空想時代小説 晩年 永倉新八物語

新雪小太郎

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墓前に立つ

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野党を追い払った翌朝。
山の空気は澄み、風がひんやりと肌をなでた。
真之介は家の手伝いで留守。
新八はひとり、
静かに墓前へと歩みを進めた。


墓石には、
近藤勇
土方歳三

そして名は刻まれていないが、
そこには“沖田総司”の魂も寄り添っている気がした。

新八はしゃがみこみ、線香に火をつける。

煙がゆっくりと空へ昇っていく。
その煙を、懐かしい顔が見守っているかのようだった。

新八は、ぽつりと語りかけた。

■ ■ 新八の語り

「……おい、近藤さん。
また昨日も、アホな連中が
あんたらの墓、荒らしよったで。」

煙がゆらりと揺れる。

「でもな……
わしと孫とで、ドドドドッと追っぱらうたったわ。」

土方に向かって笑いかける。
「土方さん、あんたの“情けは禁物”いう教え、
まだ忘れとらん。
けどな、
真之介は“情けの心”もしっかり持っとる子や。
わしより、よっぽど真っ直ぐや。」
また煙がふわりと揺れる。

それは沖田が、

「へぇ、いい子ですねぇ」と
微笑んでいるようにも見えた。

■ 若き日の記憶が胸を過る
新八は目を閉じた。
耳元に、
若い頃の笑い声がかすかに響く。
近藤が言った。

「新八、剣は怖がらせるために振るな。」

土方が言った。
「筋を通せ。曲がったことは許すな。」

沖田が言った。
「ねぇ新八さん、またみんなで稽古しましょうよ。」

あの三人の声が、
まるで昨日のように蘇る。
胸の奥がじんと熱くなり、
けれど痛くもあった。

■ 今の新八が伝えたい言葉
「……あんたらにな、報告あるんや。」
新八は空に目を向ける。

「真之介は強なる。
ただ斬るやのうて……
人の心、守れる強さや。」

近藤が誇らしげに笑い、
土方が満足げにうなずき、
沖田がひょいっと頭を傾けて微笑む姿が
目に浮かぶ。

新八は続けた。
「わしもな……
じいさんになってもうた。
けど、まだやることが残っとる。」

手を合わせ、深く礼をする。
「いつか会う日まで、
恥じん生き方、せんように務めるわ。」

その言葉は、
山の静けさとともに染み渡った。


■ 新八の背に、若き日の風が吹く
立ち上がると、
爽やかな風がふわりと吹き抜けた。
それは、
志を共にした仲間たちが
「行け、新八」と背を押してくれているようだった。

新八は手を振る。

「ほな、また来るで。
わし、もうちょい生きるさかいな。」
そしてふと、足を止めた。
「……近藤さん、土方さん、沖田。
わしな、
孫と歩く人生も、悪うないで。」

風がやさしく草を揺らした。
新八は微笑んで山を降りていく。

背中は、老いてなおまっすぐだった。
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