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ラブロマンスは悪役が断罪されて、綺麗にまとめられてハッピーエンドなのが相場で決まっている。
ただ、私が生きた世界には悪役は存在しなかった。
いや、本来なら私と彼が悪役になるはずだった。
「今までありがとうございました」
私は婚約を解消するために、婚約者の執務室にいた。
「……」
悪役な私達は断罪されることなく、婚約を解消することでハッピーエンドを迎える。
婚約者のアクセルは愛する人を妻にして、私は自由な長い余生を過ごす。
二人とも幸せになれるのだ。
「本当に婚約を解消するんだな?」
シグリー辺境伯令息のアクセルは問いかけてきた。
関係の解消に対して未練がないかと確認するかのように。
私はそれに対して安心して欲しいと言わんばかりに、笑って見せる。
「はい、はじめからそういう約束でしたでしょう?愛する人と一緒になってください。私は貴方に縋り付くつもりはありません」
長い月日を過ごせば少なからず情が芽生えるものだ。
私はその「情」を否定するつもりはない。しかし、彼の幸せを奪い続けてきた自覚があるので、未練などないと言い切ることにした。
「……未来は見えないのか?」
アクセルが不安げな顔で聞いてくるけれど、私は笑って頷く。
きっと、彼は私の記憶の知識を当てにしたいのだろう。
しかし、「転生チート」でもある知識を使い続けても、それは、いつか出し切ってなくなってしまうものでしかない。
そんな危うい能力に頼って何の意味があるだろう。
私よりもずっと頭のいい人間はこの世界に五万といるのだ。その人たちの発想の転換でもっといいものが生み出される可能性だってあるのだ。
欲を持ち余計な事をして、必要以上に未来を変えてはいけない。
それが死につながる事だってあるのだ。
死なないためには欲を持たない。
この本の世界に転生してからそれを心に生きてきた。
「はい、処刑される未来は見なくなりましたが、先のことは全く見えません。もう、私には利用価値なんてありません」
「助けられたのは事実だが、利用価値だけで君を見たことなんてない!」
アクセルの強めの否定に私は少し瞠目する。
ああ、そうだ。彼はなるべくして悪役になったが、本来はとても温かい人だった。
初恋の人コリンダへの想いが本の中では強すぎて忘れてしまっていたけれど。
長い間、婚約者だったから、それなりに気にかけてくれたのね。
「ありがとうございます。そう言って貰えると友達にはなれたのかなと思えて嬉しいです。私のことは気になさらず。愛する人と一緒にいてください」
私が適当にはぐらかすと、アクセルは苦しげな顔をした。
彼は本当に私のことを心配してくている。
生きるためにとはいえ、嘘をついた事が申し訳なくなる。
「これから、どうするつもりだ?」
「19歳を迎える日まで旅行でもしてのんびり過ごそうかと思います。いつ死ぬかもわかりませんしね」
私は、彼に19歳で死ぬと嘘をついた。
「婚約解消をやめるつもりはないのか?」
アクセルは私が本当に死ぬと思っているから、気を遣って引き留めるような素振りを見せる。
しかし、同情などで婚約を続ける意味なんてない。
ただでさえ、私は彼とコリンダの間に割って入り恋路を邪魔し続けたのだ。
噛ませ犬の悪役はクールに去るべきだろう。
「ございません」
「……そうか、今までありがとう。ヴァイオレット」
「こちらこそ、長い間協力してくださって感謝しています。さようなら。お元気で、もう二度と会うことはないでしょうけど。ご多幸を祈っております」
私は笑顔で最後の挨拶をして彼の前から去った。
晴々とした気分のはずなのに、どこか胸が痛むのは長い月日を婚約者として共にしたせいだろう。
情が移ってしまったのね。
きっと、アクセルは私と婚約した事などすぐに忘れて、コリンダを婚約者に据えるだろう。
「……本の中では悪役、この世界では噛ませ犬。もう疲れた。どこか遠くに行きたいわ」
