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あれから、集中を何度か切らしながらなんとか仕事をやり終えた。帰り際、柏木が私をアパートまで送ろうとしたけれど、それも固辞して帰ることができた。
電車に揺られながら考えていたのは、水津からもらったメモ用紙のことだ。
彼は何のために私のアパートまで来るのだろう?関係を精算するためなのだろうか。見当がつかなかった。
アパートに着くと、水津がいつ来るのか気になってしまい何も手につかない。
仕方なしに風呂に入ると、今日一日の疲れが襲ってくるような気がした。
温かくて気持ちよくて、少しずつ瞼が重たくなっていく。少しだけ。と、言い聞かせて私は目を閉じた。
「凛子……!」
微睡の中、誰かの大きな声に驚いて私は覚醒した。
「だれ?」
重たい瞼を開けると、水津が必死な顔で私を見下ろしていた。
私はバスタオルで身体を包まれて水津に抱き抱えられている。
知らない間に眠ってたようだ。
それにしても大袈裟だ。そんなに慌てなくてもいいじゃないか。
「どうしたの?」
私は眠気から間延びした声で水津に話しかける。
「お風呂でぐったりしてたからビックリした。今日倒れたし。その、心配で」
心配してくれてはいたんだ。
偏頭痛なんていつもの事だし、それで体調を崩した私を鬱陶しいと思ってくれてもいいのに。そういえば、コピー室で倒れた時もジャケットまでかけてくれた。
「あぁ。ごめんね」
頭がまともに働かず私は適当に謝った。
「昼間はすみません。あんなに酷いことをして」
水津は頬に張り付いた髪の毛を取り私の耳にかけた。昼間の胸を掴んだ時とは信じられないくらい優しい手つきだ。
今日はかなり反省したのだろうか、対応はかなり優しい。あの場では誤魔化すようにみんなの前で謝ったから、ちゃんと謝りたかったのかもしれない。
「気にしてないよ。こっちこそあんな事になってごめんね。用事があって来たんでしょ?」
むしろ、私の偏頭痛のせいであそこまでの大騒ぎになった気がするので、どちらかというと自分が謝らないといけない気がした。
水津がわざわざ来た本当の目的は、きっと、今の関係を解消する事だ。
じゃなかったら平日にわざわざ来たりなんかしない。
「あぁ、はい」
ついに関係を解消されるのだ。
でも、なぜだろう少しだけ寂しい気がするのは。
たぶん一緒に居たからだろうな。戯れ合うように肌の触れる感触はとても心地よかった。行為はなかったけれど、海に行ったり買い物に行ったりできたのはとても楽しかったから。
「しばらくは会えません」
「へ……?」
私の眠気は意外すぎるその一言で吹っ飛んだ。普通あそこまで騒ぎになったら、もうおしまいじゃないのか?それだけなのか?
「厄介な事になったけど、しばらくは、進藤を抑えて、ちゃんと話し合います」
「そうなのね」
「他にも本社でやらないといけないことがあって、この部屋には来れません」
「来たのって」
「はい。それを言いに来たのと、少し一緒にいたくて」
水津は屈託なくにっこりと笑った。なぜかわからないが、一番の目的はそれのような気がした。
「私、まだ、寝ないよ」
「寝るよ。ほら、服着て」
水津は気にした様子もなく着替えの入っている籠から、よりによってベージュのショーツを取り出して渡してきた。
順番的にはそれだけど!嫌だ!
「き、着るから、さ、触らないで!」
私は慌てて水津を浴室から追い出した。体の関係はあったけれど、下着を見られるのはとても気恥ずかしかしい。
「ほら、ここに寝て」
何とも言えない気分で私が部屋着に着替えると、水津もなぜかスエットに着替えていた。
お前は泊まる気か……!
けれど、私のベッドはシングルで二人で寝るにはとても狭い。
水津はベッドに寝そべり、私が収まるスペースを開けてポンポンそこを叩く。
これ言うこと聞かないと帰らないやつだ。
瞬時にそれだけがわかった私は、誘われるままにそこにスッポリとおさまった。
ふわっと頭に温かい息遣いを感じたと思ったら、チュッ、と生えぎわにキスされた。
「……」
私はそこを押さえながら、水津の方を見ると機嫌が良さそうに笑っている。不気味だ。
「なにもしない?」
私は痛め付けられるとかそういう事じゃなくて、別の意味で嫌な予感がして思わず水津に念を押してしまう。
「しないよ。凛子の嫌がることはもうしない」
水津は私の耳に唇を押し当てた。そのまま強く抱き締められた。
トクン、と水津の心臓の音が聞こえる。あの時と同じしっとりと濡れた息遣いを感じても今は怖くなかった。
絶妙のタイミングで背中を叩かれると少しずつ瞼が重たくなっていく。
私は子供の頃に寂しくて母親に甘えた時の事を思い出していた。
『今は』私を拒まない温もりが欲しくて、穏やかなそれなのに狂おしい気分で自分から水津の背中に腕を回した。
「ね、今日みたいな事があるといけないから明日からは普通に接して」
そのくせ私の口からでたのは彼を拒む言葉だった。
「そう、だね。凛子に迷惑かけそうだから」
水津は全て分かっていると言わんばかりの優しい声で囁き、私の耳やうなじに口づけをする。
私は水津の腰に自分の足を絡めた。
「甘えん坊」
水津がクスクスと笑っているが頭の上から聞こえる。
「ちがう」
私はやっぱり素直にはなれない性分みたいだ。この心地いいぬるま湯に浸かったまま今夜は眠ろう。
