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第五章
影の中で 6
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――結界が震えている。
聖ジョージ総合病院の正門の前で、九宇時加茂は静かに敵がくるのを待っていた。出で立ちは紋
入りの紫袴の装束。全盛期には劣るものの、加茂の霊能力は今なお鋭く、街中のほんの僅かな悪し
き気配でさえ見逃しはしなかった。
加茂が一線を退き、息子の那岐に退魔屋業を託したのは、肺の病のせいである。魔力で緩和する
事で何とか膠着状態を保っているものの、本来であれば戦うのは厳しい。だが、相手があのハサミ女
と知った以上、戦わないわけにはいかなかった。魔力を込めた鉱石を飲み込み、常時体を回復させ
ているような状態で、加茂は愛用の武器を手にここで門番をしている。鈴木と佐藤には中の守りを
任せてある。二人は宮瑠璃の我留羅には太刀打ち出来ないが、院内の守りは何も生きた人間だけ
ではない。巫術、魔術を始めとする数々のトラップも仕掛けてある。
「――来たか」
椅子から立ち上がり、加茂の目は邪気の気配を追った。
曇天の空の下を黒い何かが駆けてきた。
結界を察知してか、はたまた加茂を察知しての事か、黒い何かは、正門より数メートル手前で止
まった。
ハサミ女。
以前とは微妙に姿も違うし、呪力はそれほど強くないが、それでも恐ろしい相手だ。手には、あの忌まわしい大きなハサミと、見知らぬ少女の襟首を掴んでいる。
「十年ぶりだな」
両腰のホルスターから、グロッグ17Lを抜きながら、加茂はハサミ女に言った。
相手は、無言だ。元より言葉を発するタイプの我留羅ではない。
手に持った少女を放り捨て、ハサミ女は大きなハサミを構える。
かつて、息子と一緒に封じ込めた我留羅だ。何故今になって復活したのかはわからないが……。
「今日は私一人だが、我慢してもらおう。今度こそ貴様を祓ってやる」
二挺拳銃から雷電を纏った銃弾が発射される。ハサミ女の体に銃弾が着弾する手前で、大きなハサミが甲高い音を立てて、銃弾を弾き飛ばす。
「弾道が読めているのか」
しかし、それは想定の範囲内だ。加茂は怯まずに攻撃を続ける。動きは早いが、予想出来る。雷電を纏った銃弾が、ハサミ女の体を掠める。悪くない。もう一押しといったところか。
ハサミ女が、動く。目で追える。呪力でも追えている。狙いは外さない。次こそ、当てる――
「――!?」
すんでのところで、加茂は照準を外して構え直した。
ハサミ女は、自らが放り捨てた少女の前に立っていた。ここから見るに、少女は衰弱しているがまだ息はある。彼女も早く助けなければ。
ハサミ女が、大きなハサミを地面に突き刺す。それから少女の胸倉を掴み、持ち上げる。
「何をする気だ……」
ハサミ女の指が、少女の服を貫通する。血は、流れていない。突き刺したわけではない。霊体であるハサミ女の指が、少女の体を透過したのだ。
「……まさか」
ハサミ女の狙いに気付き、加茂は決死の覚悟で接近する。危険だ。今すぐ止めなければ!
ぞぶり、ぞぶり、と。生々しい音が聞こえる。加茂は銃を構える。狙いを定める。
――いや、駄目だ。間に合わない……!
聖ジョージ総合病院の正門の前で、九宇時加茂は静かに敵がくるのを待っていた。出で立ちは紋
入りの紫袴の装束。全盛期には劣るものの、加茂の霊能力は今なお鋭く、街中のほんの僅かな悪し
き気配でさえ見逃しはしなかった。
加茂が一線を退き、息子の那岐に退魔屋業を託したのは、肺の病のせいである。魔力で緩和する
事で何とか膠着状態を保っているものの、本来であれば戦うのは厳しい。だが、相手があのハサミ女
と知った以上、戦わないわけにはいかなかった。魔力を込めた鉱石を飲み込み、常時体を回復させ
ているような状態で、加茂は愛用の武器を手にここで門番をしている。鈴木と佐藤には中の守りを
任せてある。二人は宮瑠璃の我留羅には太刀打ち出来ないが、院内の守りは何も生きた人間だけ
ではない。巫術、魔術を始めとする数々のトラップも仕掛けてある。
「――来たか」
椅子から立ち上がり、加茂の目は邪気の気配を追った。
曇天の空の下を黒い何かが駆けてきた。
結界を察知してか、はたまた加茂を察知しての事か、黒い何かは、正門より数メートル手前で止
まった。
ハサミ女。
以前とは微妙に姿も違うし、呪力はそれほど強くないが、それでも恐ろしい相手だ。手には、あの忌まわしい大きなハサミと、見知らぬ少女の襟首を掴んでいる。
「十年ぶりだな」
両腰のホルスターから、グロッグ17Lを抜きながら、加茂はハサミ女に言った。
相手は、無言だ。元より言葉を発するタイプの我留羅ではない。
手に持った少女を放り捨て、ハサミ女は大きなハサミを構える。
かつて、息子と一緒に封じ込めた我留羅だ。何故今になって復活したのかはわからないが……。
「今日は私一人だが、我慢してもらおう。今度こそ貴様を祓ってやる」
二挺拳銃から雷電を纏った銃弾が発射される。ハサミ女の体に銃弾が着弾する手前で、大きなハサミが甲高い音を立てて、銃弾を弾き飛ばす。
「弾道が読めているのか」
しかし、それは想定の範囲内だ。加茂は怯まずに攻撃を続ける。動きは早いが、予想出来る。雷電を纏った銃弾が、ハサミ女の体を掠める。悪くない。もう一押しといったところか。
ハサミ女が、動く。目で追える。呪力でも追えている。狙いは外さない。次こそ、当てる――
「――!?」
すんでのところで、加茂は照準を外して構え直した。
ハサミ女は、自らが放り捨てた少女の前に立っていた。ここから見るに、少女は衰弱しているがまだ息はある。彼女も早く助けなければ。
ハサミ女が、大きなハサミを地面に突き刺す。それから少女の胸倉を掴み、持ち上げる。
「何をする気だ……」
ハサミ女の指が、少女の服を貫通する。血は、流れていない。突き刺したわけではない。霊体であるハサミ女の指が、少女の体を透過したのだ。
「……まさか」
ハサミ女の狙いに気付き、加茂は決死の覚悟で接近する。危険だ。今すぐ止めなければ!
ぞぶり、ぞぶり、と。生々しい音が聞こえる。加茂は銃を構える。狙いを定める。
――いや、駄目だ。間に合わない……!
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