ようこそ摩訶不思議堂へ シリーズ

新雪小太郎

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ようこそ摩訶不思議堂へ 不思議な傘

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☂ 摩訶不思議な傘
梅雨の京都は、空まで考え込んでるみたいや。
真(しん)くんは駅前で立ち止まり、ため息をついた。
傘を忘れた。
こういう日は、決まってロクなことがない。
ポツ、ポツ、と雨が落ちてきたその瞬間、
目の前に一軒の小さな店が現れた。
「摩訶不思議堂」
暖簾は濡れているのに、文字だけが不思議と光っている。
中をのぞくと、例のおばあさんが、ずらりと傘を並べていた。
「坊や、今日はえらい濡れそうやなぁ」
「……また会いましたね」
「雨の日はな、“思い”が重なる日やさかい」
一本の傘が、真くんの足元でころりと転がった。
黒地に、少しだけ歪んだ赤い模様。
「それ、なんの傘ですか?」
「“言えんかった言葉”を聞かせる傘や」
嫌な予感がした。
でも、手に取った瞬間、雨音が変わった。
外に出ると、雨粒が声になって落ちてくる。
「ありがとう、言えへんかったな」
「ほんまは、寂しかった」
「行かんといて、って言いたかった」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
声の主は、もう会えない人たちやった。
学生時代の友。
すれ違ったまま別れた恋人。
病室で、何も言えんかった祖父。
傘の内側に、雨が落ちるたび、言葉が響く。
「……もうええ、もう十分や」
そう呟いた瞬間、雨がすっと静かになった。
振り返ると、おばあさんが立っていた。
「言葉ちゅうのはな、
 言えんかったから消えるんやない。
 言えんかったから、残るんや。」
真くんは、傘をたたんで差し出した。
「これ、返します」
「いらん」
おばあさんは首を振った。
「それはもう、坊やのもんや」
「でも……」
「傘はな、雨を防ぐもんやなくて、
 “濡れてええ気持ち”を守るもんや」
その言葉を最後に、
摩訶不思議堂は、雨に溶けるように消えた。
帰り道、雨はまだ降っていた。
でも、真くんは走らなかった。
傘の内側は静かで、
不思議と、心は軽かった。

その夜、夢の中で、
あの饅頭屋のおばあさんが、ぽつりと言った。
「摩訶不思議いうのはな、
 世界の話やない。
 人の心の奥に、最初からあるもんや。」
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