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第2章 眠れない騎士アランの憂鬱
13.選ばれなかったゆめうつつ_①
しおりを挟む――あたたかい。
体温の高い生き物に包まれている感触がする。
誰かに抱かれて眠るような記憶は無いので、あくまで想像でしかないけれど。
寒い日によくふとんの中で、同じく寒がりな猫を抱いて眠っていたことを思い出した。
前世の記憶だ。途端に鼻の奥がつんとする。
そういえばこの世界で初めて目覚めた時も、日記を抱いて眠っていたっけ。
その痛みでフェリーチェは目を覚ました。
ぼんやりと霞みがかる頭で一番に思ったこと。
微睡みはほんの一瞬で、すぐに思考は最優先事項へと切り替わる。
(帰らなくちゃ……!)
シンデレラではないけれど、まさに今のフェリーチェはその状態だった。
慌てて起き上がろうとして、自分の上に太くて長い腕が伸びていることに気付く。
アランの腕だ。隣りで眠る、半裸のアランの姿がそこにあった。
フェリーチェの頭の裏側にもあって、どうやら腕枕をしてくれていたらしい。夢の中の温もりの正体はこれだったのか。
フェリーチェが僅かに身じろぎすると、アランが眉根を寄せて微かに呻く。
ぎくりと心臓が跳ね、咄嗟に動きを止め息を呑んだ。今目を覚まされると非常に困る。
しばらくするとアランは寝返りをうち、剥き出しのままの肩が上下し出した。また眠ってしまったようだった。
その様子にほっと胸を撫で下ろし、アランの腕から解放されたフェリーチェは脱げかけたままの服を胸元に掻き集めながら、ゆっくりと行動を開始する。
なるべく気配を押し殺しながらベッドから下り、脱ぎ捨てられていた自分のものを手早く拾い集めた。
(まさか寝ちゃうとは……! いや、気絶? とにかくはやく、ここを出ないと……!)
時間を確認しようとしたけれど、時計が見当たらない。
カーテンの隙間から覗く窓の向こうはまだ明るい。
おそらくそこまで長い時間は経っていないはず。
身支度を整えるのもそこそこに、フェリーチェはさっと自身を確認する。
リボンに釦に身に付けていた衣服に欠けはないか。アクセサリーは身に付けて来なかった。髪をまとめていた留め具もリボンもちゃんとある。
決して忘れものをしないように、自分の痕跡を残さないように。
抱かれた痕が残るのは当然だ。すべては消せない。
だけどその相手が自分であることを、決して残していくわけにはいかなかった。
アランが目覚めるまで待つことは決してしない。
それが今回一番気をつけていたことで、一番最初に決めていたこと。
もっと言うと、アランには役割を終えた後、必ず眠っていてもらう必要があった。
情事に疎いので事後の様子はイメージしきれず、最悪の事態に備え睡眠薬まで持参してきたくらいだ。でないと彼を選んだ意味がない。
アランには、ひみつがある。
彼は女性を抱いたあとに、忘れてしまうのだ。その直前での出来事を。
だけど彼はその行為をやめられない。誰かを抱かずにはいられない。
でないと、眠れないのだ。
それは彼が王城でまだ王位継承権を持っていた時に、覇権争いで受けた傷だった。
そのひみつはゲーム内でヒロインがアランと初めて結ばれた後に知る事実。アランは平時は隠している情報だ。
来る者は拒まないし、必要時には自分からも声をかける。設定に違わぬ遊び人でチャラ男。
完全に割り切った関係を促して、事後は一切関わらせない。
文字通りその場限りの関係だからだ。
フェリーチェはそれを利用したのだ。
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