小太郎シェリーのものがたり 100億円の宝くじと立ち食いそば

新雪小太郎

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一文無しからの出発

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屋台の赤提灯が風に揺れ、そばの湯気が夜空に溶けていった。
百億円の当選券は、いつのまにか小太郎の懐で静かに眠っている。
「なあ小太郎」
シェリーが箸を止めて言った。
「お金って、不思議やね。あっても、今このそばの味は変わらへん」
「せやな」
小太郎は笑って、つゆを一口すすった。
「摩訶不思議堂のお婆さん、言うてたやろ。“本当に値打ちのあるもんは、買われへん”って」
その瞬間だった。
――コトン。
屋台の隅に、見覚えのある小さな木箱が置かれていた。
金色の留め具、かすれた文字。
『摩訶不思議堂』
「……来たな」
小太郎は立ち上がる。
箱を開けると、中には一枚の札。
次の旅は
失われた“時間”の中
選ぶのは
金か、人か、己か
そして、そばの器の底に、うっすらと渦を巻くような光が生まれた。
「え、ちょ、器が……!」
シェリーが声を上げる間もなく、
世界はぐにゃりと歪み、音が遠のいていく。
気がつくと――
そこは、時計の針が止まった街。
人々は動かず、雪も空中で静止している。
遠くに見えるのは、あの車椅子の老人。
だが今度は、若い頃の姿だった。
「小太郎」
老人はまっすぐこちらを見て言う。
「わしは、お前の“未来の一つ”や」
シェリーが小太郎の手を強く握る。
「選択の時間や」
老人は静かに微笑んだ。
「助ける人生、稼ぐ人生、逃げる人生。
どれも正解で、どれも不正解や」
小太郎は深く息を吸い、拳を握った。
「……せやけどな」
「俺は今日も、誰かの車椅子を押す方を選ぶわ」
その瞬間、止まっていた時計が一斉に動き出した。
摩訶不思議アドベンチャーは、
まだまだ終わらへん。
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