私が死ねば幸せですか?

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カルイセン3

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 アンジェラが捉えられて、スレードが「真実」を話すように拘束された。
 無茶苦茶だ。自分の思う通りにアンジェラを排除するために、ここまでするなんて異常だ。
 コリー公爵からの承諾すらない状況でこんな事が通るはずがないのだ。
 それができるのは、アリスがアイネス公爵に溺愛されているからだ。

 でも、嘘を織り交ぜた証拠なんて、きっとバレてしまう。

 家族は今回の件に対して何も言わない。様子を見ているのだろう。

 アンジェラを気にかける発言をするたびに、自分がしでかした事の大きさに恐怖する。

 僕とアリスは同類だ。

 アンジェラの心が欲しいなら。なりふり構わず好きだと言えばよかった。
 僕以外に誰もいない。と、思わせて依存させようだなんて考えてはいけなかったのだ。

 アリスは、大切な事を見落としている。

 アンジェラがコリー公爵の子供ではないのは、事実かもしれない。
 しかし、コリー公爵がそれを知らないか、それとも知ってるのか、それによって今後どうなるのか全く考えていないようだ。

 ごく稀にいるのだ。

 子種のない貴族が、妻の子供を自分の子供として育てるケースが。

 彼らは、全てを知っていてそれでも自分の子供として育てる。

 その場合。彼らの血縁関係が否定されたとしても、嫡子として認められるのだ。

 コリー公爵がもしそうだった場合。
 アリスのしているのはとんでもない事だ。
 断罪されるのは、彼女になる。
 そして、僕も同じように断罪される。

 ……コリー公爵は、仕事人間でアンジェラ達に対して無関心なので、きっと大丈夫なはずだ。

 現に、こんな騒ぎになっているのに、彼は戻ってくる気配はない。

 きっと、こうなる事を黙認しているのだ。

 僕は不安な日々を過ごした。
 アンジェラが家の乗っ取りを計画していた事が認められて欲しい。いっそ、何も言わずに死んで欲しい。と、ずっと祈っていた。
 いつのまにか、自分の罪の意識は消えていた。

 そして、僕の祈りは届いた。

 アンジェラが死んだ。
 獄中で、自分が平民になる事が許せなくて自殺したらしい。

 彼女がそんな人間ではない事を僕は知っていたが、安堵した。

 これで全て何もなかったことになる。

 ただの貴族のふりをした平民が死んだだけなのだから。僕は何も悪くない。

 それなのに……。

「お前は、なんて事をしたんだ!」
「っ……!」

 僕は父に力一杯殴られていた。
 今まで無関心だったコリー公爵がこの件に対して、かなり腹を立てているようだ。

「……今まで散々、二人のこと放置したくせに何を今更」

 僕が苦笑して呟くと、父ではない男の声が聞こえた。
 
「そうだな。その通りだ」

 その声の先に目線を向けると、よく知っている顔があった。
 スレードが年齢を重ねたらこんな顔になるのだろうか。

 そこにいたのはコリー公爵だった。

 彼は無表情で僕を見下ろしていた。

「これの籍は抜きます。もう、貴族でも何でもない。息子ですらない。好きなように取り調べをしてもらって構いません」

 父は、コリー公爵に命乞いをするようにそう言った。

「私は、あの女とは違って甘くない。お前達がアンジェラを精神的に追い詰めた事実を認めさせる。嘘の噂を流したこともな」
「っう!」

 僕の腕は捻りあげられた。

「お前は、何の力も持たないただの平民だ。お前が殺されても、四肢を切断されても誰も気にも留めない。安心してくるといい」

 コリー公爵は信じられない力で僕を引きずる。
 僕は二度のこの家に戻る事はできなかった。
 




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