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第三話 V・A (2)
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次の日から訓練の内容はより実戦的になった。
具体的にどう変わったのかというと――
「はぅわ!」
何度目かわからない反撃を受け、わたしはまたしても大きく吹っ飛ばされた。
背中から海面に勢いよく着水。
浅瀬ゆえに、間も無く背中がやわらかな砂とぶつかり合う。
体が砂の中に浅く沈む感覚と共に停止。
直後に押し寄せた波がわたしの顔を覆い流す。
「ぶ、げほっ!」
海水が鼻から入った!
むせかえりながら上半身を起こす。
直後にヴィーさんの声が響いた(考えた結果、わたしはVのほうで呼ぶことにした。どっちが苗字でどっちが名前かわかんないし。確実に偽名だし。だから音数の少なくて呼びやすいほうを選んだ)
「立て。長く休もうとするな。時間は有限だぞ」
言われるがままにしぶしぶ立ち上がる。
でも心の中では反抗してる。鬼! 悪魔! 犯罪者!
わたしはその怒りをぶつけようとするように、大太刀を構えるヴィーさんに光る剣で切りかかった。
最初は危ないと思って手加減してたけど、今は完全に本気だ。
怒りを刃に乗せて振り回す。
だけど全部受け止められる。軽々と。びくともしない。
相手は大人なのだから当然と最初は思っていたけど、何かがおかしい。そう感じる。
その疑問の答えを探そうとするかのように振り回し続けていると、再びヴィーさんの声が響いた。
「反応された時に力任せに振り切ろうとするな。なぜならば――」
瞬間、
(え?!)
これまでとは違う感触が刃から手に伝わった。
ぬるりとした感触。
刃と刃がぶつかったのにもかかわらず、硬い手ごたえが返ってこない。
まるでなめらかな布を叩いたような感触。
そしてわたしは刃を振り下ろした勢いのまま前のめりにバランスを崩し、勢いよく転んだ。
「ぶっ!」
顔面から海面に着水。
「げほ、ごほ!」
また鼻から海水が入った!
むせかえりながら立ち上がる。
目にも入ってる。目が痛いよう。
そしてわたしがひりひりする目をこすると、ヴィーさんの声が響いた。
「なぜならば、こんな風に受け流されて反撃されるからだ。そら、いくぞ」
まじですか、くるんですか! 目があまり見えないんですけど!
だからわたしは剣に頼った。
ヴィーさんの動きを感知し、攻撃の軌道を読む。
そして訪れる予想通りの攻撃をわたしは光る剣で受け止めるのだが、
「はぅわ!」
またしてもわたしは吹っ飛ばされた。
背中から着水。そして波がわたしの顔面にざぱーん。
ああああ! また海水が! 海はわたしに恨みでもあるのか!
悶絶しながら思う。
ヴィーさんは手加減している。なぜなら、わたしの剣がまだ折れてないからだ。
ヴィーさんの剣は恐ろしく速い。目で追えない。光の剣で感知していないと反応することすらできないだろう。本当に光ったようにしか見えないくらい速い。
あんな重そうな大きな剣をそのままの速度で当てていたらわたしの剣はとっくに折れているはず。わたしの防御は下手くそだ。刃を構えているだけにすぎない。受け流しなんてまだできない。
にもかかわらずわたしの剣がまだ折れていないのは、ヴィーさんが当てる直前にブレーキをかけているからだ。
減速して刃を当てたあと、力任せにわたしを押し飛ばしているのだ。
なんという腕力。馬鹿力すぎませんか? わたし、そんなに軽いですか?
いや、軽いのは女子的にはうれしいんですけど、いくらなんでもおかしくない?
もう何度も吹き飛ばされているのに、ヴィーさんには疲れが見えない。息がまったく乱れてない。
そのことにわたしが気付いた直後、ヴィーさんは口を開いた。
「ようやく気付いたか。その剣でもっと俺のことをよく見てみろ」
見るってなにを? うーん……背が高いということくらいしかわからないなあ。
あ、なんかヴィーさんの表情が変わった気がする。なんか、呆れられてる感じがする。バカだと思われてる?
「……はあ」
あ! いまため息した! やっぱり呆れてる! バカにしてる!
このやろー、わたしだってちょっと本気をだせばすぐにできるもん!
……
………
背、高いですねえ……
これに、ヴィーさんは深くため息をついて口を開いた。
「……はあ。とりあえず、もう一回いくぞ」
そう言ったのと同時に、ヴィーさんは呆れ顔のまま突っ込んできた。
うわ、やっぱり速い。
そして繰り出された斬撃はやっぱりわたしにはよく見えなかったのだが、
(ん? いまなにか―― 「はぅあ!」
なにか変だ、そう思ったのと同時にわたしはまた吹っ飛ばされた。
背中から着水。顔面に波がざぱーん。
ああああ! 海、このやろう! いい加減にしろ!
いや、いまはそれよりも、さっきの違和感!
ヴィーさんが剣を振る瞬間、腕からなにか――いや、腕の中で何かが光ったような感じがした。
そのことに気付いた直後、ヴィーさんは薄く笑みを浮かべながら口を開いた。
「そうだ。それだ。素振りしてやるから、もう一度よく見てみろ。」
そう言ってヴィーさんは刃を鞘におさめ、再び口を開いた。
「そして覚えておけ。これは俺のお気に入りの型の一つ、『居合』(イアイ)というものだ」
瞬間、わたしは感じ取った。
腕と鞘の中で何かが爆発したように光ったのを。
その感覚と共に刃は鞘から飛び出し、巨大な銀色の三日月を描いた。
目で見えたのは振り終えた結果だけ。
速い、速すぎる。これまでのどの斬撃よりも速い。
そしてカッコいい! 真似したくなるほどに!
わたしはすぐにその衝動に従った。
同じように鞘に刃をおさめ、魔力を流し込む。
刃が白く染まり、鞘の中が銀色で埋め尽くされる。
白と銀色はぶつかり合い、押し合い始める。
ここまではいい。でもこれだけじゃヴィーさんのようにはできない!
だからわたしは意識を自分の体の中に向けた。
感じる。光の線を。魔力が体の中を流れているのを。
どうして今まで気づかなかったんだろう。自分がバカに思えてくる。
あとはこの魔力を腕に集中させて――というところで、ヴィーさんの声が響いた。
「ああ、そうだ。言い忘れていたが、注意しないといけないことが――」
え? 注意しないといけないことがあるんですか? あ、もう止まらな――
瞬間、腕の中で爆発したような感覚と共に光が広がり、そしてわたしの刃は抜き放たれた。
速い! 自己記録を確実に更新する速さ!
その確信と共に喜びの感情が沸き上がりかけたが、
「っ! 痛! いたたたたたた!」
突如、腕に激痛が走り始めた。
やっぱりこうなったか、と言いたげな顔でヴィーさんは口を開いた。
「魔力の調整をミスったら体を痛めるぞ、と言おうとしたんだが……すまんな、警告が遅かった」
ちょっとー! そういう大事なことは早く言ってくださいよー!
という抗議もできないくらいに腕と肩が痛かった。
その痛みの強さを感じ取れていたらしく、ヴィーさんは口を開いた。
「今日の訓練はこれで終わりだ。屋敷に帰ってブルーンヒルデに手当てしてもらえ」
警告が遅れたことを悪いと思っているのか、ヴィーさんの口調は少しやさしいものになっていた。
でも反省しても許さないもんね! 本当に怒ってるからね! もっとちゃんと謝って! 悔い改めて!
という思いは口に出さずに、わたしは「わかりました。おつかれさまでしたー」と返事をして屋敷へ戻った。
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