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新たなる来訪者とは
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新たなる来訪者 —**
— 翌朝、雪庭の稽古 —
翌朝。
永倉新八は真之介を連れ、また雪庭へ出た。
「よいか、今日は“間合い”を教えるぞ」
そう言って構えたのだが、
足が雪に沈みこみ、
ズボッ
「……む?」
真之介がすかさず笑う。
「じいちゃん、まだ雪に勝ててないじゃん!」
「こら、これは“地を読む稽古”よ」
昨日と言っていることが違う気がしたが、
真之介は不思議と嬉しくなる。
新八が雪にずぼっとなる。
それだけで、一緒にいられる現在があった。
— 新八、ふと過去へ吸い込まれる —
稽古の途中、雪の白さがふっと霞む。
新八のまなざしは、遠い昔の風景へ吸い寄せられていった。
「じいちゃん?」
真之介が覗き込む。
新八は息を吸い、ぽつりと語った。
「……池田屋の夜ののち、わしらは“鳥羽伏見”へ向かった。
京の空気が変わり、時代が転げるように進み始めた頃よ」
真之介は静かに聞いた。
「その道中でな、土方と話したことがある」
新八の声は、火の残り香のように淡くゆらぐ。
「“新八、後悔はあるか”と聞かれた。
わしは答えたよ。
『生きとる限り、後悔は増えるばかりだ』とな」
「あれ、じいちゃん、弱気だったの?」
「……人間、強いばかりではおられん」
新八は苦く笑った。
「けれど土方はの、わしの肩を軽く叩いて言った。
『生きて増えるなら、後悔もええじゃないか。
生きちょれば、挽回の機会も、笑う機会もある』と」
真之介は目を輝かせた。
「かっこいい!」
新八はふと、照れ隠しのように咳ばらいする。
「……あやつは、よう笑わぬくせに、
たまにこう、人をまとめて背中を押すことを言うての」
その瞬間、屋根の雪がまた落ちてきて——
どさっ
新八の肩に直撃。
「むおっ!?」
「じ、じいちゃん! まただ! また雪が勝った!」
「勝っておらん!
こ、これは……昔の仲間の悪戯かもしれん……!」
新八が肩をさすりながら渋い顔をしていると、
そのとき、表に人影 —
玄関の方から、
雪を踏む音が聞こえた。
ギシ、ギシ……
真之介がそっと顔を向ける。
若い男がひとり、深々と頭を下げていた。
旅姿ながら、眼差しは澄み、
どこか懐かしい面影があった。
「……永倉新八さまに、稽古をつけていただきたく……
はるばる江別まで参りました」
新八は目を細めた。
「どなたの紹介かの?」
男は胸元から、一通の手紙を差し出す。
封には、古い筆跡で“勇”とある。
新八は、手紙を開く前に、相手の顔をじっと見つめた。
「おぬし……その眼差し。
まるで——」
男は深く頭を垂れ、名乗った。
「はい。
私は——
近藤勇の孫、近藤 勇太郎と申します」
真之介がびっくりして口をあける。
「えっ……じ、じいちゃんの大事な仲間の……!?」
新八は雪よりも白い息を吐いた。
「……勇の、孫……か」
声が震えたのは、寒さのせいだけではない。
— 新たな縁の始まり —
勇太郎は、言葉を続けた。
「祖父の名を継いだからこそ、
剣に驕らぬ、心ある者に学びたいのです。
——永倉先生に、教わりとうございます」
新八はしばらく黙っていた。
雪の粒が、ひとつ、またひとつと落ちてくる。
やがて、静かに言った。
「……よかろう。
わしも、勇に返せなんだ借りがある」
真之介が不満そうに言う。
「じゃあ、ぼくの稽古はどうなるの!?」
新八はふっと笑って答えた。
「ふたりまとめて教えてやるわ。
雪に負けぬ足、折れぬ心、その心得をな」
真之介と勇太郎が顔を見合わせる。
かくして——
新選組の“名の縁”が、孫の代で再びつながることとなった。
