探偵尾賀叉反『翼とヒナゲシと赤き心臓』

安田 景壹

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『翼とヒナゲシと赤き心臓』19

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19


 地中に引き摺り込まれた瞬間、咄嗟に腕を交差して顔を覆った。目、鼻、口、耳。出来るだけ灰の侵入を防ぐ。
 足に食い付かれている。灰の中でわかったのはそれだけだ。振りほどこうとするが、身動きが取れない。地中の中に潜む巨大な〝虫〟は決して叉反を放さない。喰らおうとしている。
 ――まずい!!
 だが体はどうしようもなかった。押し退けようにも灰が重過ぎる。〝虫〟の力は強く、その速度は早い――駄目だ、打つ手がない!
 視線を感じた。奇妙な事だが、今、こうして喰われそうになっているこの瞬間、叉反の意識は全く違う次元へ向けられる。
『――虫けら如きに何をしている?』
 あいつの声がした。ついさっき顔を合わせた怪物。蝙蝠の翼、蠍の尾、人の顔をした獅子。
『俺達の体はそんなもんじゃない。こんな息苦しいところにいつまでも捕まっているな。そら、お前に出来ないのなら、俺が代わってやる』 


 口を挟む暇もなかった。体の底から力が溢れてくる。全身の筋肉が撓み、傍聴したかのように瞬間発達する。
 ――赤い星が燃え盛る。獣の心を感じた――
「グルアァァ……」
 口の中で獣の声が漏れる。次の瞬間、自分の意志とは裏腹にとてつもない力が働いて、叉反は掴まれていた足を蹴り上げた。体は止まらない。自分では考えられもしなかった力で灰を蹴散らし、一気に地上へと飛び出す。
 ――さ、が……れ
 辛うじてそれだけを思う。だが、もはや叉反の体は叉反の意志を反映していない。五本の指が骨から変形し、肉食獣めいた禍々しさを備え、上腕は膨れ上がって姿勢は自然、前傾となる。
 犬歯は自分でもそれとわかるほど急速に伸びて、唇に牙の先端が触れた。
 衝動が体を突き動かそうとする。獣の衝動。本能のままに敵対者を仕留めたいと思う衝動。その蠱惑的なまでの衝動に呑み込まれないように、必死に叉反は自らの意識にしがみつく。


 叉反の葛藤をよそに灰を掻き分けて、大きな影が地中から姿を現す。
 消えそうな意識の中でも分析は出来た。昆虫だ。赤に近い茶の体色。突起のある特徴的な前脚はさながら土を破砕する馬鍬の刃先だ。昆虫の名はケラ。土中に潜む虫。
「……どういう事だ?」
 そのケラが喋った。発声は明瞭だった。子供の声だ。
「蠍のフュージョナーじゃないのか? あんた」
 同時にばちりという音がした。放電音とともに、たちまち緑光が巨虫の体を覆い、激しい稲光を放ちながら収束していく。
 光が収まると、少年が立っていた。仁くらいの、少年。両腕の皮膚は甲虫めいていて、人間の腕の形状でありながら、その側面からはケラの前脚が、まるで鎧のような硬質さを備えて生えていた。
「まあいい。何であれ獲物は獲物だ。殺してから他の奴に調べてもらおう」
 言うが早いか、少年は跳んだ。突風のように一直線に。


『ほう、来たか。どれ、俺が遊んでや――』
「――ッ、下がっていろ!!」
 内部の怪物が精神に顔を出したその瞬間、叉反は全力でそれに掴みかかった。精神の中での、力の戦いだった。鬣を掴み、引き摺り戻す。不思議と抵抗はなかった。ただ奴の笑みが見えた気がした。
構っている暇はない。瞬時に視界がクリアになった。変化していた体が一気に元へと戻る。少年の顔に戸惑いが生じた。すかさず掌打を打った。突撃に合わせた顔面の狙いの打撃。
 戸惑ってなお、少年の反応は見事だった。叉反の攻撃を瞬時に躱し、刃の腕を振るってくる。ぎらりと光る鍬状の刃にバラ手裏拳の左で応じる。ぶつけるのではない。相手の肩を打って止め、間を置かず右の掌打。空中でありながら、少年は体勢を変えた。身を引きながら足を蹴り上げて叉反の右腕を攻撃し、そのまま宙返りして着地する。
血が一気に湧いて出て来た。コートの裂け目が赤に染まる。アドレナリンが痛みを鈍くさせているが、傷は深い。致命傷ではないが、想定外の痛手だ。


