クトゥルフの魔法少女アイリスの名状しがたき学園生活

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
19 / 120

第三話 V・A (1)

しおりを挟む
   ◆◆◆

   V・A

   ◆◆◆

 ついてこいと言われてつれていかれた場所は、山にある池の真上だった。
 ここはわたしのお気に入りスポットの一つ。
 水は澄んでおり、小さな滝もある。マラソン中に何度か足を止めているくらいにお気に入りの場所だ。
 今日はこのキレイでステキな場所で訓練かあ、やったあ、と、わたしは喜んだ。
 でも、

(なんで池のそばじゃ無くて真上なんだろう)

 一つだけ不安になる疑問があった。
 つれてこられたのは池を見下ろせる崖の上。
 足場は狭く、不安定。
 こんな微妙な場所でアレを使ってなにをするんだろうか、そもそもアレは何がはいってるんだろう、と、わたしは視線をソレに移した。
 ここに来る前に、この人が乗ってきたと思われる船から持ち出した大きな木箱。
 運ぶのを手伝わされた時に中身を聞いたけど、「それはあとのお楽しみだ」と教えてくれなかった。すごく重いということしかわからない。
 しかし崖の上って、推理小説で犯罪現場やクライマックスシーンに使われる場所だよねえ、そんなことを考えた瞬間、男の人は口を開いた。

「じゃあ始めるとしよう。剣を構えて、光魔法を流せ」

 言われるがままにわたしは剣を構えて光らせた。
 いつも通りに意識を剣に集中させる。
 そして安定の確信を得た直後、男の人は再び口を開いた。

「安定させたな? よし、『なにがあっても』そのままの状態を維持しろ」

 言いながら男の人はわたしのほうに歩み寄り、

「え?」

 男の人はわたしをうしろから抱きかかえた。
 なぜ? そんな意味をこめた「え?」に対して男の人は何も答えず、

「え?!」

 ぽい、と、わたしは崖に向かって放り投げられた。

「ちょ、きゃああああ!」

 言われたとおり、剣を構えた姿勢のまま「ざっぱーん」と入水。
  
「ぷはっ! ちょっと! 突然なにするんですか!」

 水面から顔を出すと同時に抗議の声を上げる。
 しかし、男の人は平然とした顔でわたしを見下ろしながらとんでもないことを言った。

「よく聞け、これから手榴弾をなげこむ」

 え? しゅりゅうだん?
 しゅりゅうだんってアレですか? 投げると爆発するアレですか?
 それをわたしに向かって投げ込むと。はいはいはい、なるほど。
 って、なるほどじゃないよ! なに言ってるのこの人!
 わたしに何か恨みでも?! そんな抗議の声を上げようとしたが、それよりも先に男の人が口を開いた。

「軍警察が使う犯人制圧用のやつで殺傷力はひかえめだが、それでも直撃するとかなり危険だ。だから水中に深くもぐって衝撃をやわらげろ」 

 はいはい、なるほど? いや、だからなるほどじゃないよ! とんでもないこと言ってるよこの人!

「お前はその剣を上手く使って爆発を回避しつつ、水面に上がって呼吸しろ。そしてまたすぐにもぐる。その繰り返しだ。わかったな?」

 なるほど、まったくわかりません!

「では始めるぞ」

 その言葉の直後、本当に手榴弾が降りそそぎ始めた。
 
(はわわわわわわ!)

 慌てて真下に向かってもぐる。
 間も無く、爆発音が次々と響き始めた。

(~~~~~っ!!!)

 衝撃波に体だけじゃなく心まで揺らされる。
 わたしは一瞬でパニックに。
 とにかく安全を求めて底までもぐる。
 底は安全のように思えた。衝撃波があまり届かない。
 ん? もしかして、このまま水底を進んでいけば安全に池から出られるのでは? 逃げれるのでは?
 そう思ったわたしは早速行動を開始したのだが、

「っ!!」

 直後、わたしの進行方向で爆発が起きた。
 位置と動きを把握されてる! 先回りするように手榴弾が降ってきた! 手榴弾は勢いをつければ底まで投げ込むことができる!
 どうしよう! どうすればいいんだろう!
 迷って混乱しているわたしに容赦無く手榴弾が降り注ぐ。

(きゃ~~~っ!)

