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Ep1 あなたひとりの章(3)

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 直後、オーナーが声を上げた。

「ああ、それは気にしないでください」

 なぜか、オーナーはその理由を聞かれるよりも早く答えた。

「ラッチボルトが壊れちゃってるんですよ」

 ラッチボルト? 聞いたことが無い名称であったが、ドアを閉めた時に「カチャリ」という音がしなかったことから、その名称が何を指したものなのかは予想がついた。
 たぶん、ドアノブをぐるぐると回した時に、にょきにょきと伸びたりひっこんだりするアレのことだろう。
 恐らく、アレが引っ込んだまま出てこないのだ。
 だから「カチャリ」という音がしないのだろう。引っ掛かるものが無いのだ。
 でも、それでは困るのでは? あなたはそれについて尋ねようとしたが、友人のほうが先に口を開いた。

「このままだと、勝手に開いちゃったりしません?」

 その当然の疑問に、オーナーは笑顔で答えた。

「大丈夫です。重いですから、ほっといても自然には開きません」

 それでも――友人はさらなる当然の疑問をぶつけようとしたが、それを聞かれることが予想出来ていたオーナーは視線を下に向けて口を開いた。

「それに、風が強い時はそれがありますから」

 見ると、足元にはロープが置かれていた。
 それをあごで指しながらオーナーは言葉を続けた。

「それでドアノブと柱にあるフックを結んでおくんです」

 そんな面倒なことをしてるのか、大変だなあ、とあなたは思った。
 早く修理すればいいのにとも思ったが、山奥だから修理業者もなかなか来れないのかもしれない。
 あなたがそんなことを考えていると、オーナーは視線を外し、靴を脱いで廊下に上がった。

「さあさ、どうぞ。上がってください」
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