愛されていたなんて思いもしませんでした

ありがとうございました。さようなら

文字の大きさ
4 / 8

4

しおりを挟む
4

 数ヶ月後、アクセルは私のところへとやってきた。

「なぜ、術士がいるとわかった?お前が何かしたのか?」

 不信感を滲ませる言葉に、私は微笑んで否定した。

「それをしてメリットはありますか?」

 彼の家門を政治的に利用しようにもメリットはない。
 権力が欲しいなら、王子の誰かと婚姻すればいい。
 そして、私にはそれができるのだ。

「僕の婚約者におさまりたいんだろう!?生憎だったな。僕が好きなのはコリンダだけだ」

 決めつける彼に、うんざりとした気分になる。私の助言のおかげで彼の父親は死ぬことはなかった。それだけでも評価して欲しい。

 感謝されないとは思っていたけど、ここまでの敵意を向けられるなんて思いもしなかった。
 私は彼が誰を愛しているかなんて嫌というほどよくわかっている。

 できれば、彼が悪に手を染めないように近くで監視したいが、難しいかもしれない。
 それなら、せめて彼が落ちぶれないようにするだけだ。

「……来年の冬に貴方の領地で飢饉が起きます。それを避ける事はできないでしょう。ですが、アーネス商会の麦だけは絶対に買わないでください」

 言いたいことだけ言うと、アクセルは目を見開きすぐに馬鹿にするように笑った。
 天候など予想ができないのに、来年の話なんて誰が信じられるか。

「まだ、一年も終わってないのに、そんな事を予言するのか?面白い。もしも、言ったことが嘘だったらどうなるのかわかっているのか?」

 アクセルは私を嘲笑う。
 私の言ったことを少しでも心に留めておいてくれれば、それだけできっと未来は変わるはずだ。

「嘘ではないかもしれませんよ。貴族である限り領民を守るのは義務です。生活の安全だけは最低限保障すべきです」

 アクセルは、思うところがあるのか表情を変えた。

「飢饉は避けられないかもしれませんが、粗悪な麦を領民に食べさせて死なせるのは、貴族としてあるまじきことです。私の言うことなんて信じなくてもいいですが、するべきことをお父様と話し合ってください」

 アクセルは、険しい表情をしてしばらくの沈黙の後にようやく口を開いた。

「……一年後が楽しみだな。もしも、何も起きなかったらその時は二度と関わってくるな」

 アクセルはそれだけ言い残して帰って行った。

 それから、しばらくは彼からの接触はなかった。
 本の内容のように、飢饉はやはり起きてしまった。
 父に頼み、アーネス商会は早く潰して貰ったので、粗悪な麦を買った人はいなかった。
 一年半が経過して、向こうからの初めての「会いたい」という前触れがあった。

「こんにちは」

 気まずそうな顔をしてアクセルは、私に挨拶をした。
 敵意はもうなかった。
 久しぶりに会ったアクセルは幾分か身長が伸びていた。
 成長期というものは恐ろしい。そういう私も身長が伸びて、体つきも変わっていた。

「こんにちは、お久しぶりです」

 微笑んで挨拶を返すと、アクセルが視線を逸らす。

「……助かった。ありがとう」

 飢饉の件だろうか。

「無事でよかったです」

 被害は少なかったと聞いた。

「君の家から食料の支援までしてくれて、本当に感謝しています」

 アクセルはもう、無礼な態度は取らなかった。

「当然のことをしただけです」

「君は嘘つきではない。信じるよ。協力する。何か頼みたいことがあって僕に接触したんだろう?」

 察しのいいアクセルに少しだけ驚いたが、話しがしやすくていい。

「まずは、私の話を聞いてもらえますか?」

「はい」

 私は本の中で起こったことを、夢が現実になっている。と、いうことにしてアクセルに説明した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

たとえ愛がなくても、あなたのそばにいられるのなら

魚谷
恋愛
ヴェルンハイム伯爵家の私生児ハイネは家の借金のため、両親によって資産家のエッケン侯爵の愛人になることを強いられようとしていた。 ハイネは耐えきれず家を飛び出し、幼馴染みで初恋のアーサーの元に向かい、彼に抱いてほしいと望んだ。 男性を知らないハイネは、エッケンとの結婚が避けられないのであれば、せめて想い人であるアーサーに初めてを捧げたかった。 アーサーは事情を知るや、ハイネに契約結婚を提案する。 伯爵家の借金を肩代わりする代わりに、自分と結婚し、跡継ぎを産め、と。 アーサーは多くの女性たちと浮名を流し、子どもの頃とは大きく違っていたが、今も想いを寄せる相手であることに変わりは無かった。ハイネはアーサーとの契約結婚を受け入れる。 ※他のサイトにも投稿しています

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

あなたが願った結婚だから

Rj
恋愛
家族の反対を押し切り歌手になるためニューヨークに来たリナ・タッカーは歌手になることを応援してくれる叔母の家に世話になっていた。歌手になることを誰よりも後押ししてくれる従姉妹であり親友でもあるシドニーが婚約者のマーカスとの結婚間際に亡くなってしまう。リナとマーカスはシドニーの最後の願いを叶えるために結婚する。

泣き虫殿下はクールを装いすぎている

みるくコーヒー
恋愛
アーリア王国の有名な王太子、レイモンド・アーリアは容姿端麗、頭脳明晰、クールで飄々としていてどこまでも完璧な王太子である。『クールで完璧な王太子』という評判を持つレイモンドは実のところかなりの泣き虫であった。そんな彼の婚約者である子爵家の令嬢、エマ・シャロルは王太子妃に自分は相応しくないと感じていた。「今日こそはハッキリ言うのよ」と、固い決意と共にレイモンドへ『婚約解消』を迫るために歴史深い王城でコツコツと歩みを進めるのだった。

処理中です...