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「うわ、まじかよ」
私、ルビア・ファイヤは王家から届いた書面にひっくり返りそうになった。
「なんだこれ!?」
そこに記されていたのは、都会では『氷華の騎士』なんてちょっと恥ずかしい二つ名を持っている公爵家の令息だ。
アレクト・フリージアとの婚約するようにという王命が記されていた。
「おい、親父、王サマとうとう耄碌したのか?」
ファイヤ家はかつては公爵家で王国の中でもかなりブイブイ言っていた家門だった。
しかし、一言で言えばアホな正義感の強いご先祖さまは、色々とエゲつない方向で膿み出しをしたせいか、各方面から恨みを買ってしまい没落。
気がついたら田舎の領地で貧乏公爵をしていた。
なんで公爵家でいられているのか謎だ。
平民になっててもおかしくないのだけれど、なぜか公爵でいられる。
おそらくだが、恨みを買ったらこんなことになるんだよ。という見せしめのために公爵のままなのだと私は思っている。
栄華を極めた期間よりも没落していた期間の方が多分長い。
うちはそんな家門だ。
ほぼ平民と変わらない家門と、由緒正しい家門でもあるフリージア家との婚姻が決まった。なぜ?
正気なのだろうか。
王サマの頭がおかしくなったから、決まった以外考えられなかった。
ボケるになまだ早いお年頃だったと記憶しているのだが。
「ルビアちゃん。ちょっと言葉悪いよ」
親父は、少し困ったような顔をして私の言動を窘める。
先祖代々強気の家門なのに、なぜか父はヘタレだった。
本当に情けない。
とりあえずムカついたら相手が誰だろうが噛みつきに行く。それが、我が家門のモットーだというのに。
まあ、だから没落したのだけれども。
親父はそんな簡単なこともできなくて、色々な奴らにへーこらへーこらしている。
情けない。
「誰も聞いてないからいいんだよ!細かい事を気にするな!ケツの穴が弱いな」
「それを言うなら小さいだよ。弱くなったら漏らしちゃうよ」
親父は面倒な人間なので、わざわざ私の間違いを指摘する。
親父の陰湿さはどこの血から入ってきたのだろうか。
「じゃあ、今日からお前はクソ親父じゃなくて、クソ漏らし親父だな」
「あのね。淑女はそんなことを言わないからね。やめようね」
今日から親父を罵倒する時は、クソ親父ではなくて、クソ漏らし親父にしようと私は思った。
「いやぁ、でもなんでこんな血迷った事を言い出すんだ。王サマの脳みそ腐ったバナナかなんかなの?」
「……聞いた事があるんだ」
私の質問に父は重い口を開いた。
「フリージア家は、名前の通り代々続く氷系の魔力を所有する家門なのは知ってるよね?」
「うちのファイヤ家と同じくらい有名だから知ってるわよ」
「あそこの家って代々魔力のせいで、身体が凍てつく事があってね。それが結構命の危機というか」
「ファイヤ家は、炎系だけど、魔力が強くても基礎体温と基礎代謝が凄いくらいだもんね」
「そこの子息のアレクトくんは、かなり魔力が強いみたいで」
「低体温で何度か死にかけたとか?」
「まあ、そんな感じ」
「気の毒すぎる」
親父からの説明を受けて、私はなんとなく話を把握した。
「えっと、つまりアレクトの冷え性の改善のために結婚しろって事だな」
「まあ、近いかな」
父は首を傾けつつも頷いた。
