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その3

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「しかしながら……あなたがたが私にそのようなことを言ってしまっても大丈夫なのですか?」

この質問は、一種の好奇心によるものでした。

「ええ、問題ありませんよ。私たちが使える由縁は、正義による契約なのです。正義のない国に仕える必要など、ないのです」

軍人としての誇りに充ちた答えでした。少しずつ、疑いの気持ちが和らいでいきました。

「エリザベス様……あなたの不遇について、私たちは多大なる責任を感じております。私はあなた様の名誉が回復するのを待っています。また、そうなるように努力いたします。どうぞ、ご期待ください!」

そう言われると、期待も持てました。

「お気持ち感謝します。ですが……なにも私のために命を投げ出すようなことだけはおやめくださいませ。私のような役立たずよりも、将来有望なあなた様方の活躍を見られる方が、私としては嬉しいのですから」

「はあ、ありがとうございます」

軍人として頭角を現すだけでは、この世界で出世することはできません。王家の繁栄のため、と言うのは大義名分ですが、王子様を始めとした男性王族の身勝手な振る舞いの尻ぬぐいをすることも重要な職務でした。

なんとも酷い話でしょう?ですが、出世のためには仕方がないのです。そう言えば、私と王子様の婚約破棄の場に立ち会った貴族の中にも、泣き出しそうになるのを必死に堪えている青年がいたような……。

「私たち軍人の間でも、マルク様に対する忠誠心が、徐々に薄れているのです。お分かりのように、これは仕方のないことなのです。エリザベス様……耳を御貸しください……」


「例え、王子様が死ぬことになったとしても、あなた様は平気でいられますか?」


そんなの、当たり前です。私に対する罪、元より、王子様の存在自体が、国家に対する叛逆と言ってもいいのでしょう。私情を捨てて、王子様を糾弾することになっても、十分お釣りがくると思いました。


「実を申しますと、皇帝陛下も、現状を御嘆きになっているのです」

「皇帝陛下……それは本当ですか?」

とうとう、王子様の父親である皇帝陛下が登場しました。こうなると、真実味が増すでしょうか?

「皇帝陛下は、長男であられるマルク様をご寵愛なされました。当然、第一王子であるわけですから、このまま皇帝になられるのが筋でございます。しかしながら……皇帝陛下は、どうもそれを望んでいらっしゃらないようですね。変わりに第二王子のジェフ様をご推挙なさるおつもりだとか……」

「ジェフ様?随分とまた懐かしい方のお名前が出てくるんですね。でも、そうですね。確かにジェフ様が第二王子なんですね」

ジェフ様とは古い友人です。昔はよく一緒に遊んだものでした。

そうなんです。私にとっては、マルク様よりも、ジェフ様の方が印象に残っているのです。

ジェフ様が皇帝になるとすれば、これは勝手な推測なのですが、少なくともマルク様よりも良いと思いました。最も、まだ貴族社会に毒されていない、子供の頃の記憶に基づく推論ですので、当たるかどうかは分かりません。昔のジェフ様が、そのまま大人になっているのだとすれば、それはもう、文句のつけようがありません。


マルク様の我儘に限界を感じた皇帝陛下のお気持ちを考えると、私も少し悲しくなりました。同時に、ジェフ様に対する期待が、どんどん高まりました。




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