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じっちゃんの手刀
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翌朝。
まだ山の影が長く伸び残る時間に、
真之介たちは道場へ集まった。
新八は竹刀も木刀も出さず、
手のひらを前に出して言う。
「今日の稽古はこれや。」
丈太「え……手ぇだけですか?」 作松「え、ぼ、ぼく木刀の方が……」 権兵衛「……腹減った」
新八は咳払いし、
「剣はな、手の延長や。
手を知らんやつが、剣を語るな。」
三人は思わず背筋を正した。
真之介は、すでにじっちゃん語録を知ってるので
わくわくした顔で聞いている。
■ ■ 「受けて、払って、受けて、逃がす」
新八は四人の前に立ち、
スッと手刀を構えた。
「ええか、まず“受けて”——」
ひょい、と手のひらで見えない刃を受ける仕草。
「次に“払う”——」
スパッと風を切るように横へ払う。
「ほいでまた“受けて”、最後に“逃がす”。
決して受け止めたまま固まるな。
相手の力を利用して横へ逃がすんや。」
丈太がやってみる。
「こうで……こうで……こうで……あ、手がこんがらがった!」
作松は焦って逆方向に振り回し、
後ろの権兵衛の胸にコツン。
権兵衛「……痛い」
真之介は真剣に繰り返すが、
だんだん呼吸が浅くなる。
新八が指摘する。
「ほれ見い、呼吸が乱れとる。」
■ ■ 間合いと呼吸の稽古
新八はゆっくり歩きながら話す。
「剣は呼吸や。
息を吸うて——吐いて——止める。」
四人も真似する。
「吸うて……吐いて……止め……ぐるじぃ……!」
作松の顔が真っ赤になった。
新八「アホ、止めすぎや。
“無呼吸の間”っちゅうんはな、
短い刹那(せつな)でええんや。」
真之介はじっと集中し、
目を閉じて呼吸を整える。
新八はうなずく。
「そうや真之介。
呼吸と心はつながっとる。
乱れた呼吸は、乱れた心や。」
丈太が言った。
「じっちゃん……これ、いつまでやるんです?」
新八「一生や。」
三人「えぇぇーーーっ!?」
■ ■ じっちゃんの“間合いの歩法”
新八はさらに指示を出す。
「ほな次は“間合い”や。
相手に近すぎても遠すぎてもアカン。
“届くか届かんか”の距離が命や。」
新八は杖を地面に置き、
その先端を指先ぎりぎりで触らせるように歩かせる。
「この距離を保ちながら動け。
足をバタバタ出すな。
すり足や。地面の上を風のように……」
言い終える前に丈太がゴンッと躓き転ぶ。
「いででで!」
作松もすり足のつもりがペタペタ歩きで前のめりに。
権兵衛は一歩が大きすぎて杖を飛び越えてしまう。
新八はため息。
「お前ら……
風のように、言うたやろ……
どこがドタドタ暴風雨やねん。」
真之介は必死で距離感を掴もうとする。
「じっちゃん!
ぼく、このくらいの距離でええ?」
新八が頷く。
「そう。
相手を傷つけず、
自分も傷つかん距離や。
剣の命は“間(ま)”に宿る。」
一歩ずつ進む稽古
日が傾いてきても、
新八は休ませなかった。
「はい、“受けて、払って、受けて、逃がす”——
呼吸を合わせて——
間合いを意識して——
手ぇは剣の延長やぞ!」
真之介と仲間たちは
汗びっしょりになりながら必死で身体を動かす。
権兵衛だけが途中で言った。
「……腹減った」
新八はふっと笑って言う。
「腹が減るのは、生きてる証拠や。」
そして、全員の前に立つと
柔らかい声で言った。
「今日の稽古、よう頑張ったな。
剣の道は急ぐな。
ゆっくり、じっくり、積み重ねるもんや。」
真之介たちは息を整えながら
胸の奥が熱くなるのを感じていた。
■ ■ 新八、胸の内で思う
夕日が差し込む道場で、
新八は四人の背中を眺めながらつぶやく。
「……ええ目ぇしとるわ。
あいつら、伸びるで。」
どこか誇らしげで、どこか少し切ない。
「近藤さん、土方さん……
沖田……
