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フレディは、私のドレス姿を見るなり眦を吊り上げた。
ブカブカのドレスを無理やり縫い合わせたのもは、さぞかし不恰好に見えるだろう。
私もこんな格好で人前に出たくなかった。
今までは野暮ったいドレスだったので、最低限は満たされていたが、今回はそれ以外だ。
「なんだその格好は、嫌がらせでやっているのか?恥ずかしくないのか?」
自分の誕生日パーティーに、なんの嫌がらせでこんな格好をしないといけないのか。
「僕が君を愛せないから、抗議のつもりでやっているのか?そんな事をしたって無駄だ」
自分にやましい事があるせいなのか、いつになくフレディは私のことを責め立てる。
「君がどれだけ惨めで可哀想な女性でも、上手にそう演じようとも、僕の心はライザのものだ。だから、僕から愛されようと無駄な事をするのはやめろよ」
低く抑えた声からは、怒り憎しみ哀れみ。様々な負の感情が滲み出ていた。
家から出たところで、誰からも顧みられる事などないのだと思い知らされる。
「無理に僕の瞳の色に合わせようとしたそのドレスは、君の浅ましい虚栄心のようだな」
フレディは、もう私と目すら合わせようともしなかった。
私は俯いて、ただ、時が過ぎて一秒でも早く今日一日が終わることを願う事しかできなかった。
会場に入ると人はまばらにしかいなかった。
当然だ。招待客はごく少数の身内だけにしたのだから。
フレディは、その人数の少なさに面食らったような顔をしていた。
そこに、フレディの瞳の色のドレスを着たライザが小走り気味にやってきた。
デザイン画の状態でも洗練されて、ライザにさぞかし似合うだろうと思っていたが、形となって身につけているのを見ると、やはりそのために作られたドレスなのだろうと容易に想像できた。
私の見苦しいドレス姿と並ぶとさぞかしライザは美しく見えるはずだ。
「アストラお姉様!お誕生日おめでとうございます」
ずっと悲しんでいた事すら感じさせない笑みを浮かべて、ライザは私の誕生日を祝福してくれた。
よく見ると、胸のブローチは、フレディの瞳の色をしていて形も同じだった。
おそらく、この場で身につけるものくらい合わせたかったのだろう。
「ありがとう。ライザ」
私は、それに気づかないふりをして微笑んで嬉しそうに御礼を言った。
どうせ、何か言ったところで無駄なのだから。
『ライザ嬢は美しいな』
『それに比べて……、アストラ嬢は、恥ずかしくないのか。あのドレスは酷くないか?』
『流行遅れの上に縫い目はガタガタで、いくらなんでもひどすぎる』
ライザの美しさの賞賛の後に、私の悪口が始まり引き攣った笑みを浮かべる。
「……っう!」
先ほどまで笑みを浮かべていたライザが突然その場にしゃがみ込んだ。
「……、くっ、胸が苦しい」
しゃがみ込みライザの顔を覗き込もうとしたら、フレディが近づくなと言わんばかりに私の肩を押した。
「大丈夫か?ライザ!」
先ほど私に向けていた冷たい口調から、信じられないほど優しくライザにフレディは声をかけた。
もう、私のことなんて見えていないようだ。
「ライザ、大丈夫?」
両親が慌てた様子で、ライザのところへと駆け寄った。
「すみません。今日が楽しみであまり眠れなくて少し体調が悪くなったみたいです。大丈夫ですから、私のことは気にしないで、アストラ姉様のお誕生日をお祝いしてください」
ライザの気を遣った言葉に、母は受け入れられないと首を横に振った。
「そんな事、できないわ。お部屋に行きましょう」
「心配だから僕も付き添います」
あろう事か、フレディまでついていくと言い出した。
これから婚約発表を皆にするというのにだ。
「フレディ様、いけません」
咄嗟に私がフレディのジャケットの袖を掴むと、勢いよく腕を振り払った。
「触るな!」
その怒気が含まれた声に、私は追いかける事すらできなかった。
