全てを諦めた令嬢は、化け物と呼ばれた辺境伯の花嫁となる

毛蟹

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 マリカのドレスも無事受け取ることができ、デビュタントのお披露目に参加するために王都へと旅立つことにした。
 今回も護衛なしで大きな一台の馬車に5人が乗り込み。マリオも同行する。
 どうやら、何年も前からマリカのお披露目に行くつもりで準備していたらしく、仕事はある程度やってあるみたいだった。

「マリカのお披露目だから、絶対に参加する」

「せっかくのお披露目なのに、エスコートしなくてもいいんですか?」

 マリオは参加すると言いつつもエスコートはしない。
 私はそれが不思議だった。

「僕だったら兄貴丸出しじゃないですか、レオナルド様は美形ですし、こういった場に慣れているでしょうし、僕、根っからの田舎者なので、スマートにこなせる自信がないんです。あと、単純に人前に出るのが嫌」

 兄なりに妹の事は思いつつも、自分の意見はちゃんとあるのがマリオらしい。

「それに、ナイジェル様が本当ならエスコートするはずだったんですよね」

「えっ……」

 マリオの突然のカミングアウトに私は固まる。
 本来ならマリカがしてもらえるはずのナイジェルのエスコートを、私が横から奪って行ったようなものだ。
 なんてことを……。
 私は血の気が引いて行った。

「マリオ!余計なことは言わなくていい!」

「あ、すみません」

 ナイジェルが慌ててマリオに注意するが遅かった。

「どういう事かね。ナイジェルくん」

 恐ろしい顔をしたレオナルドが、恐ろしいほどに低い声でナイジェルに問いかけた。
 レオナルドの額には、血管が浮かび上がっている。
 最初はよそよそしかった二人だが、いつの間にか「くん」付けで呼ぶようになっていた。

「レオくん、誤解だ。本当に冤罪だ」

 ナイジェルはレオナルドの様子に慌て出すが、そもそも不貞どころか、ただ、エスコートをする予定だった。という話だ。
 怒る理由なんてない。
 確かに、ナイジェルはマリカの事をただの使用人とは見ていないが、それならば、マリオだってそうだ。
 使用人というよりも、仲間だと思っているように見える。
 そういう点では私も同じだけれど。

 大切な仲間のためにエスコートを買って出たという事なのだろう。
 本人の同意なしなのが問題ではあるが。

「ナイジェル様、ちゃんと話した方がいいと思います。変に隠し立てしたら後から知って気まずくなりますし、ね?そもそも、なんで私が知らないところで勝手に決めるの」

 マリカの言いたい事もわかる。
 彼女はそもそも、デビュタントのお披露目に出るつもりなんてなかったのだ。
 それなのに、ナイジェルがエスコートすることになっていた。と、聞かされたら。
 何言ってるんだ。と、思う気持ちもわかる。

「……アストラが来なかったら、マリカのエスコートをする事で話しが決まっていた」

 ナイジェルが気まずそうに答えると、マリカは、「いや、だから勝手に決めるなって」と、苛立った様子でつぶやいていた。
 それよりも……。

「はぁ!?表に出ろ!」

 レオナルドが怒っていた。

「レオくん、落ち着いて、君じゃ私には勝てない」

「口喧嘩なら負けない」

 ナイジェルは悪気なんてなく言っていると思うのだけれど、どう見ても火に油を注いでいる。

「ラップバトルか!?」

 それに、マリカはノリノリで煽っている。
 
「二人とも落ち着いてください!それに、なんでレオ兄様が怒るんですか!」

 私が慌てて二人を止めると、ナイジェルは不安そうにこう聞いてきた。

「アストラは怒らないのか?」

 逆に、怒る理由を私は知りたい。

「ナイジェル様がマリカを思うのと同じように私も思っています。エスコートを買って出たのも彼女のためですよね」

「ああ」

「そんな理由で怒りませんよ。もしも、ナイジェル様がマリカのエスコートをしたとしても怒りません」

 私がにっこりと笑って言うと、ナイジェルはなぜか悲しそうな顔をした。

「そんな、許可されるなんて……、少し、嫉妬して欲しかった……」

 何か呟いたが聞こえず。その代わり先ほどまで怒っていたレオナルドが、なぜかナイジェルの肩を慰めるようにポンポンと叩いていた。

 結果的に仲直りできたようなので良かったと思った。
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