2 / 15
2
しおりを挟む
「由寿。久しぶり」
落ち着いた声。それに違和感。正己が電話をしてくる時は、大体、女絡みだ。失恋した時か、喧嘩をした時。
本当にロクな理由じゃない事が多い。
彼はいつも、悲しみを抑えつけた切なさを孕んでいる声で、私に電話をかけてくるのだ。
泣き出すのを抑えながら話す彼の息は荒く。情事の最中のように甘い声だと、いつも私は不謹慎に思っていた。
自棄酒を飲んだ日から随分と月日は流れた。
それなのに、私の気持ちはずっと変わらない。もはや積み重なった想いは恩讐のように、心にのしかかってくる。
「久しぶりね。なんの用事?」
違和感を無視して、話すように促すと、正己は途端に吹き出す。
「ふっ、あはは」
楽しげな笑い声。
失恋を理由に電話をしてきたようではないみたいだ。
なんだろう?惚気だろうか。しかし、正己が私に女の話しをする事はほとんどない。悪口も良い話しもだ。
この男が失恋以外で私に連絡をしてくることは、ほぼないのだが。
珍しい。それだけ、今の恋人の事が好きなのかもしれない。
そう思うとズキリと胸が痛む。忘れたいのに忘れられない想いは、幻肢痛のように私を苦しめる。
呪いのようだ。この気持ちにどのくらい取り憑かれているのだろう。
「うわっ、冷たくない?」
正己は戯けたように、きっと電話越しで肩を竦ませているのだろう。
普段の彼は明るく楽天的なのだ。女が絡むとどうしようもない人間になるのだが。
「別に、だって、彼女いるのになんで電話してくるの?ヤキモチ焼きな子なんでしょ?」
今の恋人と付き合った時、正己は、私にそう説明した。
だから、あまり遊べない。
そう言いつつも、恋人と喧嘩をするたびに私と会う約束を取り付ける辺りのちゃっかりさは、羨ましく思う。
彼女とどのくらい続いたのだろうか?今までで1番長かった気がする。
「この電話は、理沙さんも納得してるから大丈夫」
口ぶりから喧嘩をしたようにも思えない。
「あのさ、大切な話があるんだ。会えない?」
そう言われて、私は正己が何のために電話をしてきたのかすぐに察する事ができた。
というか、女の勘だ。ヤキモチ焼きの彼女が女と会ってもいいと言い出すなんて理由は限られている。
結婚するのね。
そう思った瞬間、鼻の奥がツンと痛くなってきた。
今までは、誰かの物になっても確かに辛かったけれど、自分の所にくるチャンスは少なからずあった。というよりも、そう言い聞かせてなんとか気持ちを抑え込んでいたのだ。
しかし、結婚するのは違う。
「何よ。ここで言ってよ」
声が震えそうになるのを抑えてようやくそれだけ、言葉を絞り出す。
とにかく電話を切りたい。これ以上話をしたら涙が出てきそう。
顔を見て話を聞ける気力は私には無い。正己を目の前にしたら泣きじゃくりそうだ。
「いや、だって招待じょ……。」
正己は招待状と言いかけて、秘密にしたいのか言葉を飲み込んだ。
きっと、サプライズで驚かせたいのだろう。わかりやすく尻尾を出してくれてよかった。
もしも、それを何も知らない状態で実行されたら心が持たなかったかもしれない。
やっぱり彼は他人の物になるのだ。
「とにかく渡したい物があるから、今度会ってよ!理沙さんも逢いたいって」
ヤキモチ焼きの彼女も私に逢いたいのか。
わかりやすく見せつけられるかもしれない。そう思うと、心が持たない。
結婚式には参列するけれど、個別で逢うのは控えたい。
正己と理沙が仲睦まじくしている光景はとてもではないが、見てはいられない。
「忙しくて、時間を作れないかも。仕事が繁忙期だから。招待状送って貰える?」
忙しいを理由に断われば、正己も文句は言えないだろう。
仕事の大切さは彼はよく知っている。
しかし、彼からの反応は予想外の物だった。
「……違うだろう?本当は」
正己は静かな声音だが、何かに怒っているような口ぶりだ。
「俺が理沙さんと付き合ってたら付き合いが悪くなった」
それは、理沙が嫉妬深いと言われたからだ。
二人の関係を壊すかもしれないことをわざわざしたくなんてなかった。
正己の事は好きだけれど、だからといって諍いの原因にはなりたくなかったのだ。
しかし、それのどこが気に食わないのだろう。少なくとも、思いを気取られないように私はいつも気をつけていた。
もしかしたら、気付かれてしかしまったのだろうか?
