空想時代小説 晩年 永倉新八物語

新雪小太郎

文字の大きさ
7 / 37

新たなる来訪者とは

しおりを挟む
新たなる来訪者 —**
— 翌朝、雪庭の稽古 —
翌朝。
永倉新八は真之介を連れ、また雪庭へ出た。
「よいか、今日は“間合い”を教えるぞ」
そう言って構えたのだが、
足が雪に沈みこみ、
ズボッ
「……む?」
真之介がすかさず笑う。
「じいちゃん、まだ雪に勝ててないじゃん!」
「こら、これは“地を読む稽古”よ」
昨日と言っていることが違う気がしたが、
真之介は不思議と嬉しくなる。
新八が雪にずぼっとなる。
それだけで、一緒にいられる現在があった。
— 新八、ふと過去へ吸い込まれる —
稽古の途中、雪の白さがふっと霞む。
新八のまなざしは、遠い昔の風景へ吸い寄せられていった。
「じいちゃん?」
真之介が覗き込む。
新八は息を吸い、ぽつりと語った。
「……池田屋の夜ののち、わしらは“鳥羽伏見”へ向かった。
京の空気が変わり、時代が転げるように進み始めた頃よ」
真之介は静かに聞いた。
「その道中でな、土方と話したことがある」
新八の声は、火の残り香のように淡くゆらぐ。
「“新八、後悔はあるか”と聞かれた。
わしは答えたよ。
『生きとる限り、後悔は増えるばかりだ』とな」
「あれ、じいちゃん、弱気だったの?」
「……人間、強いばかりではおられん」
新八は苦く笑った。
「けれど土方はの、わしの肩を軽く叩いて言った。
『生きて増えるなら、後悔もええじゃないか。
生きちょれば、挽回の機会も、笑う機会もある』と」
真之介は目を輝かせた。
「かっこいい!」
新八はふと、照れ隠しのように咳ばらいする。
「……あやつは、よう笑わぬくせに、
たまにこう、人をまとめて背中を押すことを言うての」
その瞬間、屋根の雪がまた落ちてきて——
どさっ
新八の肩に直撃。
「むおっ!?」
「じ、じいちゃん! まただ! また雪が勝った!」
「勝っておらん!
こ、これは……昔の仲間の悪戯かもしれん……!」
新八が肩をさすりながら渋い顔をしていると、


そのとき、表に人影 —
玄関の方から、
雪を踏む音が聞こえた。
ギシ、ギシ……
真之介がそっと顔を向ける。
若い男がひとり、深々と頭を下げていた。
旅姿ながら、眼差しは澄み、
どこか懐かしい面影があった。
「……永倉新八さまに、稽古をつけていただきたく……
はるばる江別まで参りました」
新八は目を細めた。
「どなたの紹介かの?」
男は胸元から、一通の手紙を差し出す。
封には、古い筆跡で“勇”とある。
新八は、手紙を開く前に、相手の顔をじっと見つめた。
「おぬし……その眼差し。
まるで——」
男は深く頭を垂れ、名乗った。
「はい。
私は——
近藤勇の孫、近藤 勇太郎と申します」
真之介がびっくりして口をあける。
「えっ……じ、じいちゃんの大事な仲間の……!?」
新八は雪よりも白い息を吐いた。
「……勇の、孫……か」
声が震えたのは、寒さのせいだけではない。
— 新たな縁の始まり —
勇太郎は、言葉を続けた。
「祖父の名を継いだからこそ、
剣に驕らぬ、心ある者に学びたいのです。
——永倉先生に、教わりとうございます」
新八はしばらく黙っていた。
雪の粒が、ひとつ、またひとつと落ちてくる。
やがて、静かに言った。
「……よかろう。
わしも、勇に返せなんだ借りがある」
真之介が不満そうに言う。
「じゃあ、ぼくの稽古はどうなるの!?」
新八はふっと笑って答えた。
「ふたりまとめて教えてやるわ。
雪に負けぬ足、折れぬ心、その心得をな」
真之介と勇太郎が顔を見合わせる。
かくして——
新選組の“名の縁”が、孫の代で再びつながることとなった。
白い雪の中で、三人の影がゆっくりと揺れた。
明日からの雪庭は、にぎやかになるに違いなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

天正の黒船

KEYちゃん
歴史・時代
幕末、日本人は欧米諸国が日本に来た時の黒船に腰を抜かした。しかしその300年前に日本人は黒船を作っていた。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...