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「信じられないな……」

 私の話を聞くなり、アクセルはそう呟いた。
 しかし、私を信じていない。というよりも、思わず言葉が出たようなものに近く感じた。

「そうですよね」

 苦笑まじりに返すと、アクセルは気遣わしげな表情でこちらの顔を覗き込んでいた。

「大変だったね。何かと、もどかしい思いもしただろう?」

 アクセルの口からそんな言葉が出るとは思わなかったので、私は面食らってしまった。
 味方として認知してくれているのだと思うのだが、以前の彼の態度を知っているので、戸惑ってしまう。

「見た夢が事実になるなら、避けようとするはずだ。子供の言う事に大人は取り合わない。小さなことなら特にそうだ」

 意外と彼は優しいのかもしれない。

「そうですね。幸い。両親が私のことを溺愛しているので、わがままという形で色々と引っ掻き回しましたが」

 わがままで、私は色々なことをさせてもらった。

「君の悪い噂はそこから来ているんだな」

「そうですね」

 私は巷ではわがまま令嬢と言われている。

「まずは、第一王子の婚約者にならないことが一番だね。僕は僕で火種を消しておきたい」

 私たちはお互いにしないといけない事がある。それを叶える方法は一つだけだ。

「私たち解消する前提で婚約しませんか?」

「え?」

「貴方がコリンダさんのことを好きなのは知っています。しかし、権力争いはまだ終わっていませんよね?」

「……恥ずかしながら」

 アクセルの父親の死を避けることはできたが、権力争いは終わっていない。
 彼の立場はまだ危ういという事だ。

「オースト家の名前を利用してください。有事の時は協力を惜しみません」

「それはありがたいが」

「それに、彼らは私に手出しできませんから、わかりますよね。コリンダさんを今婚約者に据えたら彼女は狙われてしまいます」

「……わかってる。でも君は?」

「私に誰が手出しできると?王族以外にそんな人いませんわ」

 私は傲慢に笑ってみせる。

「君にメリットはあるのか?」

「とてもあります。没落せず死なずに生きられることです。それ以上の事ってあります?私にとって現状維持が正義なんです」

 私はアクセルに笑って見せた。
 私は多少の苦労をしても、国の混乱なんて望んでいない。
 今持っている物だけで幸せだと思えるから。

「聞きたい事があるんだ」

「はい、なんでしょう」

 どんな質問なのだろう。と、私は身を乗り出した。
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