全てを諦めた令嬢は、化け物と呼ばれた辺境伯の花嫁となる

毛蟹

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 シズリー領に到着して次の日、私は自室で医師から診察を受けていた。

「栄養状態は改善されつつありますね」

 前に診察してくれた医者の診断書を確認しながら、医者が呟いた。

「そうですか」

 このところかなり調子がいい。
 食事もかなり食べられるようになったし、以前よりも頬がふっくらとしている。

「あとは、体力をつけるのが一番かと思います。無理のない範囲でしてください」

「よかったです。ゆっくり始めましょう」

 付き添ってくれていたマリカが、診断結果を聞いて私以上に安堵していた。
 よほど、私の身体が悪そうに見えたようだ。

「……あの、常習的に食事を抜かれていた事はありますか?はっきりと答えてください」

 医者は言いにくそうに、しかし、はっきりと私に確認してきた。

「えっと」

 私はギレット家でされた事をはっきりと言うべきか、「もう終わった事」として何も言わないべきか。
 ただ、同情心を誘うようなことだけは絶対にしたくなかった。

「前にあなたの診察をした医者は、摂食障害があると診断しました。しかし、外見的な変化から旅の間の食事はしっかりと摂っていたのがわかります。常習的に食事を抜かれるような環境にいたんですよね?」

「……」

 鋭い指摘に、私は本当のことを口にできずにいた。

「答えください。隠し事をしてここの皆さんと信頼関係が築けると考えているんですか?」

 そうだ。私にとって大切なのは過去ではなく、今と未来だ。
 言えないのは、まだ、両親への未練が少しだけあるから。
 家族だった人たちへの未練なんて必要ない。新しい家族はもうできたから。

「……はい。常習的に食事を抜かれました。正確に言えば用意することすら忘れられていました」

 私は、ギレット家で常習的に食事を抜かれていたことを医者に話した。

「信じられないっ!背中の傷も針で刺された物よね。誰がやったんですか」

 それに、真っ先に怒ったのは、今まで黙って診察に付き添っていたマリカだ。
 すでにそこまで気づかれていた事に驚く。しかし、考えてみれば着替えなどで彼女が見る事はできたのだ。
 他のお医者さんも、私のことを診察していたし。

 今まで、何も聞かずに私が言い出すまで黙ってくれていたんだ……。

 隠していたところで無意味だと思った私は全てを打ち明けることにした。

「ドレスのサイズが合わなくて、侍女がサイズ調整をしていて、その時に……」

「故意に刺されたんですよね」

「はい」

 あくまで、冷静な確認に私は頷いた。
 隠していたところで、すぐにバレてしまうと思ったからだ。

「大丈夫ですよ。ここでは貴女にそんな事をするような人は一人もいません。ですから、無理をしないでゆっくりと良くなっていけばいいんですよ」

「そうです。もう、怖い事なんて起きません。みんなついているんだから」

 二人にそう言われて、安堵から涙が溢れ出てきた。
 軽く扱われていることを知られたら、同じようにされるとどこかで不安に思っていたのだ。
 私はすでにそれを経験していたから。

「はい」

 マリカが「大丈夫ですよ」と言って私の事を抱きしめてくれた。
 しばらく泣いた後、二人はこそこそと何かを話していた。

「……ナイジェル様に絶対に報告してください」

 小声だったので、私の耳には何を言っているのかはっきりとはわからなかった。
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