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第2話:怪しい客と消えた商品!
しおりを挟む「いらっしゃいませー!」
ミュリが元気よく声を張る。
俺も朝から雑貨屋の手伝いを
しながら、店の様子を観察
していた。
異世界の商売って、
意外と原始的だな……。
俺の前世は、
マーケティング・コンサル会社
の万年主任。企業の販売戦略や
広告戦略を考えるのが仕事
だった。まあ、上司の顔色を
伺いながら働くのに疲れて、
出世も諦めた社畜だったが……。
「お兄ちゃん、
今日もお店手伝ってくれる?」
「ああ、もちろんだ」
ミュリの店は、スパイスや
ハーブ、保存食なんかを
売る小さな雑貨屋だ。
俺が異世界の通貨や商習慣を
学びながら、マーケティング
の知識を活かして改良を
加えていく。
「昨日のポップ、やっぱり効果
あったみたい!」
「そりゃそうだろ。商品の魅力を
伝えなきゃ、客は買いたく
ならないからな」
消費者心理は異世界でも
変わらん。人は感情で買い、
理屈で正当化するもんだ。
俺は売り場を見回しながら、
さらに改善点を考える。
「ミュリ、ちょっと試したい
ことがあるんだけど」
「なに?」
「このハーブ、試供品として
小分けにして無料で
配ってみよう」
「えっ!? そんなの、
もったいなくない?」
「いや、試してもらえば
良さが分かるだろ? それに、
客が一度気に入ったら
リピートしてくれる」
いわゆる
“サンプリング戦略”だ。
現代のマーケティングでは
当たり前の手法だが、
異世界ではどうだろう?
「なるほど……
じゃあ、やってみる!」
俺は手際よく、ハーブを
小袋に分け、シンプルな
説明書きをつけた。
《お試し用! 風邪予防に
最適なハーブティー》
店先に置くと、興味を
示す客がちらほら出始めた。
「おや、これって何かしら?」
「風邪予防にいいハーブです。
試しに飲んでみませんか?」
客が試供品を受け取り、
しばらくすると……
「さっきのハーブ、
すごくいい香りだったわ!
ひと袋ちょうだい」
「俺も。妻が風邪気味だから
買っていくよ」
「やったー! 売れたね!」
ミュリが嬉しそうに笑う。
ふっ、マーケティングの
勝利だな。やっぱり、
俺の知識は異世界でも
通用する。
怪しい客、現る
そんな風に順調に売上を
伸ばしていた昼下がり、
店に一人の男が現れた。
「おい、ミュリ」
ガラガラと店の扉を開け、
嫌な笑みを浮かべる男。
ボサボサの髪に、
くたびれた革の上着。
いかにも胡散臭い。
「……あんた、また何の用?」
「そんな怖い顔すんなよ。
ちょっと相談したいことが
あってな」
ミュリは俺の方をちらっと
見てから、店のカウンター
に立った。
「……何?」
「この間の借金の話、
覚えてるよな?」
借金!?
俺は眉をひそめる。
ミュリの表情が明らかに
曇った。
「でも、もう返したはず……」
「いやぁ、新しい利息が
ついちまってな。ちょっと
計算ミスがあってよ。
あと三日以内に銀貨五枚、
払ってもらわねぇと困るんだ」
「そんな……!」
ミュリの顔が青ざめる。
これ、絶対に悪徳業者の
手口じゃねえか。
「ちょっと待て」
俺が口を挟むと、
男は俺をじろりと睨んだ。
「……誰だ、お前?」
「レオンだ。ミュリの店を
手伝ってる」
「へぇ……
新しいガキの取り巻きかよ」
こいつ、ムカつくな。
「で? その銀貨五枚って、
どういう計算なんだ?」
「はぁ? そりゃあ、こっちの
帳簿にちゃんと──」
「見せろよ、その帳簿」
男はギョッとした顔をした。
「……こ、こまけぇことは
いいんだよ! とにかく払え!」
「いやいや、
細かいことが大事だろ?
だいたい、貸した金の利息が
そんな急に増えるわけないだろ。
おかしいと思わないか?」
俺は冷静に詰め寄る。
「……ちっ!」
男は舌打ちし、「考えとけよ」
と捨て台詞を吐いて出て
行った。
「ミュリ、大丈夫か?」
「う、うん……」
ミュリは明らかに不安そうな
顔をしている。
これは放っておけねぇな。
よし、やるか。
消えた商品
翌朝、店に来ると、
ミュリが慌てた様子で
飛び込んできた。
「お兄ちゃん! 大変!」
「どうした!?」
「ハーブが……盗まれたの!」
「……は?」
店の棚を見ると、昨日用意した
試供品とハーブの束が
ごっそり消えていた。
「くそっ、やられたか……」
俺は奥歯を噛み締めた。
昨日の男が怪しい。
利息で脅してダメなら、
直接盗むってか?
ふざけやがって。
「警備隊に届ける?」
「いや、証拠がないと
動いてくれないだろうな」
俺は腕を組んで考える。
ハーブを盗んだってことは、
それを売るつもりだろう。
なら……
「ミュリ、街の市場に行くぞ」
「えっ?」
「盗んだハーブが売られてる
かもしれない」
市場に行くと、案の定、
例の男が路地裏でハーブを
売っていた。
「おい、お前!」
俺が声をかけると、
男はギクリとする。
「なんだよ?」
「そのハーブ、
どこで手に入れた?」
「そ、それは……」
「昨日、ミュリの店から
盗んだものだろ?」
「証拠あんのかよ!」
「証拠ならあるぜ」
俺は懐から取り出した袋を
見せた。ミュリの店で
使っている、オリジナルの
包装袋だ。
「お前の売ってるハーブも、
同じ袋に入ってるよな?」
男は蒼白になり、
慌てて逃げ出したが……
「ほら、捕まえろー!」
俺の声で市場の警備隊が動き、
男はあっさりと捕まった。
「すごい、お兄ちゃん!」
ミュリが目を輝かせる。
「へへ、マーケティングだけ
じゃなくて、危機管理も
仕事のうちだからな」
俺はそう言って、胸を張った。
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