 ま、まずい……息が……。
 視界が暗くなってきた気がする。
 このまま、わたしは死んでしまうのでしょうか……。
 わたしの心は折れかけていた。
 最後のぬくもりを求めるように、太陽の光が差し込む水面を見上げる。
 水面には魚がいっぱい浮いていた。爆発の衝撃で気を失ったのだろう。
 もうじき、わたしも同じように力無く浮き上がるんだろうなあ、そんなあきらめの念を響かせた瞬間、

「!」

 目の前を一匹の魚がよぎった。
 なぜだか、わたしの意識はその動きに強く惹かれた。
 自然と、目が魚の動きを追い始める。
 ……やっぱりだ!
 この魚は爆発を避けている!
 手榴弾が爆発する前に安全な距離を取るように動いている!
 どうしてそんなことができる? 音? いや、そうは思えない。

(そういえば――)

 たしか、あの人は『剣を使え』と言った。
 瞬間、何かが繋がって答えが見えた気がした。
 確かめるために、剣に意識を集中させる。

「……!」

 やっぱりそうだ!
 あの魚は手榴弾が水面に落ちた時に生じる波紋を感知して動いてる! タイミングがぴったりだから間違い無い!
 そしてその波紋はわたしにもわかる! 剣が共振してる!
 これなら手榴弾から距離を取ることは簡単!
 残りの問題はどうやって水面に上がるかだけど、その答えもすでに掴んでる。
 魚がぐるぐると同じところを回っているからだ。
 つまりそれは、手榴弾の落下位置に規則性があるということ。
 その規則性もわかった。剣が正確な落下位置を教えてくれるから。
 わたしを中心に、円の軌道で反時計周りで落ちてきてる。
 位置も時計のように12の方向だ。
 これならいける! 水面に上がれる!
 そう思ったわたしはすぐに上へと泳ぎ始めた。
 魚と一緒に、グルグルと回りながら浮上する。
 そして、

「ぷはぁっ!」

 わたしは水上へと顔を出すことに成功した。
 見上げると、男の人はもう手榴弾を投げるのをやめていた。
 男の人はわたしを見下ろしながら口を開いた。

「理解したようだな。もう池から上がっていいぞ」

 言われるまでも無く、わたしは池から上がった。
 びしょびしょになった服をしぼりながら思う。
 これ……わざわざこんな危ないことをしなくても言葉で教えることができたんじゃ……
 ふつふつと、怒りが湧いてくる。
 その怒りに対し、男の人の声が響いた。

「たしかにそうかもしれないが、こういうやり方のほうが真剣になれるからな。すぐに身につく」

 いつの間にか、男の人は崖からおりてきていた。
 近づいてくる男の人に対し、わたしは素直に感情をぶつけた。

「とりあえず、警察を呼んでいいですか? これ、完璧に犯罪ですよね?」

 男の人は表情を一切変えずに答えた。

「意味は無いぞ」
「え? どういうことです?」
「俺はルイステクノロジーの命令で動いてる。ルイステクノロジーはお抱えの議員まで有する大企業。その権力は警察どころか軍にまでおよんでる。だから俺を警察に突き出しても無駄だ」

 なんということでしょう。ここにとんでもない悪人がいます。正義の味方の王子様、たすけて!
 そんなやり場の無い怒りを心の中で響かせると、男の人は再び口を開いた。

「王子様ねえ。子供らしくていいね。残念だが、この島には俺しか男はいないぞ。俺が王子様役をやってやろうか?」

 けっこうです! って、ん? 心を完璧に読まれてる? 
 わたしがそのことに気付いた瞬間、男の人は薄い笑みを浮かべながら口を開いた。

「その通りだ。俺は感知能力を持っている。そしてお前には同じ能力を完璧に習得してもらう。その剣を使ってな」

 剣をどう使うのか、それは聞くまでも無く感覚的に理解できた。
 そして男の人はその技術の詳細について説明を始めた。

「この世界のほとんどの物質は電子と光の粒子の力で結びついている。だから光の剣はほとんどの波を拾えるんだ。……あー、すまない。さすがにこの説明は子供のお前にはまだ難しすぎたか」

 わたしの理解力が完全に置いてきぼりになっていることを感じ取った男の人は、すぐに説明をやめて謝罪の言葉を響かせた。
 そして男の人は表情を戻し、あらためて口を開いた。

「まあとにかく、明日からはその剣を使って感知能力の訓練をやってもらう。指導は俺が行う。……ああ、そういえば自己紹介がまだだったな」

 そう言って、男の人は「クイッ」と、カウボーイハットの傾きを手で調整した。
 帽子で陰になって隠れていた目がはっきりと現れ、視線が交わる。
 その力強い目でわたしを釘付けにしながら、男の人は名乗った。

「俺の名前は『V・A』(ヴィー・エース)。いまはそう名乗ってる。ヴィーでもエースでも、好きなほうで呼ぶといい」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

処理中です...