わしはまだ、伝えられるで。」
その声は、
道場の柱にしみ込んで
静かに響いた。
まだ山の影が長く伸び残る時間に、
真之介たちは道場へ集まった。
新八は竹刀も木刀も出さず、
手のひらを前に出して言う。
「今日の稽古はこれや。」
丈太「え……手ぇだけですか?」 作松「え、ぼ、ぼく木刀の方が……」 権兵衛「……腹減った」
新八は咳払いし、
「剣はな、手の延長や。
手を知らんやつが、剣を語るな。」
三人は思わず背筋を正した。
真之介は、すでにじっちゃん語録を知ってるので
わくわくした顔で聞いている。
■ ■ 「受けて、払って、受けて、逃がす」
新八は四人の前に立ち、
スッと手刀を構えた。
「ええか、まず“受けて”——」
ひょい、と手のひらで見えない刃を受ける仕草。
「次に“払う”——」
スパッと風を切るように横へ払う。
「ほいでまた“受けて”、最後に“逃がす”。
決して受け止めたまま固まるな。
相手の力を利用して横へ逃がすんや。」
丈太がやってみる。
「こうで……こうで……こうで……あ、手がこんがらがった!」
作松は焦って逆方向に振り回し、
後ろの権兵衛の胸にコツン。
権兵衛「……痛い」
真之介は真剣に繰り返すが、
だんだん呼吸が浅くなる。
新八が指摘する。
「ほれ見い、呼吸が乱れとる。」
■ ■ 間合いと呼吸の稽古
新八はゆっくり歩きながら話す。
「剣は呼吸や。
息を吸うて——吐いて——止める。」
四人も真似する。
「吸うて……吐いて……止め……ぐるじぃ……!」
作松の顔が真っ赤になった。
新八「アホ、止めすぎや。
“無呼吸の間”っちゅうんはな、
短い刹那(せつな)でええんや。」
真之介はじっと集中し、
目を閉じて呼吸を整える。
新八はうなずく。
「そうや真之介。
呼吸と心はつながっとる。
乱れた呼吸は、乱れた心や。」
丈太が言った。
「じっちゃん……これ、いつまでやるんです?」
新八「一生や。」
三人「えぇぇーーーっ!?」
■ ■ じっちゃんの“間合いの歩法”
新八はさらに指示を出す。
「ほな次は“間合い”や。
相手に近すぎても遠すぎてもアカン。
“届くか届かんか”の距離が命や。」
新八は杖を地面に置き、
その先端を指先ぎりぎりで触らせるように歩かせる。
「この距離を保ちながら動け。
足をバタバタ出すな。
すり足や。地面の上を風のように……」
言い終える前に丈太がゴンッと躓き転ぶ。
「いででで!」
作松もすり足のつもりがペタペタ歩きで前のめりに。
権兵衛は一歩が大きすぎて杖を飛び越えてしまう。
新八はため息。
「お前ら……
風のように、言うたやろ……
どこがドタドタ暴風雨やねん。」
真之介は必死で距離感を掴もうとする。
「じっちゃん!
ぼく、このくらいの距離でええ?」
新八が頷く。
「そう。
相手を傷つけず、
自分も傷つかん距離や。
剣の命は“間(ま)”に宿る。」
一歩ずつ進む稽古
日が傾いてきても、
新八は休ませなかった。
「はい、“受けて、払って、受けて、逃がす”——
呼吸を合わせて——
間合いを意識して——
手ぇは剣の延長やぞ!」
真之介と仲間たちは
汗びっしょりになりながら必死で身体を動かす。
権兵衛だけが途中で言った。
「……腹減った」
新八はふっと笑って言う。
「腹が減るのは、生きてる証拠や。」
そして、全員の前に立つと
柔らかい声で言った。
「今日の稽古、よう頑張ったな。
剣の道は急ぐな。
ゆっくり、じっくり、積み重ねるもんや。」
真之介たちは息を整えながら
胸の奥が熱くなるのを感じていた。
■ ■ 新八、胸の内で思う
夕日が差し込む道場で、
新八は四人の背中を眺めながらつぶやく。
「……ええ目ぇしとるわ。
あいつら、伸びるで。」
どこか誇らしげで、どこか少し切ない。
「近藤さん、土方さん……
沖田……
わしはまだ、伝えられるで。」
その声は、
道場の柱にしみ込んで
静かに響いた。
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