扉を開けたらそこは異世界

さやかとゆうきの母

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ちょっと脇道 シンクとフルフラ

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「やっと熱が下がったみたいだね」
 幼い子供の額に手をやって彼はほっとしたように言った。
「ありがとうございます」

「子供はちょっとしたことでも熱を出すからね。熱が下がってもしばらくは様子を見ておいたほうがいい」
 彼は棚から薬の瓶を取り出した。

「薬を出すので朝と昼に飲ませてください」
「えっ、薬ですか」
 子供の母親は驚いたように彼を見た。
「魔法で病気を治したのではないんですか」

「魔法を使えば治る病気とそうでない病気がある。それに魔法を使わなくても病気は治ることがある」
 と言いながら彼は薬を母親に渡した。

「お大事に」
元気になった子供にフルフラは手を振って扉を閉めた。
「変な顔をしていたわねぇ。確かにヒールを使えば病気の心配はないけど」
「熱が出たくらいで魔法を使うというのが問題なんだ。薬草を使えば治る病気は沢山ある」
「そうねぇ。魔導師が全て、癒しの魔力を持つわけじゃないし」

「アイドリアは魔力に頼りすぎる」
 彼は困ったように頭を振った。

「おそらく、他国ではこんなに魔法に頼ることはないだろう」
「そりゃ、アイドリアでは魔力を持つ人が大勢いるからでしょ。そういえば、アイドリアの魔導師が他国に出張しているのよね」
「……、」

 彼は黙ったまま、薬草を取り出し薬研を使ってすりつぶし始めた。
「シンク、なんで、王子である貴方が診療所なんてやっているの」
 彼の名はシンク・デル・ファン・アイドリア。


「しかも、王都の下町にわざわざ、」
 シンクはまれにみる魔力の持ち主であった。元々、アイドリア王家は魔力の強い人間がよく生まれる。

 そんな王族の中でもシンクは最強の魔力を持つ。ただ、シンクの両親は魔力を持たない。
「シンクは王にも内緒でここにきているんでしょう」

「扉を使えばお城を抜け出すのは簡単だからな」
 シンクは空間をつなげる魔法が使える。簡単にいうとA地点とB地点を扉でつなげる。その結果、王都の下町に一軒家を借りて診療所を開いている。

 診療所ではシンと名乗り、王子という身分は隠している。
 確かに王子の顔はあちこちで肖像画がばらまかれているので王子だと知られてもおかしくない。
 それなのに、診療所を利用する人達には彼の素性はバレていない。

「別に不思議な話じゃない。王族なんて城の中に住んで一般の人に顔を見せたりしないからさ」
 まさか、下町に来ているなんて誰も思わない。

「大体、城でイベントがあった次の日に下町にいるなんて誰も思わないだろ」
「それもそうね」
 扉は本当に便利だ。扉を使えば移動する時間すらいらない。

「僕はアイドリアが魔法に頼らずにすむ国になってほしいと思っている」
「それは無理じゃない」
 魔法はとても便利だ。例えば、風の魔法を使えば荷物も遠くに届けることができる。癒しの魔法は病気をたちまちのうちに治す。

 しかし、誰もが魔力を持っていない。魔力を持っている人間はギルドを作り、人はギルドに依頼することで魔法の恩恵を得る。
 ここで問題が起こった。

 魔力を持つ者が魔力を持たない者に対して、高額な報酬を請求するようになった。
 これではだめだとシンクは思っていた。
「シンクは魔力を持っていない人にも利用できる魔道具を開発したいのよね」


「それだけじゃない。薬草を活用して癒しの魔法でなく病人を助けたい」
 そのために診療所を開いたんだ。
「他の国では薬を使って病気を治している」

 ガタン。
 大きな音を立てて診療所の玄関の扉が開いた。
「おい、ここの責任者はいるか」

 いかにも、目つきの悪そうな男達が数人、診療所内に入ってきた。
「ちょっと、なんですか、貴方たちは、」
 どうみえても病人には見えない。

「いいから責任者を出せっていうんだ」
「責任者は僕だけど、」
 ひょいとフルフラを下がらせてシンクは「何か、ここに用でもあるのかい。それとも急病人でもいるのか。悪いなここは出張医療はしないんだ」
「あん、」
 男たちはシンクが平然としているのに戸惑ったようだ。


「君たち、体格もいいから患者さんをここまで運んできてくれないか。それなら、治療ができる」
「なんだと、てめぇ」
「俺たちはお前に用があるんだ」

 ぐいっとシンクの胸倉に手を伸ばす男たち。
 すっ。
 ひらりとそれを躱すシンク。

 無様に壁と床にキスする羽目になる男達。
「僕は病人にしか用がないよ。ここは診療所だ。病人でない者は来ないでくれるか」


「うるせー、てめぇがこんなところで診療所を開くからこちとら、商売あがったりなんだよ」
「商売、」
 シンクは眉をひそめた。

「ひょっとして、僕が病人を治療していることかな。治療は商売じゃないんだよ。そりゃ、こちらも生活があるからお金はもらうけどね」
 だけど、君たちは癒しの魔法の使い手でなさそうだね。

「それがとうした」
「どうせ、癒しの魔法を使うと見せかけて、病人から金をまきあげていたんだろう」
「そういうお前だって、癒しの魔法じゃないんだろ」

 男たちの下卑た笑いにシンクはしれっと、「僕は癒しの魔法は使えるよ。ただ、魔法の無駄使いをしないだけさ」
「なんだと、」

「どんな病気でも…。そうだな。ちょっと、熱が出たりしただけでも癒しの魔法を使うのはこの国くらいなもんさ。他の国ではそうじゃない」
「お前、よその国の人間か」
「違うけど。知っているのさ」
「すました顔しやがって、」
 ひゅっと男たちのこぶしが飛んできたが、シンクには通じないようだ。

「全く、一体どうなっているのよ」 
 男達を診療所からたたき出したあと、フルフラはため息をついた。 
「魔法に頼らない環境作りも大変よね」  

 ちなみに男達を外にたたき出したのはフルフラの魔法だ。
 
 フルフラは人間に変化しているが、風の精霊だ。
「あんな連中がくるなんて、本当に人間はめんどくさい」
 
「そうだな。しかも、魔法ギルドの人間でもなさそうだし」
 魔力を持っているなら腕力ではなく、魔法で対抗するはずだ。

「おそらく、依頼されていたんだろうが……」
 多分、僕が魔法を使わず治療をしていると思っていたから、あんな連中でも楽勝だと思っていたのだろう。
「アイドリアでも魔法に頼らず自活できるといいな」
 シンクはポツリと呟いた。
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