 恐ろしい使い手だ。今の蹴りで、危うく右腕が死にかけた。構えを取る。思わず拳を握ってしまう。油断すれば、よもや……。
 着地した少年はそれを見て、素早く身に着けたマントの中に己の両腕を隠した。足元まですっぽり隠した灰色のマントに。
「何で戻るんだよ。あっちのほうが断然強そうだったのに」
 不満そうな顔で、少年は言った。あっち、というのは意識が呑まれかけていた時に起きた形態変化の事か。
「……子供と戦うつもりはない。お前が退くなら俺は追わない」
 いや、無駄な言葉だ。わかってはいる。態度は子供じみていても、あの眼は尋常の者のそれではない。
 案の定、冷め切った目つきで少年は笑った。


「はっ。大人は皆そう言うんだよね。オレみたいな子供には殺されないと思っている。いい気なもんだよ」
 少年の目が殺気でぎらついた。まるでそれに呼応するかのように、右腕の傷口が塞がっていくのがわかった。急速回復。それも速度はこれまでの比ではない。ここへ来てからはこれで二度目か。語りかけてくる怪物。制御出来ない肉体の変化。輝く、赤い星。
――俺の体に何をした?
「何をぼーっとしてるんだ」
 灰色の影が動いた。背後だ。殺意がすぐそばに迫る。足場が悪い。灰が積もった地は踏ん張りが利かない。判断は一瞬、素早く前に転がる。刃が空を切る。だが止まりはしない。起き上がりながら振り向けば二撃目が迫っている。右の掌打。少年は躱す。同時に相手の三撃目。視界に相手の姿をはっきり捉えた。左袖。右腕。掴み取ると同時に組み伏せた。


 灰の中に少年の体が沈み込む。抱きかかえるようにして右腕の動きを封じ、左腕を喉に当てながら裏から回した腕で頭部と左腕をロック。
「ぐうぅ……!」
 苦悶の声。今は届かない。このまま無力化する。あとは、締め落とすのみ―――――――――――――――――――――――――ばちり。
「ッ!」
「煙草臭えんだよ、オッサン!」
 咄嗟に組技を外せない。腕の中で放電とともに相手の体が膨れ上がるのがわかった。直後、両腕に刃が走る。血が噴出したその時には少年はすでに解き放たれ、鋸めいた刃が叉反の体を瞬く間に切り刻んだ。
 視界も、我が身も、真っ赤に染まった。動く事は不可能だった。血を流したまま、体は地面へと崩れ落ちる。
 地に伏した。出血は続いている。一度にあまりにも多くの血を流した。駄目だ。立てない。立たなければ。このままでは。
『――手を貸すか?』
 怪物が嘲笑う。何かが心の奥で灯った。
 黙っていろ――!


「あーもう、手間かけさせてくれんじゃん」
 少年の声が聞こえた。幼さが際立つ声が。
 集中する。出来る事はまだある。やれるかどうかはわからないが、やるしかない。
 少年が近付いてくるのがわかる。
「そのわりにまだ息があるし。決めた、お前はいたぶって殺してやる。相手がオッサンっていうのは色気ないけど、そのぶん、たくさん刻んでやるから」

「下らない真似はやめろ、ゴクク」

 新たな声がした。やはり子供の声だ。年端もいかぬ少女の声。
 とす、という微かな音がした。誰かがこの場に着地したのだ。
「トウリン。何でここに」
 少年――ゴククが驚いたような声を上げた。
「兄さんに言われた。お前が遊ばないように釘を刺せと」
「ははは。トウカツも疑り深いな。遊んでるかどうか見てみろよ、今から探偵の首を刎ねるところだ」
「いたぶって殺すとはっきり聞いた。兄さんに言いつけてやる」
 新手だ。厄介な事になった。
 だが――……


「その探偵を甘く見るな。仮にも嵐場を倒した男だ。殺すのならさっさと殺せ」
「ふん。ストーンも持ってなかった奴に勝ったからって何だってんだよ。所詮、オレの敵じゃない」
「なら、さっさとやれ」
 あくまでもぶっきらぼうな少女の言葉。ゴククは鼻を鳴らした。再びその足が近づいてくる。
 ぎりぎりまで引き寄せる。そう、あと二歩。一歩……。
 首筋に刃が当てられた。少年の足が見えた。
「あばよ、探偵」
 ――刹那――
 暗器のように構えた尾。唯一の武器を、筋肉を駆使して突撃させる。鋭く伸びた毒の針。フュージョナーたる叉反の隠し槍が、一直線にゴククを貫き――
「馬鹿が」
 少年が体勢を変えた。毒針は的を外した。
 その一瞬が狙いだった。