ラブロマンスは悪役が断罪されて、綺麗にまとめられてハッピーエンドなのが相場で決まっている。
ただ、私が生きた世界には悪役は存在しなかった。
いや、本来なら私と彼が悪役になるはずだった。
「今までありがとうございました」
私は婚約を解消するために、婚約者の執務室にいた。
「……」
悪役な私達は断罪されることなく、婚約を解消することでハッピーエンドを迎える。
婚約者のアクセルは愛する人を妻にして、私は自由な長い余生を過ごす。
二人とも幸せになれるのだ。
「本当に婚約を解消するんだな?」
シグリー辺境伯令息のアクセルは問いかけてきた。
関係の解消に対して未練がないかと確認するかのように。
私はそれに対して安心して欲しいと言わんばかりに、笑って見せる。
「はい、はじめからそういう約束でしたでしょう?愛する人と一緒になってください。私は貴方に縋り付くつもりはありません」
長い月日を過ごせば少なからず情が芽生えるものだ。
私はその「情」を否定するつもりはない。しかし、彼の幸せを奪い続けてきた自覚があるので、未練などないと言い切ることにした。
「……未来は見えないのか?」
アクセルが不安げな顔で聞いてくるけれど、私は笑って頷く。
きっと、彼は私の記憶の知識を当てにしたいのだろう。
しかし、「転生チート」でもある知識を使い続けても、それは、いつか出し切ってなくなってしまうものでしかない。
そんな危うい能力に頼って何の意味があるだろう。
私よりもずっと頭のいい人間はこの世界に五万といるのだ。その人たちの発想の転換でもっといいものが生み出される可能性だってあるのだ。
欲を持ち余計な事をして、必要以上に未来を変えてはいけない。
それが死につながる事だってあるのだ。
死なないためには欲を持たない。
この本の世界に転生してからそれを心に生きてきた。
「はい、処刑される未来は見なくなりましたが、先のことは全く見えません。もう、私には利用価値なんてありません」
「助けられたのは事実だが、利用価値だけで君を見たことなんてない!」
アクセルの強めの否定に私は少し瞠目する。
ああ、そうだ。彼はなるべくして悪役になったが、本来はとても温かい人だった。
初恋の人コリンダへの想いが本の中では強すぎて忘れてしまっていたけれど。
長い間、婚約者だったから、それなりに気にかけてくれたのね。
「ありがとうございます。そう言って貰えると友達にはなれたのかなと思えて嬉しいです。私のことは気になさらず。愛する人と一緒にいてください」
私が適当にはぐらかすと、アクセルは苦しげな顔をした。
彼は本当に私のことを心配してくている。
生きるためにとはいえ、嘘をついた事が申し訳なくなる。
「これから、どうするつもりだ?」
「19歳を迎える日まで旅行でもしてのんびり過ごそうかと思います。いつ死ぬかもわかりませんしね」
私は、彼に19歳で死ぬと嘘をついた。
「婚約解消をやめるつもりはないのか?」
アクセルは私が本当に死ぬと思っているから、気を遣って引き留めるような素振りを見せる。
しかし、同情などで婚約を続ける意味なんてない。
ただでさえ、私は彼とコリンダの間に割って入り恋路を邪魔し続けたのだ。
噛ませ犬の悪役はクールに去るべきだろう。
「ございません」
「……そうか、今までありがとう。ヴァイオレット」
「こちらこそ、長い間協力してくださって感謝しています。さようなら。お元気で、もう二度と会うことはないでしょうけど。ご多幸を祈っております」
私は笑顔で最後の挨拶をして彼の前から去った。
晴々とした気分のはずなのに、どこか胸が痛むのは長い月日を婚約者として共にしたせいだろう。
情が移ってしまったのね。
きっと、アクセルは私と婚約した事などすぐに忘れて、コリンダを婚約者に据えるだろう。
「……本の中では悪役、この世界では噛ませ犬。もう疲れた。どこか遠くに行きたいわ」
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