「いやー、でも、アレクトだっけ?女の子じゃなくてよかったな」
男よりも女の方が筋肉量は少ない。そのため、身体の冷えが加速しがちだ。
もしも、アレクトが女の子だったら早死にしていたか、かなりの病弱だったのではないだろうか。
ちなみに、炎と氷だからという理由で両家は仲が悪いということはない。
そもそも、関わりがないので悪印象すらこちらは持っていない。
向こうの家は知らないけれど……。
ほぼ無名に近い家門との婚約が決まったのだから、あちらの心は穏やかではないかもしれない。
心に決めたお嬢様とか、いい家門の娘とかそういう子と結婚させたいと思うのが、有力な家の考えだと思うから。
「貴族という立場だから、決められたことには従いますよ。それが私の責務ですからね」
親父にそう言うと、化け物を見るような目を向けられた。
こいつは、私のことを何だと思っているのだろうか。
「ルビアちゃんってそんなに思慮深かった?」
唐突に失礼をぶっ込んでくる親父。
よし、殴ろう。
そう思って腕まくりをしたら、この屋敷に唯一いる侍女のリアが紅茶を用意してくれた。
私は殴るのを我慢してリアに「ありがとう」とお礼を言って紅茶を口に含んだ。
「あっつ!」
私はその紅茶の熱さに思わず叫び声を上げてしまった。
「なんでルビアちゃんはファイヤ家の娘なのに猫舌なの?」
ファイヤ家実は暑さへの耐性がある。
それなのに、なぜか私は猫舌なのだ。
実は少しコンプレックスだったりもする。
「知るかよ」
いつも思うのだけれど、猫舌の反対ってなんなんだろう。
犬舌なのだろうか。
そんなことを考えながら、私はお茶を冷まそうとフーフーと息を吹きかけた。
「それ、マナー違反ですから他の家ではやったらダメですよ」
リアの注意が入る。
「マナー違反を人前で注意する事が、一番のマナー違反だと思うからぁ……!」
私の必死の言い訳にリアは、「いや、ここ家ですからね」と冷めた目でツッコミを入れてきた。
私って侍女に舐められている。可哀想な公爵令嬢だわ。と、悲しくて涙が出てきた。
~~~~
お読みくださりありがとうございます
気分転換に書いているものなので、主人公が破天荒です
口も悪いですが生暖かく見守っていてください
「うわ、まじかよ」
私、ルビア・ファイヤは王家から届いた書面にひっくり返りそうになった。
「なんだこれ!?」
そこに記されていたのは、都会では『氷華の騎士』なんてちょっと恥ずかしい二つ名を持っている公爵家の令息だ。
アレクト・フリージアとの婚約するようにという王命が記されていた。
「おい、親父、王サマとうとう耄碌したのか?」
ファイヤ家はかつては公爵家で王国の中でもかなりブイブイ言っていた家門だった。
しかし、一言で言えばアホな正義感の強いご先祖さまは、色々とエゲつない方向で膿み出しをしたせいか、各方面から恨みを買ってしまい没落。
気がついたら田舎の領地で貧乏公爵をしていた。
なんで公爵家でいられているのか謎だ。
平民になっててもおかしくないのだけれど、なぜか公爵でいられる。
おそらくだが、恨みを買ったらこんなことになるんだよ。という見せしめのために公爵のままなのだと私は思っている。
栄華を極めた期間よりも没落していた期間の方が多分長い。
うちはそんな家門だ。
ほぼ平民と変わらない家門と、由緒正しい家門でもあるフリージア家との婚姻が決まった。なぜ?
