扉を開けたらそこは異世界

さやかとゆうきの母

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番外編、亜梨子の受難

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「遅くなっちゃった」
 戦争が終わって日本は負けて国中が焼け野原になった。
 
 亜梨子の両親も空襲によって命を散らした。

 ただし、家は焼け残っていたし畑もあったので一人でもなんとかやっていくことができた。
 それに学校もなんとか卒業できたので小さな会社の事務員の仕事をみつけることができた。

「お帰りなさい、お姉ちゃん」
 家には五人の子供が彼女を待っていた。
「ただいま、幸子、お姉ちゃんがいない間、誰か来た?」
 
 どちらもそっくりな顔をしている双子なのだ。
 お姉ちゃんと言っているが三人とも、血縁関係はない。亜梨子が焼け野原で泣いていた二人を家まで連れてきたのだ。
 実際のところ、幸子や真知子のような戦災孤児はあちこちにいる。
 
 家に連れてきたことを近所の人には咎められたが、そのまま放置することが亜梨子にはできなかったのだ。
 
「ここは、」
 亜梨子は周囲を見回した。
 気が付いたら真っ白な空間にいた。
「私は家に帰ってきたはずなのに」
 いつの間にか家は幻のように消えた。
 
 彼女は思い出した。
 仕事が忙しく帰りが夜中になってしまった。
 暗い夜道、急いで家路を歩いていた彼女の前に一人の男が現れそして、彼女は……。
 
 男に包丁で刺された彼女はその場にうずくまった。
 
 男は亜梨子が持っていたバックを掴むと奇声をあげながら走り去った。
 あの時、私は死んだんだ。
 戦争が終わって戦地から沢山の兵士が戻ってきた。ただし、彼らには仕事がなかった。日本が負けたので誰も彼らを助けてくれなかった。

 もっと、用心すればよかった。
 戦地から帰ってきて、仕事もなく食べるモノにも困った連中が犯罪を起こすのは当たり前の世の中だった。

 死にたくない。
 自分が死んだら家で待っている幸子や真知子がどうなるんだろう。
 三人で生きていくのがやっとで貯金はほとんどない。 

 自分がいなくなったらあの二人はどうするだろう。
 二人は自分の身内ではない。家の名義は自分になっている。
 いや、自分という保護者がいなくなったことによって二人は施設に入れられてしまうのではないか。

 それだけが心残りだった。
 ーー幾ら、悔やんでも仕方がないよ。お前はもう死んでしまったんだから。

  誰かが亜梨子に囁いた。死んでしまった今、彼女は何もできない。自分がいなくなった今、幸子や真知子は二人で頑張って生きてほしい。
  亜梨子は段々、意識が遠のくのを感じていた。

  ここは!?
 
 亜梨子が目を開けた時、彼女はどこにいるのか分からなかった。
 どこかの室内の中で彼女は寝かされているようだった。

(私は死んだのではなかったの)

「本当に困ったこと、」
 誰かの声がした。
 
「まさか、あの子がこんな事を」
「王太后様、アディオス君があっさり、認めたのはおかしいと思いませんか」
「だけど、あの子は昔から女の子にだらしがなかったし」

 小さな手。
 亜梨子は赤ん坊になっていた。

 彼女は赤ん坊に転生していた。
 それもアルテールと呼ばれる異世界へ。

 自分が赤ん坊に生まれ変わったことはすぐ理解できたが。最初は自分の置かれている状況がイマイチ理解できなかった。
 大体、何故、亜梨子としての意識が残っているのだろう。
 赤ん坊はあまり、周囲が見えない。


 うすぼんやりとした視界の中、抱きしめてくれた優しい手。
 その手が彼女を庭園の中に置き去りにした。

 その庭園がお城の中にあったというだけだ。
 つまり、亜梨子は赤ん坊に生まれ変わって庭園に捨てられたということになる。
 しかも、彼女の入った籠の中に「王子の子です。よろしくお願いします」という紙が入っていた。

 それで王子の子として面倒みるというのもお人よしだと亜梨子自身は思う。
 だけど、もしそうでなかったら赤ん坊の自分はどうなるか分からない。
 とりあえず、面倒を見てもらえるだけでもよしとしておいたほうがいい。
 
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