愛されていたなんて思いもしませんでした

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 私の前世の記憶が戻ったのは5歳の時だ。
 鏡に映る自分を見て、「本に出てくる悪役令嬢の子供の時のような顔だわ」と、漠然と思った事から始まった。
 悪役令嬢などという言葉は、この世界では存在しないものだった。
 なぜ、存在しない言葉を知っているのか、違和感を持った直後には、頭の中に大量の情報が入り込んでいた。

「……っ!」

 あまりに突然のことに頭を押さえていると、部屋にいなかった両親が私のところへと駆け込んできた。

「ヴァイオレット!大丈夫か?すぐにオースト家が総力を上げて国一番の医者を連れてくるからな!」

 ヴァイオレット・オースト。それが、私の名前のようだ。

 ヴァイオレット・オースト……。

 私はその名前を心の中で反芻する。
 

 菫色の髪の毛。星屑を散りばめたような金色の瞳。
 ある小説に出てくる。断頭台に消えた悪女と同じ色だった。

 私、あの小説の悪役令嬢に生まれ変わってしまったの!?

 それを理解した瞬間、私の脳はショートした。
 知恵熱で数日ほど寝込んで目が覚めると、私は頭を抱えた。

「どうするの。これ……」

 まずは、自分の物語での立ち回りは、婚約者でもある第一王子に懸想し振り向いてもらうために、美しく着飾り家門を破滅に追いやる悪女だった。
 ただの散財で破滅するだけなら、まだ、よかった。
 いや、良くないが、まだ、マシだ。
 両親はヴァイオレットを溺愛して、悪どい事業にまで手を出してしまう。
 両親は仲良くギロチン。ヴァイオレットは運良く逃げ延びて、黒幕と手を組みクーデターを引き起こそうとする。
 救いようのない人間だった。
 物語なら、それでいいのかもしれない。
 しかし、私はヴァイオレットになってしまった。
 死にたくなければ、私のせいで誰かが死んだり、苦しんだり、この国で混乱を招くようなことは起きてほしくない。
 幸い。まだ、5歳でやり直しをするには遅くない。

「今日から生まれ変わる!」

 そう心に決めたら行動に移すのみだ。
 癇癪はおろか、わがままを一切言わなくなった私に、両親や使用人たちは別の不安を持たせてしまうことになってしまったが、そこは割愛しておこう。

 自分の立ち振る舞いを変えたので、少なくとも愚かで傲慢な令嬢だとは思われる芽は詰んだ。
 次にしなければならない事は、物語の主人公と関わらない事だ。
 それも、第一王子の婚約者にならなければいい。
 そもそも、その婚約はヴァイオレットのわがままから成り立っていたものだ。
 だから、わがままを言わなければいい。

 黒幕の救済をしなくてはならない。

 黒幕のアクセルは、なるべくして悪役になってしまった。

 彼の人生は気の毒なものだった。
 
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