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あのにます
【9話・目覚めても、尚残るもの(後編)】/あのにます
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鈴乃と別れた私は一度家に戻った。
私の部屋に置き去りになっていた野乃花の荷物を手に、私は再び新宿まで戻る。
野乃花との待ち合わせ場所には、先程の鈴乃との待ち合わせ場所と同じ場所を指定した。
陽が落ちると駅前は喧騒に満たされていて、私の心情など露程知らぬ人々が大声を張り上げている。
人混みの中から野乃花が顔を出すのを待っていた。
ふと腕を掴まれる。
振り返ると私服姿の野乃花が居た。
私の顔を見て彼女は頭を下げる。
「遅くなって、ごめんなさい」
「大丈夫。言われた通り、荷物持ってきたよ」
野乃花に頼まれて持ってきたのは、私の部屋に置き去りになっていた彼女のスクールバッグだった。
水族館に行った時には持っていなかったものだ。
鞄を渡すと野乃花からはブランドのロゴが入った紙袋を手渡された。
アイロン掛けされた私の服が綺麗に畳んで入っていた。
水族館に行く際に貸した私の洋服だ。
野乃花が何か言葉に迷っていた様であったので、私は食べたいものを聞いた。
遠慮をする野乃花の手を引いて私はイタリアンの店に向かう。
東口から徒歩五分程で目当ての店に着いた。
委縮している野乃花を座らせて適当にアンティパストを頼む。
「あの時の事、謝りたかったんです」
野乃花が謝りたいと言った事はどの事だろうか。
私は野乃花の謝罪の言葉を手で制した。
「麻希さんとは、どうしてるの」
「一応、今まで通り下宿させて貰える事になっているんですけど。高校生になったら、それも終わりにしようかなと思っていて」
「麻希さんは、怒ってた?」
「ちょっとだけ怒られました。でも、心配をかけた事に対してだったので、それは仕方がないかな、って思います」
野乃花はそう言った。
麻希からは勝手な家出をした事を咎められただけで、それ以上は何も言及されなかったらしい。
野乃花の告白についてや、私と麻希のした会話についても、何も触れなかったという。
あの場で話を聞いていた以上、十分だと思ったのだろう。
野乃花に対して変わらない態度で接することが、麻希にとっての正解なのかもしれない。
けれども野乃花にとってはその結末では何も解決していないのだ。
野乃花が知ったのは私達が言う現実というものだけだ。
それだけでは意味がないのだ。
それだけであって良い筈がないと、私は思うのだ。
そう思ってはいるのに。
「あの、アオトさんは。いえ、杏さんは、誰かを好きになったことはありますか」
私は小さく頷く。
目の前にいる女の子に、とは告げずに。
それを迷うのは、口にするのを留めてしまうのは、何故だろうか。
麻希の言葉を私もやはり認めてしまっているからだろうか。
新菜の事が脳裏を過って、私は訳の分からない感情に答えを見つけようと躍起になった。
「私、分からなくなっちゃいました」
野乃花は言う。
顔を曇らせる。
その理由も意味も知っている。
彼女は夢見た。
その夢の一部に、私が居たのなら。
「あのさ、野乃花に言いたいことがあって」
私の部屋に置き去りになっていた野乃花の荷物を手に、私は再び新宿まで戻る。
野乃花との待ち合わせ場所には、先程の鈴乃との待ち合わせ場所と同じ場所を指定した。
陽が落ちると駅前は喧騒に満たされていて、私の心情など露程知らぬ人々が大声を張り上げている。
人混みの中から野乃花が顔を出すのを待っていた。
ふと腕を掴まれる。
振り返ると私服姿の野乃花が居た。
私の顔を見て彼女は頭を下げる。
「遅くなって、ごめんなさい」
「大丈夫。言われた通り、荷物持ってきたよ」
野乃花に頼まれて持ってきたのは、私の部屋に置き去りになっていた彼女のスクールバッグだった。
水族館に行った時には持っていなかったものだ。
鞄を渡すと野乃花からはブランドのロゴが入った紙袋を手渡された。
アイロン掛けされた私の服が綺麗に畳んで入っていた。
水族館に行く際に貸した私の洋服だ。
野乃花が何か言葉に迷っていた様であったので、私は食べたいものを聞いた。
遠慮をする野乃花の手を引いて私はイタリアンの店に向かう。
東口から徒歩五分程で目当ての店に着いた。
委縮している野乃花を座らせて適当にアンティパストを頼む。
「あの時の事、謝りたかったんです」
野乃花が謝りたいと言った事はどの事だろうか。
私は野乃花の謝罪の言葉を手で制した。
「麻希さんとは、どうしてるの」
「一応、今まで通り下宿させて貰える事になっているんですけど。高校生になったら、それも終わりにしようかなと思っていて」
「麻希さんは、怒ってた?」
「ちょっとだけ怒られました。でも、心配をかけた事に対してだったので、それは仕方がないかな、って思います」
野乃花はそう言った。
麻希からは勝手な家出をした事を咎められただけで、それ以上は何も言及されなかったらしい。
野乃花の告白についてや、私と麻希のした会話についても、何も触れなかったという。
あの場で話を聞いていた以上、十分だと思ったのだろう。
野乃花に対して変わらない態度で接することが、麻希にとっての正解なのかもしれない。
けれども野乃花にとってはその結末では何も解決していないのだ。
野乃花が知ったのは私達が言う現実というものだけだ。
それだけでは意味がないのだ。
それだけであって良い筈がないと、私は思うのだ。
そう思ってはいるのに。
「あの、アオトさんは。いえ、杏さんは、誰かを好きになったことはありますか」
私は小さく頷く。
目の前にいる女の子に、とは告げずに。
それを迷うのは、口にするのを留めてしまうのは、何故だろうか。
麻希の言葉を私もやはり認めてしまっているからだろうか。
新菜の事が脳裏を過って、私は訳の分からない感情に答えを見つけようと躍起になった。
「私、分からなくなっちゃいました」
野乃花は言う。
顔を曇らせる。
その理由も意味も知っている。
彼女は夢見た。
その夢の一部に、私が居たのなら。
「あのさ、野乃花に言いたいことがあって」
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