「なにッ!?」
 間髪入れずマントごと少年の足を掴み取る。動揺が文字通り手に取るようにわかった。加減をする余裕はない。掴みざま立ち上がり投げ飛ばす。その一連の流れの中で、第三の影が動いていた。少女。トウリン。やはりフュージョナーだ。緑電発光。この灰色の場では派手すぎるスパニッシュローズの鎌が襲い掛かってくる。ハナカマキリの双鎌。尋常なフュージョナーではない。鎌は金属のように滑らかに硬質化している。ゴククと同じく、触れれば切り裂く。
 風を裂く二本の鎌を、叉反は跳んで躱した。身はすでに軽い。血は失われたが、傷口は塞がっている。
「貴様……自分の意志で再生を!」
 トウリンが叫んだ。ご明察だ。自らの意志で塞いだ。それさえ出来れば、あとは流れのままにだ。距離を取って、構えを取る。全身が発熱しているかのように熱い。心臓が早鐘を打っている。急速に、血液が造られている。
「ゴクク!」


 トウリンが少年を呼んだ。灰色の影が視界の中で跳躍する。――二手に分かれた――小さく発光した緑電がまるで流星のように尾を引き――全身の細胞が活性化している――目で追えなくとも、気配はわかる。
 上下でくる!
 上方、下方。同時に掌打を叩き込んだ。手応えはない。インパクトの瞬間、跳んで勢いを殺している。間を置かず迫り来る刃と鎌。二者四手の乱舞。完全には躱しきれない。身を掠めても深くはやらせはしない。合間を縫い、飛び回る二人を打ち落とすかのように掌打。躱す二人を追わず、迫る二人を迎え打つ。退けばやられる。だが一度深く当てられれば――!
「「ハアァア――――ッ!!」」
「おォオオッ!!」
 三者の攻撃が激突した。左右から迫った刃と鎌、それを迎え撃った渾身の掌撃。
 両腕が血を噴く。斬られた。すぐには再生しない。
 しかし、手応えはあった。深く穿ったという手応えが。


「ぐぅ……」
「ちっ……」
 初めて――幼くして血と暴力にまみれた二人の戦闘者が、初めて――膝をついた。
 痛みを堪えながら、叉反は必死で念じた。つい今やったように。傷口を治すイメージ。再生していく感覚を脳裏に蘇らせる。裂けた皮膚、斬られた肉。傷口が瞬時に治癒していくように。
「――……刀輪とうりん等活とうかつ、それに極苦ごくくか」
 両腕が俄かに熱を帯び始める。自己再生の始まりだ。痛覚は鈍くなり、気を抜くと頭がぼうっとする。叉反は続けて言った。


「ゴクマの中に子供の殺し屋がいると聞いた。お前達がそうか」
 叉反の言葉に、少年と少女が同時に立ち上がる。顔つきが、俄かに変わっている。
「へえ。少しは勉強したんだ、ゴクマの事を」
「大した事はわからなかった。ゴクマが関わった事件の中で、生き残った者の証言にいくつか目を通した。片腕を切り落とされた男性が、年端もいかない子供にやられたと言っていた。警察は重体による記憶の混乱だと判断したらしいが……」
「片腕? うーん、どこだったかな。オレ、オッサン嫌いだから、わりとしょっちゅうやっちゃうんだけど」


 即座に伸びたトウリンの鎌が、少年の軽口を制した。
「余計な事を喋るな」
「へいへーい」
 ゴククは肩を竦める。
「何故、俺を狙う?」
 腕の調子と、彼らとの間合いを計りながら、叉反は言った。
「俺は被験者だったはずだ。あの白虎の少年がそう言った」
「ビャッコ? ああ、白王か。あいつはゴクマじゃない。ゴクマを仕切っている上の連中、《結社》の一員さ」
「ゴクク!」
「いいだろ? どうせあいつ殺すんだから」


 トウリンの非難を躱しながら、ゴククは一歩前へと出た。
「要するに探偵、あんたは《結社》という巨大な組織に目をつけられたんだ。この間の事件、覚えてるだろ? あんたが例の〝計画書〟に関わったあの一件さ。なまじあんたがあの一件を生き延びたせいで、結社はあんたをマークする事にしたんだ」
 ――数週間前の事だ。
 叉反はある人物が盗み出した〝計画書〟と、その人物の身柄を追っていた。陰謀によって織り込まれた追跡劇だ。盗み出された計画書はゴクマが進めているという秘密計画の物だったらしいが、実際の内容まではわからなかった。
 だが、戦いの終わりに、叉反はある人物から警告を受けた。正体不明の人物から。