白い雪の中で、三人の影がゆっくりと揺れた。
明日からの雪庭は、にぎやかになるに違いなかった。
— 翌朝、雪庭の稽古 —
翌朝。
永倉新八は真之介を連れ、また雪庭へ出た。
「よいか、今日は“間合い”を教えるぞ」
そう言って構えたのだが、
足が雪に沈みこみ、
ズボッ
「……む?」
真之介がすかさず笑う。
「じいちゃん、まだ雪に勝ててないじゃん!」
「こら、これは“地を読む稽古”よ」
昨日と言っていることが違う気がしたが、
真之介は不思議と嬉しくなる。
新八が雪にずぼっとなる。
それだけで、一緒にいられる現在があった。
— 新八、ふと過去へ吸い込まれる —
稽古の途中、雪の白さがふっと霞む。
新八のまなざしは、遠い昔の風景へ吸い寄せられていった。
「じいちゃん?」
真之介が覗き込む。
新八は息を吸い、ぽつりと語った。
「……池田屋の夜ののち、わしらは“鳥羽伏見”へ向かった。
京の空気が変わり、時代が転げるように進み始めた頃よ」
真之介は静かに聞いた。
「その道中でな、土方と話したことがある」
新八の声は、火の残り香のように淡くゆらぐ。
「“新八、後悔はあるか”と聞かれた。
わしは答えたよ。
『生きとる限り、後悔は増えるばかりだ』とな」
「あれ、じいちゃん、弱気だったの?」
「……人間、強いばかりではおられん」
新八は苦く笑った。
「けれど土方はの、わしの肩を軽く叩いて言った。
『生きて増えるなら、後悔もええじゃないか。
生きちょれば、挽回の機会も、笑う機会もある』と」
真之介は目を輝かせた。
「かっこいい!」
新八はふと、照れ隠しのように咳ばらいする。
「……あやつは、よう笑わぬくせに、
たまにこう、人をまとめて背中を押すことを言うての」
その瞬間、屋根の雪がまた落ちてきて——
どさっ
新八の肩に直撃。
「むおっ!?」
「じ、じいちゃん! まただ! また雪が勝った!」
「勝っておらん!
こ、これは……昔の仲間の悪戯かもしれん……!」
新八が肩をさすりながら渋い顔をしていると、
そのとき、表に人影 —
玄関の方から、
雪を踏む音が聞こえた。
ギシ、ギシ……
真之介がそっと顔を向ける。
若い男がひとり、深々と頭を下げていた。
旅姿ながら、眼差しは澄み、
どこか懐かしい面影があった。
「……永倉新八さまに、稽古をつけていただきたく……
はるばる江別まで参りました」
新八は目を細めた。
「どなたの紹介かの?」
男は胸元から、一通の手紙を差し出す。
封には、古い筆跡で“勇”とある。
新八は、手紙を開く前に、相手の顔をじっと見つめた。
「おぬし……その眼差し。
まるで——」
男は深く頭を垂れ、名乗った。
「はい。
私は——
近藤勇の孫、近藤 勇太郎と申します」
真之介がびっくりして口をあける。
「えっ……じ、じいちゃんの大事な仲間の……!?」
新八は雪よりも白い息を吐いた。
「……勇の、孫……か」
声が震えたのは、寒さのせいだけではない。
— 新たな縁の始まり —
勇太郎は、言葉を続けた。
「祖父の名を継いだからこそ、
剣に驕らぬ、心ある者に学びたいのです。
——永倉先生に、教わりとうございます」
新八はしばらく黙っていた。
雪の粒が、ひとつ、またひとつと落ちてくる。
やがて、静かに言った。
「……よかろう。
わしも、勇に返せなんだ借りがある」
真之介が不満そうに言う。
「じゃあ、ぼくの稽古はどうなるの!?」
新八はふっと笑って答えた。
「ふたりまとめて教えてやるわ。
雪に負けぬ足、折れぬ心、その心得をな」
真之介と勇太郎が顔を見合わせる。
かくして——
新選組の“名の縁”が、孫の代で再びつながることとなった。
白い雪の中で、三人の影がゆっくりと揺れた。
明日からの雪庭は、にぎやかになるに違いなかった。
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