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序章 彼岸の月を見つめて
1話 弔いの空、銀玲の月
しおりを挟む地平に銀の月天が昇り、たなびく灰色の雲は日天の光を地平に追いやる。
宵の空は紫紺に染まり、数多の星が天頂を目指して駆け昇る。
壮麗なる王都の『宝蓮宮』の西方門が、静やかに開いた。
西の果てには『五色の国』があるとされ、死者は西の方角に運び出される習わしである。
門から出でしは、松明を掲げた六名の舎人と、八名の武装した衛士。
後には二台の牛車が続き、その後ろを八名の衛士が守る。
牛車の屋形の屋根は、墨染めの布で覆われていた。
その布を彩るのは、五色の糸で描かれた蓮の花である。
高貴なる死者が運ばれているしるしだ。
先を行く牛車の屋形に乗りしは、『義』に準じた剣士の亡骸と二名の高僧。
続く牛車の屋形には、『第八十九紀 近衛府の四将』たちがいらっしゃる。
四人ともが濃い鈍色の直衣と烏帽子姿で、それぞれが先達の将の御髪が収められた桐箱を抱いていた。
危惧していた通りの、悲壮な結末である。
故郷は、暴虐なる宰相によって獄地と化した。
多数の貴族や士族が無実の罪で命を奪われ、民は怯えて家に籠もり、竈にすら火を入れず。
麦の粉を練り、水で喉に流し込む。
そんな爪に火を点すかの暮らしにて、どうにか命を繋いでいる。
「我らが、最後の『近衛府の四将』なのだろう……」
暗い屋形に、御年十九になられる北門の大将殿の呟きがこだました。
その隣に座す西門の中将殿は、桐箱を抱えて嗚咽を繰り返す。
宰相の実弟であり、されど兄の暴虐を止める術も無く、打ち砕かれた心を集める術も無し。
それと向き合っ東門の中将殿、南門の中将殿も、絞り出す言葉も見つからず。
揺れる屋形の壁に背を預け、ただただ過去を懐かしむ。
『近衛府』での修練は厳しかったが、素晴らしい仲間たちと巡り会えた。
剣術の稽古も、夏の水遊びも、冬の雪遊びも楽しかった。
十年の修練を経て、二百人近い近衛童子の中から、『第八十九紀 近衛府の四将』に選ばれた。
その時の、帝都大路でのお披露目行列の情景は忘れられない。
民の歓声は忘れられない。
されど、一年も経たずして、今や故国から追われる身である。
王帝陛下暗殺を企てたという濡れ衣を着せられ、やむなく国を離れた。
落ち延びた先のこの隣国が蹂躙されるのも、遠からぬ日となろう。
北門の大将殿は、東門の中将殿と眼を合わせた。
士族なれば、投降しても赦される道は無し。
だが、他の二人は違う。
宰相の弟と、辺境の農民の子。
弟を鍾愛する宰相は、弟が平伏せば歓喜の声で迎えるであろう。
身分低きであれば、受戒して袈裟を纏えば助命される望みはある。
生き延びられる者は、生き延びねばならぬ――。
闇が払われる日のために、心ある者は生き延びねばならぬ――。
士族の二将は、無音にて決意を語り合う。
東門の中将殿は、屋形の窓を少し開けた。
夜風が吹き込み、道に立ち並ぶ民が掲げる松明の炎が揺れている。
『義』に殉じた異国の勇士たちへの、哀悼と祈りが聴こえる。
この国を巻き込んだにも拘わらず、民の真の温情に涙が滲んだ。
桐箱を支える広袖を、窓より射す月光が銀に染める。
夜風になびく長い髪を押さえ、遥かなる月天を眺めた。
美しき故郷――
月窟の国――
囚われたであろう家族や後進の童子たちを思い、唇を噛みしめた。
滅びは近い――。
されど、故郷は未だ輝きを損なわず、宙に光の台を掲げている――。
*
――これは、気高き勇士たちの物語。
――時の堰を超え、黄泉の流れを渡り、滅世を打ち払う物語。
――それを、我『果てなる者』が語ろう。
――我が、次なる『世』に発つ前に。
――友よ。輪廻と祈りの物語を、汝が心に留めよ。
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