18 / 120
第二話 其は狂おしく美しい花の女王なり (7)
しおりを挟む◆◆◆
翌日――
体調が回復したわたしは今日も砂浜の木陰で素振りをしていた。
潮風に包まれながら剣を振る。
心地良かった。
自分の成長を実感できているからだ。
日焼けした肌が熱い日差しの中でがんばった勲章のように思える。
わたしはがんばっている自分を誇らしく感じていた。
が、
「いいや、俺からすれば足りない。何もかも」
突如、背後から響いた男の声にわたしは振り返った。
――それは異様な風貌の男であった。
たとえるならば、西部劇から出てきた薄着のガンマンと表せる服装。腰のホルスターには本物の銃が入っている。
しかし西部劇のような埃っぽい印象は受けない。
服のあちこちに細かな装飾がほどこされている。手が込んでいる。
そして身に着けている宝飾品は派手の一言。
ネックレス、指輪、ベルトの装飾など、数多く、すべてが金色。カウボーイハットには小さな宝石がちりばめられている。
しかしそのいずれよりも目立つものがあった。
銃以外にもう一つ、腰からぶら下がっているものがあった。
長く大きな剣。
男の背丈は2mほどあったが、その高さと比べてもその刀身の長さは五角に見えた。
その長さよりもさらに目を引くのは、刀身から放たれる独特の雰囲気。
その雰囲気をアイリスは知らなかった。初めてみるデザインであった。
それは和の国で生み出された、刀と呼ばれる剣であった。
大太刀に分類されるそれを見せつけるように腰の横で揺らしながら、男は口を開いた。
「だから俺が鍛えてやる。ついてこい」
◆◆◆
時は少しさかのぼり、前日の夜――
「……」
赤く染まった口元をぬぐいながら、ブルーンヒルデはベッドから立ち上がった。
疲れているアイリスはよく眠っている。
その寝顔を再確認しながら、ブルーンヒルデはポケットの中から試験管を取り出し、その中に口にたまった血を吐き出した。
ワインに使えそうなコルクの栓で試験管にフタをする。
赤く満たされた試験管をポケットに戻すと同時に、ブルーンヒルデは口を開いた。
「入ってきて大丈夫よ」
直後、ドアが開いた。
ドアの向こうにいたのはガンマンのような風貌のあの男であった。
背の高い男は少しかがみながらドアをくぐり、口を開いた。
「その子が例の少女か?」
ブルーンヒルデは答えた。
「そうよ。今はわたしの善意で保護しているけれど、そちらに引き渡す際には相応の対価はもらうわよ。この子はタダでは渡せない」
この言葉に、男は薄く笑みを浮かべながら口を開いた。
「善意による保護ねえ……血の匂いがするその口でよく言う。保護の対価はもうしっかりともらってるみたいじゃないか」
ブルーンヒルデは表情をまったく乱さずに答えた。
「これは毒消しに必要なことなのよ。この子はひどく攻撃を受けていたから体内にすばやく精霊を流し込む必要があった。そして残念ながら、私の家に注射器なんてものは無いの」
ポケットの中の試験管の存在がバレているにもかかわらず、ブルーンヒルデは堂々とそう言ってのけた。
その堂々とした態度に、男は笑みを強めながら口を開いた。
「そういうことにしておこうか。今はそれよりも大事な話がある。本題に移ろう」
そう言って男は笑みを消し、再び口を開いた。
「先の報酬の話だが、ルイステクノロジーは言い値で払うと言ってる。だがその前にひとつお前の口から確認しておきたいことがある」
ブルーンヒルデは頷き、答えた。
「もちろんわかっているわ。この子のことでしょう? わたしが調べて知ったことはすべて隠さず明かすつもりよ」
男はアイリスのほうに視線を向けながら尋ねた。
「やはりこの子はあの血族の者なのか?」
ブルーンヒルデは再び頷いて答えた。
「99%の確率で私はそうだと考えているわ。年齢に対して不相応に発育した体、その発育をうながしているであろう優秀な血をこの子は持ってる」
ブルーンヒルデは回答を続けた。
「遺伝子まではわたしには調べられないけど、それも優秀なはずよ。その根拠に精霊に対しての抵抗力が強かった。魔力の回復力も異常に高い。今日の夕方ごろ魔力の使いすぎで倒れたのだけど、家で少し休ませるだけですぐに回復したわ」
それは普通の人間の平均と比べると明らかに異常であった。
「なるほど。基本性能はウワサ通りに優秀というわけだ。だが、この子にはまだ鍛えが足りないな」
言いながら、男はアイリスの値踏みをするように視線の色を変えた。
男はその色のまま続けて口を開いた。
「俺はどっちかというと、この子はこの島に残っている方が安全だと思うんだがな。しかしルイス達はこの子を厳重な監視下に置きつつ人間らしい生活を送らせようと考えているようだ。まったくもってめんどうくさい」
そう言ったあと、男はブルーンヒルデのほうに向きなおり、口を開いた。
「ブルーンヒルデ、お前の指導方法は正しいが、俺からすれば甘い。だから俺が教育係を交代してやろう。明日から俺がこの子を鍛えてやる」
この言葉に、
「……っ」
一瞬だが、ブルーンヒルデは悔しさの色をにじませた。
この男はやりすぎる傾向がある。だから反論したい。でもできないからだ。
理由は単純。男のほうがはるかに強いからであった。
第三話 V・A に続く
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
無属性魔法しか使えない少年冒険者!!
藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。
不定期投稿作品です。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる