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「……皆様、本日はお忙しい中、我が『フォス・アルマ商会』と『ノートン公爵家』の経営統合記念式典にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
純白のウェディングドレス――の裾に、金糸で大きく我が商会のロゴが刺繍された特注品を纏い、私は演壇からマイク(魔石拡声器)を通して宣言しました。
会場は、隣国ノートンの大聖堂。
……といっても、祭壇には神父の代わりに巨大な「連結貸借対照表」が掲げられ、参列者の手元には祝辞の代わりに「新組織の組織図と今後の収益予測(案)」が配られています。
「おい、見ろよ。新婦の入場曲が、金貨がジャラジャラ鳴る音の録音だぞ……」
「誓いの言葉が『終身雇用と利益の最大化』って、そんな結婚式があるか?」
参列している他国の商人たちが困惑と興奮でざわついていますが、私は一切気にしません。
効率的に愛と利益を両立させる。
それこそが、新しい時代の王妃(予定)のあり方なのです。
「……さて、新郎。契約条項に変更はありませんわね?」
私は隣に立つジェイド様を見上げました。
彼は、いつになく正装を決めていますが、その瞳は相変わらず「変態的」な熱を帯びて私を見つめています。
「もちろん、ダイヤ。君に提示された『愛の独占禁止法』および『資産の共同管理義務』。全て一言一句異議なしだ。……ああ、最高だ。君が私を、人生を賭けた投資先として契約してくれるなんて!」
「……よろしい。では、誓いの印として……」
私が合図を出すと、アリスが神聖な台の上に乗せられた「指輪」ではなく、「一級公印」と「契約書」を運んできました。
「指輪の交換は非効率です。貴金属は相場の変動が激しいですから。代わりに、私たちの指紋を登録したこの『魔法契約書』に、互いの血と魔力を流し込み、永遠の経営提携を誓いましょう」
「くふふ、ははは! 指輪よりも重い、血の契約か! ダイヤ、君はどこまで私をゾクゾクさせるつもりだい!」
ジェイド様は迷わず指先を切り、契約書に鮮血の印を刻みました。
私も続きます。
書類が青白く輝き、二人の魔力が交じり合って「解消不能な契約」が完成しました。
「……皆様! たった今、ノートン公爵家と私の商会は完全に一つとなりました! これを記念して、本日ご列席の皆様には、新製品の『自動計算機能付き手帳』を、定価の二割引きで先行販売いたしますわ!」
会場から、割れんばかりの拍手……ではなく、商人たちの「商談成立だ!」という怒号のような歓声が上がりました。
これこそが、私の望んでいた式典の形です。
そんな狂乱の中、会場の隅に、ボロボロの格好で潜り込んでいた一団がいました。
かつて私を捨てた、アルマ王国の元王子カイル様と、元聖女メル様。
そして、今や「名誉のみの年金受給者」となった元国王陛下です。
「……ダイヤ……。あんなに、あんなに美しく、力強く輝いて……。……あれが、本当に私が『無能』だと決めつけて捨てた女なのか?」
カイル様は、壇上の私を呆然と見上げ、膝から崩れ落ちました。
彼の手元には、私が式典の余興として用意した『王国の失敗学:なぜ有能な秘書を手放すと国が滅びるのか』というパンフレットが握られています。
「カイル様ぁ……。あんなの、ただの金貸しのババアですわ……。私の聖女の力があれば、あんな契約書なんて……っ!」
メル様が喚いていますが、周囲の商人たちからは「うるさいぞ、炭鉱の娘」と冷たくあしらわれています。
彼女は今や、聖女としての輝きではなく、煤汚れの似合う「ただの騒がしい女」に成り下がっていました。
「……おやおや、ダイヤ。あの不良債権(カイル)たちが、また君を未練がましく見ているよ。……どうだい、今すぐ彼らを『式典の清掃スタッフ』として強制労働させようか?」
ジェイド様が私の腰を引き寄せ、耳元で心地よい低音を響かせました。
「いいえ、ジェイド様。そんな無駄な人件費、計上するだけ損ですわ。……彼らは、私たちの『過去の損切り(ロスカット)』の証。……そこに置いておくだけで、参列者に『無能の末路』を教える最高の生教材になりますもの」
私は冷徹に言い放ち、カイル様たちを一瞥もすることなく、正面を見据えました。
「(カイル殿下。あなたが私に求めたのは『可愛い人形』。……でも、ジェイド様が私に求めたのは『最強のビジネスパートナー』。……その差が、この結末ですわ)」
私は、ジェイド様が差し出した腕に、自分の手を重ねました。
「……さあ、ジェイド様。結婚式の後半戦よ。……次は、参列している十か国の商人たちとの『一斉商談タイム』を始めるわ。……一分も無駄にせず、今夜中に金貨百万枚の成約を達成しましょう」
「ははは! 新婚旅行の代わりに一斉商談か! いいよ、ダイヤ。……君と一緒なら、地獄の果てまで『利益』を追いかけられそうだ!」
私たちは、大聖堂のバージンロード……ではなく、「レッドカーペット(兼・新製品展示スペース)」を堂々と歩き出しました。
