ぐるりぐるりと

安田 景壹

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第五章

影の中で 8

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「でも、そろそろ終わりにしよう。わたしは次のレベルに行く。あんたたち雑魚には付き合っていられない」
「街を呪詛で満たすって奴か。そんな事して何になるんだ」
 問いながら、煌津は相手に攻め入るタイミングを探す。
「はっはっはっ。本物の素人さんの先輩にはわからないでしょうね」
「ああ、わからないね。とにかくヤバそうって事だけは理解してるよ」
「うーん。素直でよろしい」
「この……っ」
 苛立った煌津を、那美が手で制す。
「挑発に乗らないで。ムカつくのはわかるけど」
「九宇時先輩はわかっているんでしょ? わたしが何をしたいのか」
「さてね。オカルトマニアの考える事はわからない。でも……」
 スピードローダーを投げ捨て、那美は弾倉を元に戻す。
「見当はついているよ。宮瑠璃市ほどの街をもし呪詛で満たせるなら、大規模な異層転移を引き起こせる。それはつまり、巨大な異界へのゲートを開けるという事」
 銀色のリボルバーが、静星に向けられる。
「闇霧の世界へ行く気だね。静星乙羽」
 静星は満面の笑みを浮かべた。
「ご名答。まあ、さすがに九宇時先輩はわかるか」
 煌津には理解できなかった。
「闇霧の世界に……行く? そんなの自分一人で勝手に行けばいいだろ」
「ふふふふ、素人シロート♪」
 神経を逆撫でする笑いを浮かべながら、小馬鹿にした目で静星は煌津を見た。
「闇霧の世界への門は、ただでは開かない。供物が必要なの。街を飲み込むほどの血が、滅びても残るほどの怨嗟が、慈悲を最後の最後で踏みにじるほどの悪が! それほど純粋なものを捧げて初めて、闇への扉は開かれる!」
 静星は陶酔していた。彼女の狂おしいほどの暗黒への憧れを、煌津は感じ取っていた。何故そこまでして邪悪なものを求めるのか、やはり理解できない。
「……何であれ、君は止める。この街の人を、これ以上苦しめるわけにはいかない」
「心意気は立派だね。でも、ここから出る算段はあるの? 先輩」
 ぞわり、ぞわり、と。
 背後に迫るものを感じて、煌津は振り返る。
「うっ……」
 うねる、白いくねくねモドキの大群がすぐそばまでやってきていた。これほどの大群の接近に何故今の今まで気付かなかったのか。……眩暈がする。駄目だ。直視するのはまずい。
「落ち着いて。魔力を両目に集めるの」
 那美の両目が桜色に光る。那美の魔力が、くねくねモドキの放つ呪力を防いでいるのだ。煌津は己の中の魔力を見つめる。循環を感じる。魔力を少しずつ、両目に集めていく。
 真っ赤に光る両目の魔力が、煌津をくねくねモドキの呪力から守っていた。
「私は静星をやる」
 那美が、煌津の後ろに立ち、静かに言う。
「穂結君、くねくねモドキを炫毘で焼き払って。君の炫毘と天羽々斬なら、うまくすれば異層転移を起こせる。ここからも出られると思う」
「わかった」
 頷き、煌津は剣を構える。

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