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その2

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全く以て理不尽だ。何故そんな事を言われなければならないのか全く分からない。さっきも言った通り、私はそもそも、彼と婚約した覚えなんてないのだ。だから、婚約破棄なんてこともありえないのだ。

他の男性と親しくしているのに嫉妬したから?だけど、ちゃんとした理由があるんだ。私はお父様に剣を習っている。お兄様には勉強を教えてもらっている。他にも色々あるが、どれもこれも正当な理由で行っている事だ。だから私は悪くない。悪いのは全部レオンハルト様なのだ。なのにどうして婚約破棄されなければいけないのか。全く納得いかない。そもそも何でレオンハルト様との仲を疑われなくてはいけないのか。これほどまでに繰り返すのはばかばかしいかもしれないが、やっぱり私は最初から無実なのだ。私は他の男性と仲良くしたって、それは彼にとってはどうでもいい問題だと思う。

しかしながら、婚約破棄となってしまうと、いくら言いがかりだとしても、それは絶大なる効果を発揮することになるわけだ。そして、私はこの地位を危ぶまれてしまうわけだ。

そもそも、私は浮気をしている訳ではないのだ。たまに街に出かけるくらいいいじゃないか。それもダメだというなら、一体何をすれば良かったと言うのだ。レオンハルト様はまるで私が悪者みたいな言い方をしていたが、それは違うと思う。このまま話が進んでしまったら、私は被害者であるはずだ。何もしていないのにいきなり婚約破棄されるなんておかしい。絶対に許せない。

どこからか、怒りが込み上げてきた。そして、思わず声に出てしまったのだ。

「絶対復讐してやる!!!!!!!!!!」

独り言だったつもりなのだが、知らないうちに誰かの耳に届いていたらしい。

「ええええええええええええっ???????????」

突然の声に驚いて振り返る。するとそこには見知らぬ少年がいた。

「あー、やっぱりお前か……」

私は思わず質問してしまった。

「どちらさまですか???????????」

「俺だよ。フリッツ・フォン・ベルベット」

「……ああああああっ!!!!!!!」

「やっと思い出したか。ああ、長いな……」

目の前にいる人物を見て、私はようやくその正体を思い出した。

そうだ、彼は確か隣国の王子だ。以前一度だけ会った事がある。だが、その時はあまり話さなかったし、向こうも興味なさげだったので名前までは覚えていなかったのだ。

どうしてこの場所で隣国の王子と再会することになったのか……普通ならば疑問に感じるところなのだが、このときはそんなことを考えている余裕なんてなかった。

「久しぶりだな」

「……ああ、そうですねえっ……」

なんだか、返事が難しいと感じた。一応挨拶をしてみたが、どうやら彼も同じようで、表情は特に変わらない。

「ところで、さっき何か言ったか?」

「あー、うん……ええっと……」

「何かあったのか?」

「いや、特には何もございませんけれども……」

(今度こそ復讐してやるって呟いただけなんだけどね)

「それより、何か用でもあるのですか?」

「ん?別に。たまたま通りかかっただけだよ」

偶然を装いながらも、本当は待ち伏せしていたみたいなのだが、それは言わずにおく。

「でも、本当に久しぶりに見たな。元気そうでよかったよ」

「そう見えますか?」

「まぁな。ちょっと心配だったから様子を見に来たんだよ」

「心配だったですって?私のことが?」

フリッツ王子の言葉に首を傾げる。だって、1度しか会ったことのない人間を心配することなんて、普通はないだろう。私を心配してくれたという事は、やはりそれなりに好かれていると思ってもいいのだろうか。あくまでも勝手な想像にはなってしまうのだが。でもまあ、そう考えると少しだけ心が温かくなって来るような気がする。

そしてそのまま二人でしばらく他愛のない話をする。フリッツ様は私が思っていたよりもずっと話しやすかった。元々人当たりの良い方ではあったのだが、前回はもっと素っ気ないというか無関心といった感じだったように思う。それが今ではこんなにも普通に接してくれる。それは私にとってとても嬉しい出来事であった。しかし楽しい時間はあっという間に過ぎて行くもので、そろそろ帰らないと日が暮れてしまう。

また明日も会う約束をした私は、名残惜しく思いつつもその場を離れる事にした。だが、いざ別れようとした時、突然腕を強く掴まれる。何事かと思い顔を上げると、いつの間に近づいて来たのか、すぐそこにフリッツ様の顔があった。思わず息を飲むほど整った容姿にドキリとする。だが、次の瞬間、私はとんでもない勘違いをしていた事に気付いた。彼の瞳には怒りが宿っていたからだ。

「お前、誰だ?」

「えええええええっ?????????」

「なんであいつと同じ匂いがすんだ?」

フリッツ王子の顔がだんだんと強張った。やっぱり、私にはその理由が分からなかった。
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