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 数ヶ月後、アクセルは私のところへとやってきた。

「なぜ、術士がいるとわかった?お前が何かしたのか?」

 不信感を滲ませる言葉に、私は微笑んで否定した。

「それをしてメリットはありますか?」

 彼の家門を政治的に利用しようにもメリットはない。
 権力が欲しいなら、王子の誰かと婚姻すればいい。
 そして、私にはそれができるのだ。

「僕の婚約者におさまりたいんだろう!?生憎だったな。僕が好きなのはコリンダだけだ」

 決めつける彼に、うんざりとした気分になる。私の助言のおかげで彼の父親は死ぬことはなかった。それだけでも評価して欲しい。

 感謝されないとは思っていたけど、ここまでの敵意を向けられるなんて思いもしなかった。
 私は彼が誰を愛しているかなんて嫌というほどよくわかっている。

 できれば、彼が悪に手を染めないように近くで監視したいが、難しいかもしれない。
 それなら、せめて彼が落ちぶれないようにするだけだ。

「……来年の冬に貴方の領地で飢饉が起きます。それを避ける事はできないでしょう。ですが、アーネス商会の麦だけは絶対に買わないでください」

 言いたいことだけ言うと、アクセルは目を見開きすぐに馬鹿にするように笑った。
 天候など予想ができないのに、来年の話なんて誰が信じられるか。

「まだ、一年も終わってないのに、そんな事を予言するのか?面白い。もしも、言ったことが嘘だったらどうなるのかわかっているのか?」

 アクセルは私を嘲笑う。
 私の言ったことを少しでも心に留めておいてくれれば、それだけできっと未来は変わるはずだ。

「嘘ではないかもしれませんよ。貴族である限り領民を守るのは義務です。生活の安全だけは最低限保障すべきです」

 アクセルは、思うところがあるのか表情を変えた。

「飢饉は避けられないかもしれませんが、粗悪な麦を領民に食べさせて死なせるのは、貴族としてあるまじきことです。私の言うことなんて信じなくてもいいですが、するべきことをお父様と話し合ってください」

 アクセルは、険しい表情をしてしばらくの沈黙の後にようやく口を開いた。

「……一年後が楽しみだな。もしも、何も起きなかったらその時は二度と関わってくるな」

 アクセルはそれだけ言い残して帰って行った。

 それから、しばらくは彼からの接触はなかった。
 本の内容のように、飢饉はやはり起きてしまった。
 父に頼み、アーネス商会は早く潰して貰ったので、粗悪な麦を買った人はいなかった。
 一年半が経過して、向こうからの初めての「会いたい」という前触れがあった。

「こんにちは」

 気まずそうな顔をしてアクセルは、私に挨拶をした。
 敵意はもうなかった。
 久しぶりに会ったアクセルは幾分か身長が伸びていた。
 成長期というものは恐ろしい。そういう私も身長が伸びて、体つきも変わっていた。

「こんにちは、お久しぶりです」

 微笑んで挨拶を返すと、アクセルが視線を逸らす。

「……助かった。ありがとう」

 飢饉の件だろうか。

「無事でよかったです」

 被害は少なかったと聞いた。

「君の家から食料の支援までしてくれて、本当に感謝しています」

 アクセルはもう、無礼な態度は取らなかった。

「当然のことをしただけです」

「君は嘘つきではない。信じるよ。協力する。何か頼みたいことがあって僕に接触したんだろう?」

 察しのいいアクセルに少しだけ驚いたが、話しがしやすくていい。

「まずは、私の話を聞いてもらえますか?」

「はい」

 私は本の中で起こったことを、夢が現実になっている。と、いうことにしてアクセルに説明した。
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