空想時代小説 晩年 永倉新八物語

新雪小太郎

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永倉新八、孫に語る ― 土方歳三のこと

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夕餉を終え、囲炉裏の火がぱちりと鳴った。
孫の 真之介 は、膝にのせた木刀を磨きながら、新八の顔をじいっと見上げていた。
「じいちゃん……この前は沖田さんの話やったやろ。
ほな今日は、土方さんの話も聞かせてぇな」
新八は小さく笑い、湯飲みを置いた。
「ほうか。……あやつの話は、どれも胸ん中が熱うなるで。聞くか?」
「うん!」
◆「鬼の副長」は、ただの鬼ではなかった
「歳さんゆうたら、“鬼の副長”と呼ばれてたがな……あれは半分嘘や」
「えっ、鬼ちゃうん?」
「ちゃうわい。あれはな──“自分にも他人にも鬼ほど厳しい”ちゅう意味や。
ほんまの歳さんは……そらもう、よう笑う人やった」
「へぇ~!」
新八は懐かしむように空を見た。
「ある日のことや。
わしが稽古ん最中に足を滑らせてな、ずるっと行きかけたんや。
『あっ』思た瞬間、歳さんはヤケにすました顔でこう言いよった」
『永倉ァ、転ぶならもっと凛々しく転ばんかい』
「そんなん言われても転ぶんは恥ずかしいがな!
せやけどそのあと歳さんな……わしの背中をどついて、
『立て。侍は倒れる前に踏ん張るもんや』ゆうてな」
思い出したのか、真之介は肩を震わせて笑った。
「ほな、じいちゃん踏ん張ったん?」
「踏ん張ったで。格好だけはつけた。実際は足がぷるっぷる震えてたわい」
真之介は腹を抱えて笑った。
◆熱さの源は「仲間を守る心」
「歳さんはな、口はきついし人相も怖い。ほれ、おまえの婆さんも初見で逃げかけたわ」
「ばあちゃん逃げたん!?」
「逃げた。けど歳さんは気にせんと、
『永倉、嫁さん大事にせぇ。侍より大事やぞ』ゆうてのう……」
新八は遠い目をした。
「あやつの本当の鬼気はな……仲間のために燃やしとった炎や。
池田屋の前日、歳さんこう言うたんや」
『皆を、生かして帰したい。
この京に来た意味……死んだ仲間に恥じぬようにな』
「せやからあの夜、歳さんが刀を振るうた姿には……
鬼も仏もあらへんかった。ただの“覚悟”そのもんやった」
◆孫へ受け継ぐもの
真之介は静かに木刀を握りしめた。
「じいちゃん、土方さんは……怖い人ちゃうかったんやな」
「せや。たまらんほど、まっすぐな男やった。
曲がったことがだいっきらいでな。
自分の損得なんぞ、これっぽっちも考えへん言う、珍しいお人や」
「……かっこええなぁ」
新八は孫の頭をぽんと撫でた。
「おまえも、まっすぐなれ。曲がらんでええ。
歳さんほどには無理でもええけどな……
せめて、誰かのために踏ん張る。その心だけは忘れたらあかん」
囲炉裏の火がふっと揺れ、部屋の空気にぬくもりと静けさが満ちた。
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