愛などという言葉では足りない。
これは、二人の天才による、世界の再構築。
悪役令嬢と呼ばれた私は、今、最強の伴侶と共に、誰にも文句を言わせない「富の頂点」へと駆け上がるのです。
純白のウェディングドレス――の裾に、金糸で大きく我が商会のロゴが刺繍された特注品を纏い、私は演壇からマイク(魔石拡声器)を通して宣言しました。
会場は、隣国ノートンの大聖堂。
……といっても、祭壇には神父の代わりに巨大な「連結貸借対照表」が掲げられ、参列者の手元には祝辞の代わりに「新組織の組織図と今後の収益予測(案)」が配られています。
「おい、見ろよ。新婦の入場曲が、金貨がジャラジャラ鳴る音の録音だぞ……」
「誓いの言葉が『終身雇用と利益の最大化』って、そんな結婚式があるか?」
参列している他国の商人たちが困惑と興奮でざわついていますが、私は一切気にしません。
効率的に愛と利益を両立させる。
それこそが、新しい時代の王妃(予定)のあり方なのです。
「……さて、新郎。契約条項に変更はありませんわね?」
私は隣に立つジェイド様を見上げました。
彼は、いつになく正装を決めていますが、その瞳は相変わらず「変態的」な熱を帯びて私を見つめています。
「もちろん、ダイヤ。君に提示された『愛の独占禁止法』および『資産の共同管理義務』。全て一言一句異議なしだ。……ああ、最高だ。君が私を、人生を賭けた投資先として契約してくれるなんて!」
「……よろしい。では、誓いの印として……」
私が合図を出すと、アリスが神聖な台の上に乗せられた「指輪」ではなく、「一級公印」と「契約書」を運んできました。
「指輪の交換は非効率です。貴金属は相場の変動が激しいですから。代わりに、私たちの指紋を登録したこの『魔法契約書』に、互いの血と魔力を流し込み、永遠の経営提携を誓いましょう」
「くふふ、ははは! 指輪よりも重い、血の契約か! ダイヤ、君はどこまで私をゾクゾクさせるつもりだい!」
ジェイド様は迷わず指先を切り、契約書に鮮血の印を刻みました。
私も続きます。
書類が青白く輝き、二人の魔力が交じり合って「解消不能な契約」が完成しました。
「……皆様! たった今、ノートン公爵家と私の商会は完全に一つとなりました! これを記念して、本日ご列席の皆様には、新製品の『自動計算機能付き手帳』を、定価の二割引きで先行販売いたしますわ!」
会場から、割れんばかりの拍手……ではなく、商人たちの「商談成立だ!」という怒号のような歓声が上がりました。
これこそが、私の望んでいた式典の形です。
そんな狂乱の中、会場の隅に、ボロボロの格好で潜り込んでいた一団がいました。
かつて私を捨てた、アルマ王国の元王子カイル様と、元聖女メル様。
そして、今や「名誉のみの年金受給者」となった元国王陛下です。
「……ダイヤ……。あんなに、あんなに美しく、力強く輝いて……。……あれが、本当に私が『無能』だと決めつけて捨てた女なのか?」
カイル様は、壇上の私を呆然と見上げ、膝から崩れ落ちました。
彼の手元には、私が式典の余興として用意した『王国の失敗学:なぜ有能な秘書を手放すと国が滅びるのか』というパンフレットが握られています。
「カイル様ぁ……。あんなの、ただの金貸しのババアですわ……。私の聖女の力があれば、あんな契約書なんて……っ!」
メル様が喚いていますが、周囲の商人たちからは「うるさいぞ、炭鉱の娘」と冷たくあしらわれています。
彼女は今や、聖女としての輝きではなく、煤汚れの似合う「ただの騒がしい女」に成り下がっていました。
「……おやおや、ダイヤ。あの不良債権(カイル)たちが、また君を未練がましく見ているよ。……どうだい、今すぐ彼らを『式典の清掃スタッフ』として強制労働させようか?」
ジェイド様が私の腰を引き寄せ、耳元で心地よい低音を響かせました。
「いいえ、ジェイド様。そんな無駄な人件費、計上するだけ損ですわ。……彼らは、私たちの『過去の損切り(ロスカット)』の証。……そこに置いておくだけで、参列者に『無能の末路』を教える最高の生教材になりますもの」
私は冷徹に言い放ち、カイル様たちを一瞥もすることなく、正面を見据えました。
「(カイル殿下。あなたが私に求めたのは『可愛い人形』。……でも、ジェイド様が私に求めたのは『最強のビジネスパートナー』。……その差が、この結末ですわ)」
私は、ジェイド様が差し出した腕に、自分の手を重ねました。
「……さあ、ジェイド様。結婚式の後半戦よ。……次は、参列している十か国の商人たちとの『一斉商談タイム』を始めるわ。……一分も無駄にせず、今夜中に金貨百万枚の成約を達成しましょう」
「ははは! 新婚旅行の代わりに一斉商談か! いいよ、ダイヤ。……君と一緒なら、地獄の果てまで『利益』を追いかけられそうだ!」
私たちは、大聖堂のバージンロード……ではなく、「レッドカーペット(兼・新製品展示スペース)」を堂々と歩き出しました。
愛などという言葉では足りない。
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