正気なのだろうか。
王サマの頭がおかしくなったから、決まった以外考えられなかった。
ボケるになまだ早いお年頃だったと記憶しているのだが。
「ルビアちゃん。ちょっと言葉悪いよ」
親父は、少し困ったような顔をして私の言動を窘める。
先祖代々強気の家門なのに、なぜか父はヘタレだった。
本当に情けない。
とりあえずムカついたら相手が誰だろうが噛みつきに行く。それが、我が家門のモットーだというのに。
まあ、だから没落したのだけれども。
親父はそんな簡単なこともできなくて、色々な奴らにへーこらへーこらしている。
情けない。
「誰も聞いてないからいいんだよ!細かい事を気にするな!ケツの穴が弱いな」
「それを言うなら小さいだよ。弱くなったら漏らしちゃうよ」
親父は面倒な人間なので、わざわざ私の間違いを指摘する。
親父の陰湿さはどこの血から入ってきたのだろうか。
「じゃあ、今日からお前はクソ親父じゃなくて、クソ漏らし親父だな」
「あのね。淑女はそんなことを言わないからね。やめようね」
今日から親父を罵倒する時は、クソ親父ではなくて、クソ漏らし親父にしようと私は思った。
「いやぁ、でもなんでこんな血迷った事を言い出すんだ。王サマの脳みそ腐ったバナナかなんかなの?」
「……聞いた事があるんだ」
私の質問に父は重い口を開いた。
「フリージア家は、名前の通り代々続く氷系の魔力を所有する家門なのは知ってるよね?」
「うちのファイヤ家と同じくらい有名だから知ってるわよ」
「あそこの家って代々魔力のせいで、身体が凍てつく事があってね。それが結構命の危機というか」
「ファイヤ家は、炎系だけど、魔力が強くても基礎体温と基礎代謝が凄いくらいだもんね」
「そこの子息のアレクトくんは、かなり魔力が強いみたいで」
「低体温で何度か死にかけたとか?」
「まあ、そんな感じ」
「気の毒すぎる」
親父からの説明を受けて、私はなんとなく話を把握した。
「えっと、つまりアレクトの冷え性の改善のために結婚しろって事だな」
「まあ、近いかな」
父は首を傾けつつも頷いた。
「いやー、でも、アレクトだっけ?女の子じゃなくてよかったな」
男よりも女の方が筋肉量は少ない。そのため、身体の冷えが加速しがちだ。
もしも、アレクトが女の子だったら早死にしていたか、かなりの病弱だったのではないだろうか。
ちなみに、炎と氷だからという理由で両家は仲が悪いということはない。
そもそも、関わりがないので悪印象すらこちらは持っていない。
向こうの家は知らないけれど……。
ほぼ無名に近い家門との婚約が決まったのだから、あちらの心は穏やかではないかもしれない。
心に決めたお嬢様とか、いい家門の娘とかそういう子と結婚させたいと思うのが、有力な家の考えだと思うから。
「貴族という立場だから、決められたことには従いますよ。それが私の責務ですからね」
親父にそう言うと、化け物を見るような目を向けられた。
こいつは、私のことを何だと思っているのだろうか。
「ルビアちゃんってそんなに思慮深かった?」
唐突に失礼をぶっ込んでくる親父。
よし、殴ろう。
そう思って腕まくりをしたら、この屋敷に唯一いる侍女のリアが紅茶を用意してくれた。
私は殴るのを我慢してリアに「ありがとう」とお礼を言って紅茶を口に含んだ。
「あっつ!」
私はその紅茶の熱さに思わず叫び声を上げてしまった。
「なんでルビアちゃんはファイヤ家の娘なのに猫舌なの?」
ファイヤ家実は暑さへの耐性がある。
それなのに、なぜか私は猫舌なのだ。
実は少しコンプレックスだったりもする。
「知るかよ」
いつも思うのだけれど、猫舌の反対ってなんなんだろう。
犬舌なのだろうか。
そんなことを考えながら、私はお茶を冷まそうとフーフーと息を吹きかけた。
「それ、マナー違反ですから他の家ではやったらダメですよ」
リアの注意が入る。
「マナー違反を人前で注意する事が、一番のマナー違反だと思うからぁ……!」
私の必死の言い訳にリアは、「いや、ここ家ですからね」と冷めた目でツッコミを入れてきた。
私って侍女に舐められている。可哀想な公爵令嬢だわ。と、悲しくて涙が出てきた。
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お読みくださりありがとうございます
気分転換に書いているものなので、主人公が破天荒です
口も悪いですが生暖かく見守っていてください
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