もう一人は、確かに存在した概略

新雪小太郎

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もうひとりは確かに存在した 外伝

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もう一人は、確かに存在した(続)
私は、死ぬはずだった。
一度ではない。
何度も、何度も。
最初は作業中だった。
足場が外れ、視界が反転し、五メートル下へ落ちた。
落ちる途中で、なぜか思った。
――ああ、またか。
次に目を開けたとき、私は自分の体を触っていた。
骨は折れていない。
血も出ていない。
周囲の人間の方が、よほど蒼白だった。
山道では車ごと落ちた。
ガードレールの向こうは、深い斜面だった。
転落の記憶は途中で途切れている。
気づいたとき、私は道の上に立っていた。
車は下にあった。
説明はされた。
「奇跡的に助かった」と。
だが私は知っていた。
これは奇跡ではない。
スポーツ中、鉄筋に頭を打ったときも同じだった。
鈍い音。
暗転。
しかし次の瞬間、私は立ち上がっていた。
誰かが叫んでいた。
私ではなく、私を見て。
――おかしい。
そう思い始めたのは、その頃だ。
私は「運がいい人間」ではない。
むしろ逆だ。
だが、結果だけが常に修正されている。
四年前、答えに一番近づいた。
心臓が止まった。
正確には、止められた。
冷やされ、沈黙し、
医師は「死亡時刻」を口にした。
私は、そこにいた。
体の感覚はなかったが、意識はあった。
遠くで、誰かが言った。
「……これで最後か」
その声は、
私の声だった。
次に目を覚ましたとき、私は生きていた。
医学的説明はいくらでもある。
だが、私には一つの仮説しか残らなかった。
――私は、入れ替わっている。
事故が起きるたび、
「私」と「もう一人の私」が、
どちらかを世界に残す。
落ちたのは、向こう。
死んだのも、向こう。
残ったのが、今の私。
では問いは一つだ。
なぜ、私は残され続けているのか。
最近、妙なことが増えた。
鏡を見ると、ほんの一瞬、
表情が遅れる。
写真の中の私は、
私より少し疲れている。
そして、時々思うのだ。
もしかすると、
これまで「助かった」と思ってきた事故は、
すべて――
向こう側で、私が死んだ証拠なのではないかと。
もしそうなら、
残り続けている私は、
本当に“本物”なのだろうか。
あるいは、
世界が選び続けているのは、
生き残る私ではなく、
死に慣れていない方の私なのかもしれない。
次に事故が起きたとき、
どちらが残るのか。
そのとき私は、
初めて分かるだろう。
四十年前に確かに存在した
もう一人の私が、
いまも、どこで息をしているのかを。
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