落ち着いた声。それに違和感。正己が電話をしてくる時は、大体、女絡みだ。失恋した時か、喧嘩をした時。
本当にロクな理由じゃない事が多い。
彼はいつも、悲しみを抑えつけた切なさを孕んでいる声で、私に電話をかけてくるのだ。
泣き出すのを抑えながら話す彼の息は荒く。情事の最中のように甘い声だと、いつも私は不謹慎に思っていた。
自棄酒を飲んだ日から随分と月日は流れた。
それなのに、私の気持ちはずっと変わらない。もはや積み重なった想いは恩讐のように、心にのしかかってくる。
「久しぶりね。なんの用事?」
違和感を無視して、話すように促すと、正己は途端に吹き出す。
「ふっ、あはは」
楽しげな笑い声。
失恋を理由に電話をしてきたようではないみたいだ。
なんだろう?惚気だろうか。しかし、正己が私に女の話しをする事はほとんどない。悪口も良い話しもだ。
この男が失恋以外で私に連絡をしてくることは、ほぼないのだが。
珍しい。それだけ、今の恋人の事が好きなのかもしれない。
そう思うとズキリと胸が痛む。忘れたいのに忘れられない想いは、幻肢痛のように私を苦しめる。
呪いのようだ。この気持ちにどのくらい取り憑かれているのだろう。
「うわっ、冷たくない?」
正己は戯けたように、きっと電話越しで肩を竦ませているのだろう。
普段の彼は明るく楽天的なのだ。女が絡むとどうしようもない人間になるのだが。
「別に、だって、彼女いるのになんで電話してくるの?ヤキモチ焼きな子なんでしょ?」
今の恋人と付き合った時、正己は、私にそう説明した。
だから、あまり遊べない。
そう言いつつも、恋人と喧嘩をするたびに私と会う約束を取り付ける辺りのちゃっかりさは、羨ましく思う。
彼女とどのくらい続いたのだろうか?今までで1番長かった気がする。
「この電話は、理沙さんも納得してるから大丈夫」
口ぶりから喧嘩をしたようにも思えない。
「あのさ、大切な話があるんだ。会えない?」
そう言われて、私は正己が何のために電話をしてきたのかすぐに察する事ができた。
というか、女の勘だ。ヤキモチ焼きの彼女が女と会ってもいいと言い出すなんて理由は限られている。
結婚するのね。
そう思った瞬間、鼻の奥がツンと痛くなってきた。
今までは、誰かの物になっても確かに辛かったけれど、自分の所にくるチャンスは少なからずあった。というよりも、そう言い聞かせてなんとか気持ちを抑え込んでいたのだ。
しかし、結婚するのは違う。
「何よ。ここで言ってよ」
声が震えそうになるのを抑えてようやくそれだけ、言葉を絞り出す。
とにかく電話を切りたい。これ以上話をしたら涙が出てきそう。
顔を見て話を聞ける気力は私には無い。正己を目の前にしたら泣きじゃくりそうだ。
「いや、だって招待じょ……。」
正己は招待状と言いかけて、秘密にしたいのか言葉を飲み込んだ。
きっと、サプライズで驚かせたいのだろう。わかりやすく尻尾を出してくれてよかった。
もしも、それを何も知らない状態で実行されたら心が持たなかったかもしれない。
やっぱり彼は他人の物になるのだ。
「とにかく渡したい物があるから、今度会ってよ!理沙さんも逢いたいって」
ヤキモチ焼きの彼女も私に逢いたいのか。
わかりやすく見せつけられるかもしれない。そう思うと、心が持たない。
結婚式には参列するけれど、個別で逢うのは控えたい。
正己と理沙が仲睦まじくしている光景はとてもではないが、見てはいられない。
「忙しくて、時間を作れないかも。仕事が繁忙期だから。招待状送って貰える?」
忙しいを理由に断われば、正己も文句は言えないだろう。
仕事の大切さは彼はよく知っている。
しかし、彼からの反応は予想外の物だった。
「……違うだろう?本当は」
正己は静かな声音だが、何かに怒っているような口ぶりだ。
「俺が理沙さんと付き合ってたら付き合いが悪くなった」
それは、理沙が嫉妬深いと言われたからだ。
二人の関係を壊すかもしれないことをわざわざしたくなんてなかった。
正己の事は好きだけれど、だからといって諍いの原因にはなりたくなかったのだ。
しかし、それのどこが気に食わないのだろう。少なくとも、思いを気取られないように私はいつも気をつけていた。
もしかしたら、気付かれてしかしまったのだろうか?
45
あなたにおすすめの小説
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】
けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~
のafter storyです。
よろしくお願い致しますm(_ _)m
上手に騙してくださらなかった伯爵様へ
しきど
恋愛
アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。
文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。
彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。
貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。
メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
お飾りの私と怖そうな隣国の王子様
mahiro
恋愛
お飾りの婚約者だった。
だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。
その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。
「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」
そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。
いつかこの日が来るとは思っていた。
思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。
思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる