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Ep1 あなたひとりの章(20)

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 音を立てずにドアの前に立ち、ドアノブを静かに握る。
 瞬間、

「!」

 突如中から響いた音に、あなたの体は跳ね上がった。
 窓ガラスが叩き割られた音だ。
 ガラス片を踏み割る音が直後に続く。
 そして間も無く、着信音は消えた。
 友人が止めたのか、それとも誰かの手によって止められたのか。
 後者であるならば――このドアの向こうに――

「……っ」

 思考が上手く進まない。
 ドアノブを握っている手が震えているのがわかる。
 音が出ないように、震えが止まるように強く握り締める。
 そして考える。
 この後、どうする? と。
 映画のようにドアを勢いよく開けて対決する?
 ありえない。
 自分はヒーローでもなんでもない。ケンカなんてしたことのない、運動能力も何もかも人並み程度の人間だ。
 ならばノックでもしてみて反応をうかがってみる?
 それもありえない。そんな勇気は無い。
 ゆえに、出来ることは情報収集だけだった。
 音を立てないように肩をドアに押し当てる。
 このドアは外開き。つまり外から中に入る時は引いて開けるドアだ。
 つまり、外から強く押していれば中にいる者は簡単には開けられなくなる。
 だからあなたは体重をドアに預けたまま、耳をすました。
 中からは風が吹き込む音しか聞こえない。

「……」

 全神経を耳に集中させ、少しでも多くの情報を拾おうとする。
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