聖女様の生き残り術

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婚約者なんていましたか?

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「……薄情?ただの捻挫ですよね」

 クロードの落馬事故の怪我はただの捻挫だった。
 馬に振り落とされて上手に受け身を取った結果らしい。踏まれればよかったのに。
 
「な、なぜそれを」

 クロードは、事実をバラされて顔を真っ赤にしている。
 バカじゃないのか。
 そんなクソみたいな理由で浄化を中断されたカサディンは闇堕ちしたのだと思うと、100万発殴ってもたりないぐらいだ。
 
「そ、それに、私が瘴気を浄化した人を目障りだからと拘束しようとしました!」

 それは、事実なので余計なことを言うのはやめて、責めるようにマリネッタの方を見ると、手で顔を隠して目線を逸らしている。
 やっぱり何かやらかしているようだ。
 とりあえず経営について事実だけは伝えておいてあげよう。
 
「治癒院の経営をカオリ様にお願いするのは構いませんけど、運営費はどこから出すんですか?」
「わ、私は国からもらったお金を無駄には遣いません」

 カオリはさも当然のように国からお金をもらうつもりのようだ。
 
「運営費は聖女の支度金から出ています。裕福な人から治療費をもらってますけど、正直たりません」

 運営費について話すと、周囲の貴族たちがどよめいた。
 あえて言わなかったが、知らなかったようだ。
 
「え、嘘よ!だって本では、国からもらっていたわ」
「嘘じゃないです」

 明らかに、この世界のことを知っているカオリのセリフ。
 しかし、引っかかる事も多い。
 
「事実ですよ」

 マリネッタは、私が嘘つきではない。と、ドヤ顔だ。
 ドヤ顔の応酬はやめて欲しい。
 
「え、じゃあ、経営移譲したら私が運営費を払うって事ですか?」
「そうなりますね」

 カオリの顔色がどんどん悪くなっていく。
 そこに、クロードが助け船のように口を開く。
 
「で、でも、僕が落馬事故を起こした時、本来ならすぐに駆けつけるべきだった。だって婚約者なのだから」

 婚約者。というワードに私は瞬きした。

「……」
 
 誰と誰が婚約者なのだろう。
 あ、私とクロードか。
 
「あ……、そうでしたっけ?」
「え、忘れてたんですか?」

 婚約関係であることをすっかりと忘れていた私に、クロードは引いていた。
 
「ごめんなさい。どうでも良すぎて、忘れてました。その辺に生えてる草の存在とか一々覚えます?毎日食べてるパンの枚数なんて数えませんよね」

 思わず聞き返すと、「それはないって」と、周囲の貴族たちが引いていた。
 仕方ないので、どうでも良くなった経緯について話すことにした。
 
「まず最初に、私はあなたのことを好きになれません。理由わかりますよね。家族だった人たちからの虐待に全く気が付かなかったからです」
「そ、それは」

 クロードはここで持ち出されるとは思ってなかったのか、
 
「あ、このやり取りですら無駄ですからしません。虐待の証拠は神殿に保管しています」
「ついでなので、家門と縁を切ります」

 マリネッタの補足説明に、私はついでに縁切り宣言した。
 こいつらにはこういう扱いで十分だから。
 
「好きにしなさい。お前はもう家族ではない。カオリが大切な家族だから」
「言質とりましたね」

 家族だった人たちは、カオリがいるのでもう私など不要なのだろう。
 これで金輪際関わることがないと思うと清々しい気分だ。
 
「で、なんでしたっけ?たかが、捻挫のために瘴気の浄化を放り出すわけにはいきませんから」
「あの方は私が浄化しました。私の功績を奪うつもりですか?」

 私が言い返すと、カオリはカサディンの浄化を自分でやったと言い切る。
 ここまで自信満々だとある意味で凄い。
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