メルさんの差し出した瓶をピンセットでつまみ上げ、光にかざしました。
そして、アリスが持ってきた「成分分析キット」に一滴垂らします。

「……分析完了ですわ、ボス。成分の九十八パーセントが糖水と安い香料、残りの二パーセントは……ただの『ラメ入りの糊』ですわね。魔力反応は……ゼロ。むしろ、雑菌が繁殖してて肌に悪そうですわ」

「なっ、なな、なんですって!? 私の『聖女の力』が宿っているはずですわ!」

「メルさん。……あなたの言う『聖女の力』とは、単なる『周囲の無能を煽動する愛嬌』の誤解だったのではないかしら? ……いい? 現在のマーケットにおいて、根拠のない『奇跡』ほど流動性の低い資産はないのよ」

私は椅子から立ち上がり、メルさんの目の前でその小瓶をゴミ箱へポイと捨てました。

「ひ、ひどい……! 私の……私の最後の希望が……っ!」

「希望? いいえ、それは『在庫(ゴミ)』ですわ。……メルさん、あなたの罪は、自分に価値があると誤信し、他人の資産を不当に消費し続けたこと。……そして何より、私の時間を奪ったことよ」

私は、手帳を開き、彼女の目の前で「毒舌の弾丸」を連射しました。

「あなたの顔立ち。黄金比から三パーセント外れているわ。……あなたの泣き声。周波数が不快すぎて、顧客の購買意欲を十五パーセント低下させる。……そしてあなたのその知能。……ミジンコと交換しても、ミジンコ側が『損をした』と裁判を起こすレベルだわ」

「う、うわあああああん! そこまで言わなくてもいいじゃないですのぉぉ!!」

「泣いても無駄よ。涙一滴につき、脱水症状への補給コストが発生するだけだわ。……ジェイド様、この『賞味期限切れの聖女』、どこか適切な処理施設はありますかしら?」

影で私の毒舌タイムをうっとりと聞いていたジェイド様が、愉悦に満ちた声を上げました。

「……ダイヤ、君の『ゴミを見るような目』。……ああ、今日も最高に美しい。……そうだね、隣町の炭鉱で『看板の汚れ落とし』という仕事があるよ。聖女の祈りとやらで、煤を吹き飛ばしてもらおうか」

「ひっ、炭鉱!? そんなところ、私のお肌が死んでしまいますわ!」

「大丈夫よ。あなたには、私が売ってあげた『浄化のベール(カビ臭い布)』があるじゃない。それを全身に巻いて、精々、地の底で自分の無能を浄化しなさいな」

私はアリスに合図を送り、泣き叫ぶメルさんをつまみ出させました。
カイル殿下も、メルさんも、これで完全に私のポートフォリオから消去されました。

「……ふう。これでようやく、不採算部門の整理が終わったわ。……ジェイド様、残るは王国の『最終的な清算』ね」

「ああ。……君の言う通りに、王国の全債権を買い取っておいたよ。……さあ、ダイヤ。次は君が、あの国そのものを『リブランディング』する番だ」

ジェイド様は、私の肩を抱き寄せ、耳元で愛おしそうに囁きました。
私は窓の外、夕闇に沈みゆくアルマ王国の方角を見つめ、不敵に微笑みました。

「ええ。……無能が滅ぼした国を、有能が再建する。……これこそが、世界で最も効率的で、美しいハッピーエンドですわ」

計算機を弾く私の指先は、かつてないほど軽やかでした。
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