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フレディは、私のドレス姿を見るなり眦を吊り上げた。
ブカブカのドレスを無理やり縫い合わせたのもは、さぞかし不恰好に見えるだろう。
私もこんな格好で人前に出たくなかった。
今までは野暮ったいドレスだったので、最低限は満たされていたが、今回はそれ以外だ。
「なんだその格好は、嫌がらせでやっているのか?恥ずかしくないのか?」
自分の誕生日パーティーに、なんの嫌がらせでこんな格好をしないといけないのか。
「僕が君を愛せないから、抗議のつもりでやっているのか?そんな事をしたって無駄だ」
自分にやましい事があるせいなのか、いつになくフレディは私のことを責め立てる。
「君がどれだけ惨めで可哀想な女性でも、上手にそう演じようとも、僕の心はライザのものだ。だから、僕から愛されようと無駄な事をするのはやめろよ」
低く抑えた声からは、怒り憎しみ哀れみ。様々な負の感情が滲み出ていた。
家から出たところで、誰からも顧みられる事などないのだと思い知らされる。
「無理に僕の瞳の色に合わせようとしたそのドレスは、君の浅ましい虚栄心のようだな」
フレディは、もう私と目すら合わせようともしなかった。
私は俯いて、ただ、時が過ぎて一秒でも早く今日一日が終わることを願う事しかできなかった。
会場に入ると人はまばらにしかいなかった。
当然だ。招待客はごく少数の身内だけにしたのだから。
フレディは、その人数の少なさに面食らったような顔をしていた。
そこに、フレディの瞳の色のドレスを着たライザが小走り気味にやってきた。
デザイン画の状態でも洗練されて、ライザにさぞかし似合うだろうと思っていたが、形となって身につけているのを見ると、やはりそのために作られたドレスなのだろうと容易に想像できた。
私の見苦しいドレス姿と並ぶとさぞかしライザは美しく見えるはずだ。
「アストラお姉様!お誕生日おめでとうございます」
ずっと悲しんでいた事すら感じさせない笑みを浮かべて、ライザは私の誕生日を祝福してくれた。
よく見ると、胸のブローチは、フレディの瞳の色をしていて形も同じだった。
おそらく、この場で身につけるものくらい合わせたかったのだろう。
「ありがとう。ライザ」
私は、それに気づかないふりをして微笑んで嬉しそうに御礼を言った。
どうせ、何か言ったところで無駄なのだから。
『ライザ嬢は美しいな』
『それに比べて……、アストラ嬢は、恥ずかしくないのか。あのドレスは酷くないか?』
『流行遅れの上に縫い目はガタガタで、いくらなんでもひどすぎる』
ライザの美しさの賞賛の後に、私の悪口が始まり引き攣った笑みを浮かべる。
「……っう!」
先ほどまで笑みを浮かべていたライザが突然その場にしゃがみ込んだ。
「……、くっ、胸が苦しい」
しゃがみ込みライザの顔を覗き込もうとしたら、フレディが近づくなと言わんばかりに私の肩を押した。
「大丈夫か?ライザ!」
先ほど私に向けていた冷たい口調から、信じられないほど優しくライザにフレディは声をかけた。
もう、私のことなんて見えていないようだ。
「ライザ、大丈夫?」
両親が慌てた様子で、ライザのところへと駆け寄った。
「すみません。今日が楽しみであまり眠れなくて少し体調が悪くなったみたいです。大丈夫ですから、私のことは気にしないで、アストラ姉様のお誕生日をお祝いしてください」
ライザの気を遣った言葉に、母は受け入れられないと首を横に振った。
「そんな事、できないわ。お部屋に行きましょう」
「心配だから僕も付き添います」
あろう事か、フレディまでついていくと言い出した。
これから婚約発表を皆にするというのにだ。
「フレディ様、いけません」
咄嗟に私がフレディのジャケットの袖を掴むと、勢いよく腕を振り払った。
「触るな!」
その怒気が含まれた声に、私は追いかける事すらできなかった。
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