夕顔は朝露に濡れて微笑む

毛蟹葵葉

文字の大きさ
上 下
1 / 48

私の末路

しおりを挟む
「お前が殺したんだな!」
 突然、私は男に押し倒され、背中を強かに打ち付けた。背中に走る激痛にまともに呼吸が出来ない。
「いたっ」
 サンルームの上にはうっすらと朝露に濡れ、力尽きたあの人が倒れている。
 我武者羅に自分の手を伸ばしても彼に届くはずもなく、虚しく空中を溺れるだけだ。
「っつ!」
 助けなきゃ、もしかしたら助かるかもしれない。
 けれど、男に腹の上に乗られて私の身体は全く動かない。どれだけ身体を捩らしても男はピクリとも動かないのだ。
「麦角菌。麦角菌だ。あれを食べさせたんだろう?」
 うわ言のような言葉。私はそれだけでもハッキリと意味がなぜかわかってしまった。全くもって見に覚えのないものだ。
 そんな事よりも私は一番大切な人を助け出さなくてはならない。
「ち、ちがっ」
 首を横に何度も振り否定をしても、男の苛立ちは増したように眦を吊り上げる。
 そして「違わないだろう!」と叫びながら私の頬を叩く。
「っ」
「殺される前に殺してやるっ」
 手が私の首に伸ばされ、力を込められる。
苦しい……!
 必死に手を話そうと掴むが、向こうが怯む様子は全くない。
「あの本は死ぬ前にあいつが遺してくれたヒントだったんだ!」

「ぁつ!っ!」

「お前が殺したんだ!そうだろう?」

 首を絞める男は、一方的に私を一方的に責め立て、自分の推理を捲し立て続ける。

「……!」

「つっ」

 苦しさで朦朧とする意識。終わりを悟り抵抗をやめた私と目線があったのは息絶えた彼だった。

 このまま死ぬんだ……。

 私は全てを諦めて目を閉じる。結局、生きるのも死ぬのも一人だ。
しおりを挟む

処理中です...