あこかりぷす。

雨庭 言葉

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あいんしゅたいん彼女。

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彼女の部屋からは毎朝変な音が聞こえた。
平面に物体がぶつかるような音ではないが、ぎしぎしといった凄い嫌な音だった。
ベランダで話をするときには必ずそのことを注意するのだが、彼女は何も言わず、僕の話を当然のように無視した。勿論、その音が消えることはなく、今日も朝から嫌なモーニングコールが鳴り響くのだ。
僕は毎朝決まりきった朝食を食べ終え、早速水やりとサボテンの所へ向かった。すると先に彼女はベランダで煙草を吸っているようだった。姿が見えるわけではない、ただ、そこにいることだけは分かる。彼女が煙を吐く呼吸の音は、決して大きい音ではないはずなのに、僕には分かってしまった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
今日も朝が始まった、そんな感じがした。
僕はこの人を恋愛感情では見ていない、だが彼女は僕を惹きつける何かがある。朝、ベランダで会うこの関係ではあるが、彼女は何か不思議なのだ。
「あ、今日出勤だ」
「例の仕事ですか?」
「うん、仕事」
彼女は大学の先輩ではあるが、ある仕事をしているらしい。
それは僕に話せない仕事であってとても危険な匂いがする事、あまりお金にならない事とだけは言っていたこと以外は何も情報がない。もともと怪しい先輩ではあったが、プライベートも怪しいんじゃたまったもんじゃない。
僕は彼女を少し恐ろしく感じた。
「その仕事って、何か怪しい匂いがするんですけれども」
「んー、まあ怪しいっちゃ怪しいと思う。」
「先輩って、何者ですか?」
「なに、その質問」
「誤魔化さないでください。先輩は前から不思議な人なので、僕は貴方のことを時々怖くなります。言いたくなければしつこく聞いたりはしませんよ。」
彼女は煙草を大きく吐くと、少し間をおいて話し始めた。
「じゃあ、私の昔話してあげようか?」
「昔話?そんなこと聞きたいわけじゃありませんよ」
「良いから良いから、そんな野暮なこと言わないでよ」
吸っていた煙草の火を消し、ボロボロになったサンダルで踏みつけると、また新しい煙草を取り出して火を着けた。
「私、妹が亡くなったのよ。二年前にね。私の妹はとても元気な子だった、私みたいにだらしない人間とは程遠い人物で、何をやっても百点満点。私は頭は良かったけれど、妹は全部、なんでも出来た子だった。」
「、、、大変でしたね。」
「私はね、そんな妹が好きだった。私にはないものを持っている人って素敵よね、私の知らないことがありふれているって本当に素敵。だから大切だった。なのにあの事件のせいで、、、。」
「あの事件?」
「ううん、なんでもない。」
「なんですか、言ってください」
「ごめんなさい、これだけは言いたくないの。」
「、、分かりました。聞かないでおきます。」
僕は彼女のことをこれ以上聞かないことにした。
「じゃあ私、出掛けるから」
「あ、いってらっしゃい」
そうして彼女はいなくなった。彼女とのこの時間が終わる時はいつもあっけなくて、何かを喪失するような気持になる。
「いけねっ」
今日は二限目から講義だ。
僕は急いで出掛ける準備を済ませ、靴の踵を踏んずけながら学校へと向かった。

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