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Ep1 あなたひとりの章(2)

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「ようこそおいでくださいました!」

 ペンションのオーナーかな? あなたはそう思った。
 それはどうやら正解だったようだ。
 なぜなら、笑顔と共に近寄ってきたその男はこう言ったからだ。

「お荷物、お持ちしますよ」

 そして差し出されたオーナーの手に対し、あなたと友人は「どうも」という軽いお礼と共に荷物を手渡した。
 その時、友人はオーナーに尋ねた。

「予約していた時間よりも遅かったですか?」

 何を言いたいのか、察したオーナーは答えた。

「いえいえ、エンジン音が中まで響きますので。誰か来ればすぐにわかります」

 なるほど。友人は言葉にはしなかったがそんな表情と小さな頷きを返した。
 そしてそんな話をしている間に三人は玄関の前に到着した。
 近づいてみると、そのペンションの印象はまた違った。
 遠くからでは分からない細かい装飾があちこちに施されている。
 玄関のドアは重厚の一言。
 その真横に、ドアとは対照的に軽そうなボードが壁に立てかけてあった。
 そこには自分達の名前が書いてあった。
 今週の来客者とそのチェックイン予定時刻を示したものだ。
 ボードには自分達以外にも、一組の男女らしき名前があった。

「さあ、どうぞ中へ」

 言いながら、オーナーは引き開けたドアに右肩を押し当てた。

「よいしょ……っと」

 どうやら見た目通りに重いようだ。
 だからあなたと友達は手を貸した。

「ああ、どうも、すみません」

 その助力にオーナーが笑顔で礼を述べる。
 そしてあなたと友人はオーナーの後ろに続いて中に入った。
 友人が後ろ手でドアを閉める。

「あれ?」

 その時、生じた違和感に友人は口を開いた。
 閉めた時のあの「カチャリ」という音と手ごたえが無かったからだ。
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