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黒幕アクセルは、辺境伯の令息だ。
彼は本来なら辺境の地を守り、誰からも敬われる人になるはずだった。
彼の父のように。
しかし、彼の父は魔獣に襲われて命を落とし、また、強欲な身内との権力争いの最中に飢饉が起き。
何人もの領民や家族を亡くした。その中には彼の初恋の人も居たそうだ。
最終的に、彼は爵位を返上した。
誰もが彼が死んだと思っていた。しかし、彼は水面下でこの国を揺るがすために暗躍していたのだ。
アクセルは、物語の最後でヴァイオレットとセットで処刑される。
正直に言うと、私はアクセルと関わりたくない。
世の中にはうまくいかない事がたくさんある。
けれど、そのまま放置すれば、アクセルは愛する家族や初恋の人を亡くしてしまうことになる。
孤独になった彼の行き着く先は、物語の通りになるはずだ。
どのみち、クーデターが起きれば私の身だって危ないのだ。
だから、私は彼に近づいた。
12歳から彼の転落人生は始まった。
だから、その年齢になるまで待って彼に接触しようと考えた。
私を溺愛する両親に頼めば、彼を呼び出すことは容易かった。
アクセルは時間ちょうどにやってきて、苛立った様子を隠そうともしなかった。
当然だ。何の面識もないのに「会いたいから」という理由だけで突然呼び出されたのだ。
敬われるべき辺境伯という立場にあるが、「田舎者」と言われ軽く扱われる事が多いらしい。
彼らの重要性を誰も知らない。だからこそ、本の中でアクセルが爵位を返上した時、国が少し荒れたのだ。
この呼び出しも、下手に断れないから来たのだろう。
「はじめまして、私はヴァイオレット・オーストと申します」
挨拶をするが、アクセルは名乗ろうともせずに眉間に皺を寄せた。
「なぜ、僕をわざわざ呼び出したんだ?」
「うふふ、一度お会いしたくて」
本当の事など言えるはずもないので、あえて言葉を濁して笑った。
本の世界にいる。や、私には未来が見える。などと初対面の人間に言われて信じられるはずがない。
「……君のような素晴らしい人なら、引くて数多だろう?なぜ、わざわざ僕を呼び出したんだ?」
心にもない事を言っていると私は思った。
どれだけ立ち振る舞いに気をつけていても、勝気そうな見た目のせいで傲慢だとみんなから思われているのだ。
「ただ、お話ししたくて」
「悪いが、辺境は政治には介入しない。僕を味方につけて何かしたいなら意味のない事だ」
おそらく、私が権力を欲しているのだと彼は思っているようだ。
ここまで、敵意を向けられるとは思いもしなかった。
否定したところで、彼はそれを信じないだろう。
だったら要件だけ伝えよう。
「……最近、魔獣の動きは活発ですか?」
「君になぜ、それを答えなくてはならない?」
アクセルは、答えようとはしなかった。
けれど、本の世界では彼の父は凶暴化した魔獣によって殺される。
後に彼の血縁者が術士を雇いそれをした事が明らかになるけれど。
「術士を雇っています。そのせいで凶暴化しているのです」
「……」
私の説明にアクセルは、少し逡巡する素振りを見せた。
「お父様の命が狙われています。誰も完全に信用してはいけません。近い人間でも」
「……君よりもずっと信用できる人たちだ」
付き合いの長い人間を疑うのは辛い。
私のことは信用できないと思うが、彼のことだから気をつけるはずだ。
それで、彼の父の死を防げるのならそれでいい。
「私の言ったことが事実だとわかるのはすぐです。とにかく、気をつけて」
「……失礼する」
アクセルとは、それ以上話すことはできなかった。
しかし、彼の性格上また私のところにやってくるはずだ。
そう願うしかなかった。
黒幕アクセルは、辺境伯の令息だ。
彼は本来なら辺境の地を守り、誰からも敬われる人になるはずだった。
彼の父のように。
しかし、彼の父は魔獣に襲われて命を落とし、また、強欲な身内との権力争いの最中に飢饉が起き。
何人もの領民や家族を亡くした。その中には彼の初恋の人も居たそうだ。
最終的に、彼は爵位を返上した。
誰もが彼が死んだと思っていた。しかし、彼は水面下でこの国を揺るがすために暗躍していたのだ。
アクセルは、物語の最後でヴァイオレットとセットで処刑される。
正直に言うと、私はアクセルと関わりたくない。
世の中にはうまくいかない事がたくさんある。
けれど、そのまま放置すれば、アクセルは愛する家族や初恋の人を亡くしてしまうことになる。
孤独になった彼の行き着く先は、物語の通りになるはずだ。
どのみち、クーデターが起きれば私の身だって危ないのだ。
だから、私は彼に近づいた。
12歳から彼の転落人生は始まった。
だから、その年齢になるまで待って彼に接触しようと考えた。
私を溺愛する両親に頼めば、彼を呼び出すことは容易かった。
アクセルは時間ちょうどにやってきて、苛立った様子を隠そうともしなかった。
当然だ。何の面識もないのに「会いたいから」という理由だけで突然呼び出されたのだ。
敬われるべき辺境伯という立場にあるが、「田舎者」と言われ軽く扱われる事が多いらしい。
彼らの重要性を誰も知らない。だからこそ、本の中でアクセルが爵位を返上した時、国が少し荒れたのだ。
この呼び出しも、下手に断れないから来たのだろう。
「はじめまして、私はヴァイオレット・オーストと申します」
挨拶をするが、アクセルは名乗ろうともせずに眉間に皺を寄せた。
「なぜ、僕をわざわざ呼び出したんだ?」
「うふふ、一度お会いしたくて」
本当の事など言えるはずもないので、あえて言葉を濁して笑った。
本の世界にいる。や、私には未来が見える。などと初対面の人間に言われて信じられるはずがない。
「……君のような素晴らしい人なら、引くて数多だろう?なぜ、わざわざ僕を呼び出したんだ?」
心にもない事を言っていると私は思った。
どれだけ立ち振る舞いに気をつけていても、勝気そうな見た目のせいで傲慢だとみんなから思われているのだ。
「ただ、お話ししたくて」
「悪いが、辺境は政治には介入しない。僕を味方につけて何かしたいなら意味のない事だ」
おそらく、私が権力を欲しているのだと彼は思っているようだ。
ここまで、敵意を向けられるとは思いもしなかった。
否定したところで、彼はそれを信じないだろう。
だったら要件だけ伝えよう。
「……最近、魔獣の動きは活発ですか?」
「君になぜ、それを答えなくてはならない?」
アクセルは、答えようとはしなかった。
けれど、本の世界では彼の父は凶暴化した魔獣によって殺される。
後に彼の血縁者が術士を雇いそれをした事が明らかになるけれど。
「術士を雇っています。そのせいで凶暴化しているのです」
「……」
私の説明にアクセルは、少し逡巡する素振りを見せた。
「お父様の命が狙われています。誰も完全に信用してはいけません。近い人間でも」
「……君よりもずっと信用できる人たちだ」
付き合いの長い人間を疑うのは辛い。
私のことは信用できないと思うが、彼のことだから気をつけるはずだ。
それで、彼の父の死を防げるのならそれでいい。
「私の言ったことが事実だとわかるのはすぐです。とにかく、気をつけて」
「……失礼する」
アクセルとは、それ以上話すことはできなかった。
しかし、彼の性格上また私のところにやってくるはずだ。
そう願うしかなかった。
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