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Ep2 友人とオーナーの章(1)

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  友人とオーナーの章

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「あ、しまった」

 何がどうしたのと、あなたが尋ねると、友人は答えた。

「お菓子買ってくるの忘れてた」

 別にいらないけど? と、あなたは言ったが、それは友人には譲れないことだったようだ。

「ちょっと行ってくる。山を降りたところにコンビニがあったよな?」

 この寒いのにそこまでしなくても、と、あなたは言ったが、やはり友人の決意は揺るがなかった。

「車なら一時間くらいだし大丈夫。それにお楽しみの本番は夜だからな。夜食も買い込んでおきたい」

 やっぱりこいつは映画でオールナイトするつもりなのかと、あなたはあきれたが、その思いは吐き出さずに飲み込んだ。
 まあ、たしかに。夕食までにはまだまだ時間がある。余裕で戻ってこられるだろう。

「映画は先に観てていいぞ」

   ◆◆◆

 そして友人は自分の車まであと数メートルというところで呼び止められた。

「すいません! ちょっと手伝ってほしいことがあるのですが!」

 振り返ると、そこには駆け寄ってくるオーナーの姿があった。
 そして目の前まで走ってきたオーナーは息を少し切らせたまま口を開いた。

「台所や食堂では薪を使っているのですが、その薪を切らしてしまって……すいませんが、取りに行くのを手伝ってはもらえませんか? コンビニでしたら、帰りに寄りますので」

 言われて友人は思い出した。食堂に薪を使う暖炉があったことを。
 外から見ても、その証拠である煙突が二つある。
 手伝いを求めるということは、それはけっこうな重労働なのかもしれない。
 しかし断るのも悪いと思った友人は、「いいですよ」と軽い返事を返した。
 これにオーナーは笑みを浮かべた。

「ああ、よかった! では車は私が出しますのでこちらへ。あの車です」

 友人はうながされるまま、オーナーの車に乗り込んだ。
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