クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

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【零和 二章・認識齟齬の水面下】

[零2-3・装備]

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 ウンジョウさんの指示で、全員が動き出した。
 カイセと呼ばれたのは小柄な短髪の女性で、三十代前半くらいに見えた。
 どちらかというと中性的な顔つきをしている。
 カイセさんが困惑する私を見て、笑顔を見せた。
「宜しくね、イノリ」
「お願いします」
「AMADEUSーアマデウスーの使い方を教えるから」
 カイセさんが持っていたのは小さな銀色のアタッシュケースの様な物を持っていた。
 背負えるようにショルダーストラップが付いている。
 レベッカが背負っている物と同じ物だと気が付く。
 カイセさんやウンジョウさんも同じ物を背負っているようだった。
 その背負っている装置がAMADEUSーアマデウスーというものらしい。
 アタッシュケースらしき外見をしているが、金属製のチューブが幾つか露出しており、その先に噴出口の様な物がついている。
 それを背負い、ストラップで固定する。
 多少の重量感はあったが、背負うと身体に密着するからかそこまで気にならない。
 私の脇のベルトの位置を調整しながらカイセさんは言う。
「Air Moving Assistant DEvice and Unified System。空中移動補助装置及び統一システムの頭文字を取ってAMADEUSと呼んでるってわけ」
「アマデウス、ですか」
「高電圧で大気分子をイオン化させる事で風を起こして空を飛ぶ道具。それと、WIIG-ウィグ-っていうこのワイヤーガンをセットで使うの」
 レベッカも持っていた大型のハンドガンを渡される。
 樹脂製のグリップを握り込むと手によく馴染んだ。
 光沢を抑えた銀色の銃身をしていて、銃身の下部には円形のパーツが装着してある。
 先程レベッカの使っていた様子から察するに、ワイヤーを巻き取り収納する機構がこの円形部分のパーツ内部に組み込まれているのだろう。
 重量がその円形のパーツに集中していて、重心が銃先端にある。
 構えるには、少しコツが必要だった。
 撃ち出すものが鉛玉ではないとは言え、銃という形状の物を手にするのは違和感があった。
 カイセさん曰く、ワイヤーとは呼んでいるものの素材はカーボンナノチューブであるらしい。
 先程体験したばかりの空中飛行の仕組みが分かった。
 背負ったAMADEUSから噴出されたイオン風によって推進力を得て飛行する。
 しかし、人間を飛ばすには出力が足りずその為にワイヤーを併用する。
 ワイヤーを射出して巻き上げる動作によってその推進力と機動力を補佐するらしい。
 どちらかが欠ければ空中を移動する事は難しいらしい。
 AMADEUSだけでは人間を空中に浮かすくらいしか出来ず、WIIGによるワイヤーの巻き上げだけでは並行した場所へと人を運ぶには「振り子」の様になってしまう。
 ちなみにレベッカ達が周囲に放出していた翡翠色の光の粒子は、イオン風を発生させた副次的な反応に依るものであるようだった。
「トリガーが二つ、人差し指の方を引けばワイヤーが射出して、もう一度引けば巻き取り。中指の方を引けばワイヤーの接地面が解除されるわけ。見てて?」
 カイセさんが天井に向けて、WIIGを構えて引き金を引いた。
 くぐもった炸裂音が周囲に響いて、ワイヤーのしなり擦れる鈍い音が続く。
 私はそれを間近で見て、そしてカイセさんの説明でその仕組みを理解した。
 銃の先端部分自体がワイヤー射出の機構の一部になっているようだ。
 ワイヤーを撃ち出すだけではビル壁面に固定が出来るわけもなく、また、人間を吊り上げるだけの保持力を維持できない。
 その為、銃先端部分がワイヤーを先導して飛翔し、それが壁面に取り付く。
 取り付いた先端のパーツの構造上、取り付いた面と銃内部の間に空洞が存在しそこを真空状態に調整する。
 それによりビル壁面であろうと固定される仕組みらしい。その部分をアンカーとレベッカは呼んだ。
 ワイヤーを壁に固定し巻き取り、イオン風を受けて飛ぶ。
 プロセスとしては理解が出来る。そしてこれが、少なくとも2019年の技術レベルではないという事も。
 考え込む私を見て別の意味に捉えたのかカイセさんが私の肩を軽く叩いた。
「そんな不安な顔しなくて良いから、レベッカも下手だけど墜落なんてそうそうしないわ」
「ちょっと、カイセさん! 余計な事言わないで下さいよ!」
 傍で銃を抱えていたレベッカが口を尖らす。
 それを見てカイセさんが笑った。
 名前の聞かされていない奥にいた二人の男性も、レベッカとカイセさんのやり取りを見て笑っていた。見ていると、この集団の中ではレベッカが明らかに最年少だった。
 日ごろから弄られる立場なのかもしれない。
 しかし、ハウンドというのは何の集団なのだろうか。
 銃で武装し、空中を移動する為の機械を装備している。
 この時代の社会常識はまだわかっていないが、少なくとも、一般人と呼ぶには無理があるように思えた。
 考え込んでいた私の前でカイセさんが言う。
「肩の力を抜いて、可愛い顔が台無しよ」
「あの、ハウンドというのは何なんでしょうか」
「簡単に言うと、対ゾンビ部隊ってとこ」
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