 ――公安からお前のマークを外しておいた。最後のチャンスだと思え――
「……結社とやらの手は、どうやらかなり広く届くようだな」
「そうさ。何処で誰が見ているのかわかったもんじゃない。オレ達は結社の使いっ走りみたいな扱いだから、上位である連中の意向がいまいち掴めない。そのくせ奴等、人手が足りなくなると平気でオレ達をこき使う。たとえば、この秘密研究所を探ろうとした奴をオレに殺させたり、あるいは必要な実験動物がいなくなれば――」
 ゴククの赤茶けた腕刃に、緑の電流が走る。


「こうしてオレの体を使ったりする。ま、これに限って言えば不満ないけどね。おかげで裂くも刻むも思いのままさ」
 少年の顔が、まだ十歳くらいの少年の顔が、ひどく嗜虐的な笑みに歪んだ。他人をいたぶる事に楽しみを覚える人間。暴力と悦楽が結びついている。あの年頃の少年の中で。
「あんたが殺した嵐場は、所詮モンストロを使っちゃいない一般フュージョナーだ。ま、それでも強かったけど、オレほどじゃない。オレなら回帰のレールに乗ったりなんかしない」
追跡の最中、叉反はテロ組織ゴクマの人間達と関わり合う羽目になった。銃火を交える、という形で。
嵐場――嵐場道影。ライオンのフュージョナー。完全回帰してなお生命活動を保ち、そして叉反が自らの手で、殺すべくして殺した人間。
 そして、もう一人の男。計画書争奪戦においてゴクマを指揮し、決着を待たず消えた男。

――じゃあ、俺達は行くぜ。二度と会う事はないだろうが、せいぜい生き延びるんだな――
 
 ゴクマは今、ここにいる。この施設の中に。叉反の目の前に。
 という事は、まさか、あの男も……?
「もういいだろう」
 スパニッシュローズの鎌を伸ばして、トウリンが言った。目つきが変わっている。
「死ぬ男にこれ以上の話は無用だ。さっさと終わらせるぞ」
 ゴククが怪訝そうな顔をした。トウリンの表情から何かを読み取ったかのように。
「おいおい。まさか、あれをやるのかよ。こんな奴に必要ないだろ」
「さっきの攻撃。この男は私達の動きについてきた。さらに自己再生までモノにしようとしている。戦場での適応力は高いようだ」


 淡々と、少女は告げる。冷静に叉反を分析し、そして対処しようとしている。まだ仁とそう変わらない歳に見えるのに。彼女は一体何を見てきたというのか。
「これ以上こちらの動きに対応される前に殺す。確実にだ」
「だからって」
「あまり遅れるとトウカツも怒る。……そろそろ着く頃だしな」
 トウリンの言葉に、ゴククは不承不承といった様子で頷く。どうやら、二人には時間がないらしい。が、それ以上会話の内容を吟味する余裕はない。
「何故だ。結社が俺を実験に使うというのなら、俺を殺すのは結社の意に反するんじゃないのか?」
 ゴククの顔に嘲りが浮かんだ。
「はん、オレ達に結社の意向なんて関係あるかよ。ゴクマはゴクマだ。誰も彼も地獄に落とせばいいんだ」
「話は無用だと言った。その赤き心臓、奪わせてもらう」
 トウリンが鎌手を青眼に構えた。ゴククが刃の腕を、顔を覆うように振り上げる。もう腕は動く。叉反は構えた。次の攻撃は、これまでとは違う。


「「イクシード」」
 二人の声が重なった。緑電が静かに輝いた。灰色のマントが分解されていく。まるで風のように逆巻いて、電流が二人を包み込む。
 光が晴れ、再び現れたその姿は、まさに異様だった。
 まるで人型に模した虫だ。だがどちらも、その肌に弱々しさはない。金属的光沢をたたえたさながら鎧のような肉体。腕部のみならず脚部を覆う足甲、兜の如き頭部。赤茶の皮膚は重甲冑めいた重厚な容姿となり、手甲に付随していた鍬状の刃は禍々しいまでに大きく鋭く変化していた。どういう仕組みで変化したのかはわからないが、あの形状の狙いはわかる。対象を惨殺するため。肉を引き裂き、骨をも砕くため。


 対して、スパッニッシュローズの肉体は金属的皮膚に変化しながらも、決して鈍重な印象は受けない。全身を装甲しながらもボディラインを見せるその姿は、むしろ防御と軽さを兼ね備えているようで危険だ。両腕が変化した鎌は本人の足元に届くほどに長く、おそらくその動きは自在だろう。嫌なイメージが湧く。触れた者を地獄にまで連れて行く鎌。首筋に触れた瞬間、一気に肉体と切り離される――
「――蟲人態・甲。見せるのはあんたで二人目だ」
「〝心臓〟を上手く使うのだな。楽に死にたいなら別だが」
 ともに鎧の中からのようなくぐもった声で、二人が言った。
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