私が死ねば幸せですか?

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アリス15

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アリス15


 囚人牢に連れて行かれた私は、そこに先に入れられていた人たちに気がつく。
 両親だ。
 
「アリス、大丈夫だったか?」

 父が気遣わしげに私に声をかけてきた。
 
「お父様、大丈夫です」
「よかったわ。手荒なことはされていないようで」

 母も私のことを心配してくれた。
 だから、きっと許してくれるはずだ。
 私が二人を自分が助かるために売ったことを。
 
「お互いを支えあって乗り切ろう。黙秘を続ければ時間稼ぎができるはずだ」
「そうね」

 うまく時間を稼ごうと言う父に頷く母。
 
「……」

 私は何も言えない。
 黙秘を続けたところで無意味なのだから、二人は何かしら処罰を受ける。
 けれど、私が助かるのなら何も問題はない。
 私のためなら二人はいくらでも犠牲になってくれるはずだから。
 でも、少しだけ可哀想だわ。

「アリス、どうした?」

 私が二人を憐んでいると、父が気になったようで声をかけてきた。
 
「なんでもありません。頑張って黙秘を続けて乗り越えましょう」

 知らない方が幸せだ。
 だから私は何も言わずに微笑んだ。

 そして、次の日。
 コリー公爵がやってくるなりこう言った。

「元アイネス公爵と夫人。お前たちの罪状が明らかになった」

 私が両親を売ったせいなのだろう。
 やはり、すぐに罪は暴かれた。けれど、考えてみると黙秘を続けたところで無意味でしかない。
 何も言わなくてもどうせ知られることなのだから。
 それなら、早く罪を認める方が二人にとってはいいことだと私は思う。
 早く罪を償うことが二人のためなのだ。
 愛しているからこそこうした。

「なんだって!?」
「黙秘をしようって話し合っていたじゃない」

 両親は突然の騙し討ちに、かなり驚いていた。

「だったら、なんでアリスは何もないのよ」

 母が、私になんの咎もないことへの疑問を口にした。
 途端に、私の居心地が悪くなる。
 私が二人のために二人の罪を話したのだから、それを知られたら理不尽に怒り出すかもしれない。

「家の乗っ取りに彼女は関与していなかったし、二人が関与していることを証言してくれたからな」

 コリー公爵は、私が二人の罪を暴いたことをわざわざ二人に知らせた。

「アリス!お前私たちを売ったのか!」

 父は理不尽にも腹を立てる。
 自業自得でしかないのに、なぜ腹を立てるのか。
 私だって被害者なのに。

「お願いです。罪を償ってください」
「誰のお陰でいい生活ができたと思っているんだ」

 私の懇願に、父はまるで私も悪いかのように吐き捨てる。
 悪いのは、家の乗っ取りをした両親だ。
 私は何もしていない。巻き込まれた立場でしかないのに。

「面白いな。誰一人として黙秘なんてしていなかったくせに、自分は無関係だとお互いに罪をなすりつけあって、……美しい家族愛だな」

 コリー公爵は、私たちをせせら笑った。

「そうだ、教えるの忘れていたな。アイネス元公爵と夫人は絞首刑だ。死刑が執行されるまで、家族一緒にいればいい。幸せな最期だろう?」

 そこから毎日、私は両親に罵倒され続けた。

「……愛人など持たなければよかった。お前たちさえいなければ、私は今も家族から愛されて」
「は?ふざけないでちょうだい。あれだけ妻のことをつまらない女と罵倒しておいて、今更」

 父が私たちの存在を否定すると、今度は母がそれを言い返す。
 ……本当に低次元の争いだ。

「別れていればよかったんだ」
「子供さえいなければ、アンタなんかと一緒にいなかったわ」
「……お前さえいなければ」

 突然、二人が顔色を変えて私に目を向けてきた。
 そこには、今まであったはずの愛情が抜け落ちていて、無の感情だけがあった。

「なんですって!?」

 私は無性に腹が立った。
 自分たちが悪いのに、なぜ私に責任転嫁するのか。

「お前がいなければ、こんなことにはならなかった」
「余計なことさえ言わなければ、私たちは死ななくて済んだのに」
「何よ。自分のしたことの罪を償うんでしょう!?」

 二人はそれかは毎日のように、私のせいで死ぬのだ。と、私のことを責め立て続けた。

 自業自得でこうなったのに、なぜ私のせいになるのか意味がわからない。
 うんざりだ。

 ただ、私が生まれたことすら否定されるのは精神的に応えた。

 二人の死刑が執行される日、二人は口々に私のことを罵った。

「お前さえいなければ!」

 でも仕方ない。二人は悪いことをしたのだから罪を償うべきなのだ。





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