「凛子、俺は貴女を傷つけるつもりなんかない」
水津の声がどこか遠くに聞こえた。
電車に揺られながら考えていたのは、水津からもらったメモ用紙のことだ。
彼は何のために私のアパートまで来るのだろう?関係を精算するためなのだろうか。見当がつかなかった。
アパートに着くと、水津がいつ来るのか気になってしまい何も手につかない。
仕方なしに風呂に入ると、今日一日の疲れが襲ってくるような気がした。
温かくて気持ちよくて、少しずつ瞼が重たくなっていく。少しだけ。と、言い聞かせて私は目を閉じた。
「凛子……!」
微睡の中、誰かの大きな声に驚いて私は覚醒した。
「だれ?」
重たい瞼を開けると、水津が必死な顔で私を見下ろしていた。
私はバスタオルで身体を包まれて水津に抱き抱えられている。
知らない間に眠ってたようだ。
それにしても大袈裟だ。そんなに慌てなくてもいいじゃないか。
「どうしたの?」
私は眠気から間延びした声で水津に話しかける。
「お風呂でぐったりしてたからビックリした。今日倒れたし。その、心配で」
心配してくれてはいたんだ。
偏頭痛なんていつもの事だし、それで体調を崩した私を鬱陶しいと思ってくれてもいいのに。そういえば、コピー室で倒れた時もジャケットまでかけてくれた。
「あぁ。ごめんね」
頭がまともに働かず私は適当に謝った。
「昼間はすみません。あんなに酷いことをして」
水津は頬に張り付いた髪の毛を取り私の耳にかけた。昼間の胸を掴んだ時とは信じられないくらい優しい手つきだ。
今日はかなり反省したのだろうか、対応はかなり優しい。あの場では誤魔化すようにみんなの前で謝ったから、ちゃんと謝りたかったのかもしれない。
「気にしてないよ。こっちこそあんな事になってごめんね。用事があって来たんでしょ?」
むしろ、私の偏頭痛のせいであそこまでの大騒ぎになった気がするので、どちらかというと自分が謝らないといけない気がした。
水津がわざわざ来た本当の目的は、きっと、今の関係を解消する事だ。
じゃなかったら平日にわざわざ来たりなんかしない。
「あぁ、はい」
ついに関係を解消されるのだ。
でも、なぜだろう少しだけ寂しい気がするのは。
たぶん一緒に居たからだろうな。戯れ合うように肌の触れる感触はとても心地よかった。行為はなかったけれど、海に行ったり買い物に行ったりできたのはとても楽しかったから。
「しばらくは会えません」
「へ……?」
私の眠気は意外すぎるその一言で吹っ飛んだ。普通あそこまで騒ぎになったら、もうおしまいじゃないのか?それだけなのか?
「厄介な事になったけど、しばらくは、進藤を抑えて、ちゃんと話し合います」
「そうなのね」
「他にも本社でやらないといけないことがあって、この部屋には来れません」
「来たのって」
「はい。それを言いに来たのと、少し一緒にいたくて」
水津は屈託なくにっこりと笑った。なぜかわからないが、一番の目的はそれのような気がした。
「私、まだ、寝ないよ」
「寝るよ。ほら、服着て」
水津は気にした様子もなく着替えの入っている籠から、よりによってベージュのショーツを取り出して渡してきた。
順番的にはそれだけど!嫌だ!
「き、着るから、さ、触らないで!」
私は慌てて水津を浴室から追い出した。体の関係はあったけれど、下着を見られるのはとても気恥ずかしかしい。
「ほら、ここに寝て」
何とも言えない気分で私が部屋着に着替えると、水津もなぜかスエットに着替えていた。
お前は泊まる気か……!
けれど、私のベッドはシングルで二人で寝るにはとても狭い。
水津はベッドに寝そべり、私が収まるスペースを開けてポンポンそこを叩く。
これ言うこと聞かないと帰らないやつだ。
瞬時にそれだけがわかった私は、誘われるままにそこにスッポリとおさまった。
ふわっと頭に温かい息遣いを感じたと思ったら、チュッ、と生えぎわにキスされた。
「……」
私はそこを押さえながら、水津の方を見ると機嫌が良さそうに笑っている。不気味だ。
「なにもしない?」
私は痛め付けられるとかそういう事じゃなくて、別の意味で嫌な予感がして思わず水津に念を押してしまう。
「しないよ。凛子の嫌がることはもうしない」
水津は私の耳に唇を押し当てた。そのまま強く抱き締められた。
トクン、と水津の心臓の音が聞こえる。あの時と同じしっとりと濡れた息遣いを感じても今は怖くなかった。
絶妙のタイミングで背中を叩かれると少しずつ瞼が重たくなっていく。
私は子供の頃に寂しくて母親に甘えた時の事を思い出していた。
『今は』私を拒まない温もりが欲しくて、穏やかなそれなのに狂おしい気分で自分から水津の背中に腕を回した。
「ね、今日みたいな事があるといけないから明日からは普通に接して」
そのくせ私の口からでたのは彼を拒む言葉だった。
「そう、だね。凛子に迷惑かけそうだから」
水津は全て分かっていると言わんばかりの優しい声で囁き、私の耳やうなじに口づけをする。
私は水津の腰に自分の足を絡めた。
「甘えん坊」
水津がクスクスと笑っているが頭の上から聞こえる。
「ちがう」
私はやっぱり素直にはなれない性分みたいだ。この心地いいぬるま湯に浸かったまま今夜は眠ろう。
「凛子、俺は貴女を傷つけるつもりなんかない」
水津の声がどこか遠くに聞こえた。
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